プロローグ
十六歳男子高校生 一日翼の全て
夏は暑い。最近になって知った。
当たり前のことは僕にとっては当たり前じゃないし、だからと言ってみんなの言う当たり前じゃないことが僕の当たり前かと言われるとどこか納得いかない。
十六回目の夏は記録的猛暑で50年ぶりだと騒がれている。画面の向こうで映される空はどこかのっぺりしていて見ていると吸い込まれそうだ。
窓枠で飾られた青を覗き見るとやはりムラなく塗られたデジタル彩画であって思わず飛び出したくなるようだった。
両親の十三回忌、毎年この季節は自分にとって冷たくしじまな夜の記憶しかなかった。
引き取り手の遠い親戚であるみよさんは僕のこの感情を助長するような存在だった。
高齢とは思えないほどしっかりとした彼女は毎年同じように線香をあげては無表情に僕を一瞥することなく早々とこのしきたりを切り上げてしまう。
みよさんに文句はないしどうこうしてほしい要求さえないが、如何せんどちらも会話を好まない人種だったのかお互いの間には気まずい部分がかなりある。
直そうと努力したことはなかった。人と関わることは自分にとって相手を信用することだ。自分の弱い部分を曝け出して大事にしている場所を明け渡す。そんな恐ろしいことは無理に決まっていて、自分が悪いのだと決めつけて本当のことを見ようとしない癖があるのがわかっていたからに過ぎない。
それに静粛に執り行っていたそれはどうしようもない覆らない事実を突きつけられ、変えることのできない不変の事実に敗北したとも言える。
学校では隅っこの席でずっと寝ているやつ。友達なんてなれ合うだけ無駄で笑いあう偽善でなんて過ごしていたくなかった。
そんな嘘で相手を守っているのだと勘違いしている自分を守っている自分がやはり嫌いだ。
当たり前に日常は過ぎていく夏休みなんておおそれた名前のおおそれた大型休暇は気づいたときにはたったのこれっぽちしか残らない。
時間なんて感覚忘れていたし、これからも思い出すことはないと思っていた。
朝起きたこの衝撃を受ける前までは。