13 贖罪
第二王子の帰還を祝うパーティーは、セシルの意向で孤児院の子どもたちも招かれ、盛大に開かれた。
子どもたちは初めて目にするきらびやからな料理に目を輝かせ、幸せそうに口いっぱいに頬張っている。
セシルはその姿を見て優しく微笑む。
私はというと、そんなセシルを遠くから眺めるので精一杯だった。セシルへの恋愛感情を自覚すると、顔を見るのも急に恥ずかしくなった。
これまでは耳に入らなかった令嬢たちの会話も聞こえてくる。
「セシル様よ、今日もかっこいいわ」
「私も一度くらい遊んでもらえないかしら」
「やめなさいよ恥ずかしい」
やっぱり人気なんだなぁ。
私と話している時のセシルは、全く女たらしに見えないし、むしろ真面目な印象の方が強い。あんな話し方だからそう見えてしまうのだろうか。
すると、私に気づいたセシルが、令嬢たちの視線を意に介さず、こちらに向かって手を振って歩いてきた。
「リリアーナ! 来てくれたんだ」
「当然でしょ」
「嬉しいなぁ」
やっぱりこれは天性の女たらしかもしれない。なんだか気恥ずかしくて、少し冷たい返事をしてしまう。
すると、セシルが子どもたちを見つめながら、ぽつりとこぼした。
「僕はこの国を、子どもたちが健康で、幸せに、安心して育てる国にしたいんだ」
「……素敵ね。何かきっかけがあったの?」
「4歳の時にね」
そんなに幼い時から……
4歳の時に何かあったのだろうか。
気になったものの、セシルはそれ以上語らない。あんまり質問するとこの気持ちがバレてしまいそうで、私は聞くことができなかった。
***
「リリアーナ、話がある」
パーティーの後、夜の王宮のバルコニーで呼び止められて振り返ると、そこにはアルベルトが神妙な面持ちで立っていた。
「アルベルト殿下?」
彼の表情はいつになく真剣だった。
「俺は、間違っていた」
……?
「あの時お前を手放したことを、今になって後悔している。10年間、友人と遊ぶ時間もなく妃教育に耐えてくれていたつらさに、俺は思いを馳せたこともなかった」
静かな風が吹く。
「アリシアとの婚約は破談になったよ。妃教育に耐えられなかったらしい。最後は罵詈雑言を捲し立てられた。当然の報いだ」
私は彼の言葉を、最後まで静かに聞いた。これまでの彼がまとっていた傲慢で気高い雰囲気はすっかり無くなっていた。
「……悪かった」
彼は深く頭を下げた。
「もう大丈夫です。顔を上げてください」
「上げる資格など、俺にはないんだ」
しばらくして頭を上げた彼の目は、涙でうるんでいるように見えた。自信家な彼は、人前で絶対に弱さを見せない。10年婚約を結んでいた私も、彼の涙を見たことは一度もなかった。
「俺は皇太子の座を降りる。あとは2人しだいだ」
アルベルトは私の心を見透かしたかのように最後に微笑み、静かにその場を去った。
***
その翌週。
「セシル殿下に婚約者!?」
衝撃的な知らせが王宮を駆け巡った。発表したのは国王と王妃だった。
「アルベルトの婚約が破談になった以上、次に王家を支えるべきはセシルだ。彼に最も相応しい婚約者を見つけた」
そうして紹介されたのは――
「初めまして、セシル様」
美しく気品のある黒髪の女性。整った顔立ちに、優雅な立ち居振る舞い。そして、礼儀正しい挨拶。
彼女の名前は エリザベート・ローゼンハイム。
名門ローゼンハイム侯爵家の令嬢で、知性・美貌・教養のすべてを兼ね備えた完璧な女性だった。
剣術の腕前は王国1で、騎士団長とも互角のレベルだという。
私なんかじゃ、敵わない。心がズシンと重くなる。
「セシル様と並ぶにふさわしいお方……」
「素晴らしいご令嬢ね」
「これで王家も安泰だわ」
周囲の貴族たちも納得の人選だった。
一方、肝心のセシルはというと。
「…………は?」
リリアーナ以外、誰が見てもわかるくらいの不満げな顔だ。
「なんで本人に言う前に国民に発表するんだよ……」
ため息をつきながら、1人つぶやいた。どうやってこの婚約を潰すのか、早急に考えないといけない。
セシルはひとり、静かに決意を固めるのだった。




