段階
「イツカ。僕実は追われてここに来たんだ。だから…すぐ出ていこうと思う。きっとここにいるのなんてすぐバレちゃうだろうから。」
コンクリートと空気の先目に居座って風の邪魔をしている。
ゆったりと流れる沈黙に言葉を乗せたイオは遠くのどこか地平線を見ているようだった。僕たちの下はかんかんと目が痛くなるような頭の痛くなるような人工物らしい光が色とりどりに咲き誇っている。
「…ダメだ。」
何も考えてはいなかった。ただその意味を理解する間に僕の口は勝手に答えを出していた。
「それはダメだ。」
イオは眼を文字どうり真ん丸にして僕のほうを見た。
今度は僕が見つめた。
「君もつかまっちゃうかもしれないんだよ。」
「捕まらない。」
「そんなのまだわかんないでしょ。」
「わかる。」
「何それ。」
言葉に言葉を重ねた。段々とイオは僕から目をそらしていった。
「勝手に出てくから大丈夫。」
今度は何も言わずただただイオを見つめた。
イオは何も言い返してこない自分に少しの視線をよこした。今度は一拍おいてからこちらを困ったような驚いたような顔で見た。
居心地が悪いのか彼の尻尾は乱雑に少々強くコンクリートに打ち付けられていた。
途端イオが弾かれたように振り向きながら立ち上がる。さび付いた扉は微動だにしていない。
名前を呼ぼうと口を薄く形を変えたと同時だった。
「イツカ。ごめん。多分。もうそこまで来てる。」
速く一定のリズムで階段を上る靴音が耳に入ってきたのは矢継ぎ早に告げられた謝罪と事実をやっと理解し終わった時だった。