1 公爵令嬢、婚活始めます!
煌びやかなシャンデリアが輝く広間に、軽やかなワルツが響き渡る。
今日は、王国中の貴族が集う社交界デビューの舞踏会だ。16歳を迎えた令嬢たちが、この日のために数年前から用意したきらびやかなドレスを身にまとい、それぞれの婚約者、あるいは同年代の令息と手を取ってダンスを踊っている。
その中で1人ポツンと立つ、艶やかな白銀色の髪にブルーのドレスを身にまとった私――公爵令嬢のリリアーナ・クラリスは、今日16歳の誕生日を迎えた。誕生日に社交界デビュー。ドラマのワンシーンだったら主人公は自分かもしれない、などと妄想を膨らませ、1人で苦笑いする。
いけない、公爵令嬢なんだから感情は表に出さずに凛としていないと。
そんなとき、会場に大きな声が響いた。全員が手を止めて、声の主に注目する。
「皆の者、注目してほしい」
婚約者の、第一王子・アルベルトだ。
やっと来た。舞踏会が始まって2時間も1人で放置されていた私は、ほっと胸を撫で下ろした。
アルベルトと婚約を結んだのは私が6歳になった誕生日だ。今日は婚約してちょうど10年の記念日でもある。
アルベルトは貴族たちの視線を意に介さず、堂々とした足取りで私のもとへ近寄った。なんだろう。何かサプライズを用意してくれていたから遅れたのかもしれない。私は内心、期待に胸を弾ませた。
「舞踏会は楽しんでくれているか? 今日は俺からひとつ、大切な報告がある」
アルベルトはそう言うと、私の手をとった。
「リリアーナ・クラリス嬢との婚約をここに破棄する!」
……は?
私は思わず目を見開いた。
アルベルトの言葉は止まらない。
「私は本当の愛を知った。アリシアこそが私の運命の相手だ!」
そして、可憐なピンクのドレス姿の男爵令嬢・アリシアを隣に呼び寄せた。アリシアはアルベルトのもとに駆け寄ると、その腕にぎゅっとしがみつき、私に怯えているかのような表情を浮かべている。
「これまで寂しい思いばかりさせてすまなかった。これからは堂々とあなたに愛を伝えられる」
「お気になさらないでください。元はといえば、あなたを愛してしまった私が悪いのです」
「何を言う。あなたのおかげで、私は真実の愛に気づいたのだ。愛している、アリシア……」
とんだ茶番だ。会場の奥で、国王と王妃が慌てた様子で立ち上がるのが見える。独断なのだろう。頭が痛い。
「2人はうまくいっていなかったのか?」
「まぁアリシア嬢の方が愛嬌があって愛想もいいし、同じ男として気持ちはわかるよな」
「リリアーナ嬢は夜も鉄壁そうだしな(笑)」
会場のあちこちからクスクスと嘲笑う声が聞こえてくる。すぐにでも逃げ出したかったが、公爵令嬢としての矜持がそれを許さない。
……まずはこの場を収めないと。私は背筋をピンと伸ばし、表情を崩さずに口を開いた。
「婚約破棄の旨、承知しました。詳細な手続きについては両家で後日話し合いましょう」
すると、アルベルトはアリシアを抱き寄せて私を非難した。
「やはりな。君ならすぐにそう言うと思ったよ」
「……なぜそうお思いで?」
「君には愛がないんだ。婚約破棄されてもその表情なのが、何よりの証拠だろう」
何よそれ。じゃあ私は婚約破棄されて泣けばよかったの? 悲しんだら婚約破棄をやめるの?
論破してやったとでも言いたげな顔が鬱陶しい。元婚約者はここぞとばかりに捲し立てる。
「この10年、君が誰かのために自分を犠牲にする姿を見たことがない。だから友人の1人もいないのだ。アリシアは自らが不遇の立場となることをわかっていても愛を伝えてくれた」
「アルベルト様……!」
アリシアが目に涙を溜めてアルベルトを見つめる。これじゃあ、まるで私が2人を邪魔していた悪者みたいじゃない……
アルベルトは何もわかっていない。
第一王子の婚約者として、私は王妃になるための教育を徹底して叩き込まれた。6歳から妃教育に追われ続け、友人と呼べる人は1人もできなかった。
これを自己犠牲といわずなんというのか。
幸いにも、アルベルトの両親はこの婚約破棄に賛同していない。ここで涙を見せて周囲を味方につけ、婚約を継続するのは簡単だ。
だけど。
婚約者がいながら他の女性に心変わりするような男など、こちらから願い下げだわ。
今大事なのは、次の一手――元婚活アドバイザーとしての冷静さが働いた。
「では、皆さまのせっかくの舞踏会を邪魔してしまったお詫びに、私からも宣言をさせていただきます」
私はくるりと振り返り、全員に向けて微笑んだ。
「アルベルト殿下には見出せなかった愛を見つけるため、この場をもって婚活をスタートいたしますわ!」
初投稿です!
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毎日数話ずつ投稿する予定です、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。