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i  作者: 瀬見
2/7

変身


背中の違和感とそれから首元の苦しさで起き上がる。背中に何かついている。シャツを脱ごうとするがその何かに引っかかってうまく脱げない。よたよたと一歩前に進むと地面に転がっている通学バッグに足を取られて派手に転んだ。

焦る気持ちを抑えもせずに洗面台に向かった。

みよさんは既に仕事へ行ってしまった後のようでテーブルにはいつもの朝食のラインナップが並んでいるだろう。

意地悪く絡んでくるシャツをやっと脱いで鏡に背を向ける。

窮屈そうにいたそれはバサッと派手な音を立てながら姿を現した。

「な、」

そこには、小さな白い羽が映っていた。

開いた口が塞がらないとはこのこと、そのまま呆然と鏡の中のそれを見つめる。

触って感覚があることに驚く。鳥の羽。骨ばった根本はかすかに温かみを感じる。とってつけたものでもないらしいそれはぎこちないながらも動かすことができる。しっかりと自分の背中についている。

洗面台の鏡を正面に自分を見ると昨日と何ら変わりない自分がそこにいる。毎朝のルーティンをたどって蛇口をひねって水を出し、出てきた水を手ですくって顔にかける。もう一度自分を見るといつもの自分でやっぱり夢だったのかと恐る恐る体を横に向ける。だがしかしそれは夢でもなくそこにたしかにあった。

あまりの非現実的な状況に顔に何度も水をかぶった。結局髪の毛もずぶ濡れになったのにも関わらず自分は夢から覚めることができなかった。翳りを作った瞳に朝日を浴びて存在を主張する羽が空間から浮き出て嫌に目についた。カーテンを乱雑に引っ張った。


どうすればいい。逃げる?どこに?頼る?誰に?どうすればいい。どうしたら。


答えが一向に出ない、出せない問題に頭がどんどん塗りつぶされていく。ああ、こんな時前の自分ならどうしていた?


取っ払っていたシャツを掴んで乱暴に袖を通す。脱ぐ時と同じで簡単には着させてくれない。具体的な解決策を考えることもできないでそのまま部屋に引き返す。

自分の部屋に転がっているバックを乱暴に蹴りどけて掛け布団を羽織る。心臓の音がいきなり耳に入って来た。いつもより早く、浅い、気持ち悪くなるような心音が薄い掛け布団の中で反響している。


枕元に置かれたスマートフォンに手を伸ばし検索履歴の一番上をタップする。


トピックにはまた新しい獣化の記事が掲載されている。病か薬か。人間か。そんな不安をあおるような題名の下にずらっと今までの記事が並んでいる。

16歳少年に突如として現れたそれはまるで犬の耳と尻尾である。15歳少女に謎の鱗。18歳少年に鋭い牙と爪。下にドラッグしていくと動画がまたいくつか掲載されていた。その一つ黒い翼が映った画面をタップする。それをもつ青年は一人の少女を抱えながら数人の警官のような人物たちに囲まれていた。青服の集団の手には銃のようなものが握られている。青年が動いたと思った瞬間バッと空に舞い上がっていった。砂埃と警官の険しい顔。動画はここで終わっている。

また一つ下の動画を再生すると網の中で必死にもがく何かの耳を持つ男性が映った。麻酔銃がすでに撃ち込まれているようですぐにぐったりとしてしまった。動画はここで、終わっている。

何個も同じような短い動画が下に並んでいた。そこには見るのもはばかられるような人に対しての扱いではないものもあった。

大量の動画の下にはこれまた大量のコメントがあった。

かわいそう。動物愛護団体が黙ってないんじゃない?

本物なわけないCGに決まってる

怖すぎ!外でれん引きこもる

様々な感想。憶測が飛び交ってまとまりをもっていない。

だが概ね気味が悪いというのが世論のようだ。

あまりにも自分勝手なコメントを読んでは沸々とどこからか怒りがわいてくる。ニュースの記事を読んでも動画を見てもコメントを遡っても解決策は全く見当たらない。ただ一つバレたら国のモルモットになるだろうことしか頭には残らなかった。バレたくない。みよさんにこれを見せたら迷惑をかける。いや、それ以前に。信じきれない。きっと通報されるに決まっている。近くに頼れる大人はもういない。親友といえる者もいない。八方ふさがりまさにその通りだ笑えない。もう逃げるしかないのかもしれない。この町から。


ある日翼が生えた

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