10 サンドラの正体
サンドラの国、バース王宮の会議室。そこには、ヴェスタリアのセイロン公爵家とバースの伯爵家の代表たちが対峙していた。
会議室の空気は重苦しく、誰も口を開こうとしない。
「失礼いたします」
場の緊張を破るように、サンドラが扉を開けて会議室に入った。発案者なのだからと招かれて断りきれず、リリアーナもサンドラの隣に座る。
「現在の両国では互いに関税が跳ね上がり、貿易問題に発展しようとしています。そして、その発端はヴェスタリアの公爵家とバースの伯爵家の対立にあります。そのため、まずは両家の関係を修復することが先決かと存じます」
ふだんの様子とは打って変わって、堂々としたサンドラの言葉に、一同が視線を向ける。
「しかし、我々の利害は決して一致しません!」
伯爵家の当主が言うと、サンドラがリリアーナの方を見て微笑んだ。
話せってことね。
「それならば、お互いの利害を一致させる方法を取ればいいのではないでしょうか」
「……どういうことだ?」
「婚姻関係を結ぶんです」
会場が静まり返る。
「家同士の結びつきを強めれば、自然と経済の結びつきも強くなる。お互いが損をするどころか、利益を共有できるわ」
「そんな単純な話では……」
「いいえ、単純な話よ」
サンドラが私の言葉を継ぐ。
「お互いに疑心暗鬼になっている状態だからこそ、強固な絆を作る必要があります。そのためには、家同士が『家族』になればいい」
「……」
会場の空気が変わった。
「確かに、親族になれば財産は分与され、一方的な搾取にはならない……」
「むしろ、協力が増せば商業ルートの拡大にも繋がるのでは?」
両家が顔を見合わせ、静かに考え始める。
「しかし、誰が?」
セイロン侯爵がポツリとつぶやくと、サンドラが待ってましたとばかりにニヤリと笑った。
「私はバースの王女で、セイロン公爵家の長男・クロイド様はまだ独身。こんなに都合のいい組み合わせ、ないと思わない?」
「なっ……!? サンドラ様、そのお話は!?」
サンドラはあっけらかんとした顔で言い切る。
というか、サンドラ、王女だったの!?
私は驚きを隠せなかった。
「発案者だもの。これくらいの役割、果たして当然じゃない?」
私を含め、両家の貴族たちは呆然としている。
だがその中で1人、すぐに声をあげた者がいた。セイロン公爵家の長男・クロイドだ。
「その提案、面白い。乗らせていただこう。父上、問題ないですね?」
「あ、ああ……お前がいいのなら問題はないが……」
サンドラはクロイドと目を合わせてにやりと笑っている。クロイドには事前に話をしていたのかもしれない。
サンドラがパチンと手を叩く。
「決まりね! ではこの問題は私とクロイド様で預からせていただきます。決して悪いようにはしないわ」
こうして、 あっさりと外交問題は解決へと導かれたのだった。
***
「リリアーナ嬢、やはり君は素晴らしい」
交渉が終わった後、セイロン公爵家の一員として参加していたルーベルトが私の前に現れた。
「俺は、ますます君に惹かれた」
彼は真剣な表情で私の手を取る。
「今度こそ、正式に求婚させて――」
「いた! リリアーナ!!」
遮るように、サンドラが後ろから声をかけて来た。近くまで来て、ようやくルーベルトに気づく。
「あら、ごめんなさい! お取り込み中だったかしら」
「大丈夫だ。こんな場で話すことではなかった。また日をあらためるよ」
彼はそう言って家族の元へ戻った。懐も深い。結婚するならこれ以上の人はいないと改めて思う。
だけど、サンドラがルーベルトの言葉を遮ったとき、ほっとしてしまった自分がいたことに、ようやく気づいた。そもそも、2週間毎日通ってくれて決断できていなかった時点で、答えは出ていたのだ。
今はサンドラもいるから言えないけど、ルーベルトに告白させてしまう前に、必ず自分から、今の気持ちを伝えよう。
私はそう決意した。




