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11 ルーベルトへの返事

 ルーベルトに返事をする決意はしたものの、これほど完璧なルーベルトとの婚約に、自分が前向きになれない理由がわからなかった。その理由がわからないと、この先もきっとうまく行かない。

 真っ直ぐに私と向き合ってくれているルーベルトにも申し訳ない気持ちでいっぱいになり、自分を責めた。


 その夜、王宮で開かれた晩餐会の後、廊下でセシルの姿を見かけた。彼もこちらに気づき、声をかけてくる。

 そして開口一番。


「リリアーナ、何かあった?」


 どうしてだろう。

 感情を表情に出さないことは、妃教育で徹底して叩き込まれた。今だって完璧だったはずだ。


「……どうして、そう思うの?」

「いつも見ているから」

「なにそれ」


 セシルが即答したのでなんだか気恥ずかしくなり、顔を見合わせて笑ってしまう。


「たしかに、ルーベルト様とのことで悩んでいたわ」

「やっぱり」

「結婚するなら、これ以上は望めないくらい素敵な人だと思う。なのに、前向きになれないの。理由もわからないまま断るのは、彼にも失礼だと思って……」


 セシルは私の言葉を静かに受け止めて、聞き返す。


「リリアーナが言う、これ以上は望めない人ってなに? まるでチェックリストがあるみたい」


 私はハッとした。セシルが続ける。


「理由なんて無くてもいいんだと思うよ。もう感情は殺さなくていい。もう少し自分の直感を大切にしてあげて」


 まるで私のことを見透かすかのような言葉に驚いた。セシルは本当に、人のことをよく見ている。


「ありがとう。セシルの言う通りだわ」

「僕に話してよかったでしょ?」

「またそんなことばっかり言って」


 セシルと話したおかげで、心が少し軽くなった。理由なんていらないんだ。今の気持ちを正直に、ルーベルトに伝えよう。


 数日後――


「リリアーナ嬢から誘ってくれるなんて、嬉しいな」


 私は屋敷にルーベルトを招いた。セイロン公爵家を訪ねると何度も手紙で伝えたのだが、か弱いリリアーナを隣国まで招いて何か事件や事故に巻き込まれたらいけないとルーベルトが頑なに断った。


「今日お誘いしたのは、どうしても伝えたいことがあって」


 何かを察したのか、ルーベルトは静かに私を見つめた。私もまっすぐに彼の目を見つめて続ける。


「ごめんなさい。私、あなたの気持ちには答えられない」


 少しの間の後、ルーベルトが髪をくしゃくしゃっとして項垂れた。


「わかっていたんだ。なのに自分の気持ちを押し付けて、あなたが優しいから押せば承諾してくれるかもしれないなどと、ずるいことも考えて。すまなかった」


 初めて本当の彼を見た気がした。これまでは、私に好かれようと完璧な自分を演じてくれていたのかもしれない。


「私こそごめんなさい。あなたはずっとまっすぐに想いを伝えてくれていたのに、自分のことばかり考えて向き合えていなかった」


「いいんだ。そうやって少しでも考えてくれた事が嬉しいんだ」


 ルーベルトは悲しそうな目をして私を見つめ、再び口を開いた。


「友達になってはくれないか? 未練がましい頼みだし、嫌だったら断ってもらって構わない。せめて友人としてそばにいさせてほしい」


「……あなたみたいな素敵な人と友達になれるなんて、そんなに嬉しい申し出は無いわ。でも、それでルーベルト様はつらくない?」


「君と話すうちに恋愛感情だけでなく、人としても好きになったんだ。もちろん諦め切れてはいないから、君を傷つけるやつがいたら成敗するけどね!」


 ルーベルトは私が落ち込まないよう、明るく笑った。やっぱり本当に素敵な人だ。


 こうして、私とルーベルトは良き友人として、新たに一歩を踏み出したのだった。

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