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敬語でだらだら、でもリズミカルな文体でコメディ

急速に大物お笑い芸人の性的にスキャンダラスな記事が拡散しました

 急速に大物お笑い芸人の性的にスキャンダラスな記事が拡散しました。

 

 それは年末年始のまったり期間だったものですから、僕はちょっとばかり驚きました。年末年始と言えば、お笑い芸人達の代表的な活躍期間です。多くのテレビ番組にお笑い芸人達が登場し、「もう見飽きたわ」と思うほどに、いえ、思ったとしても視聴者がお笑いを見続けてくれる数少ないサービスタイムです。本当か嘘かは知りませんが、この時期で年間の収入のほとんどを稼ぐ芸人もいるらしいです。

 当然、その大物お笑い芸人だってそれは同じです。様々な番組に出まくっています。仮に既に撮り終えている番組が放送できないなんて事態になったのなら、テレビ局側は大迷惑でしょう。実は僕は少しばかりマスコミ関係に知り合いがいるのですが、その知り合いは「勘弁してほしい」と愚痴を言っていました。

 しかし、そんな嫌がらせのようなタイミングで記事を出したのだから、週刊誌側には相当の覚悟と自信があると見るべきでしょう。実を言うと第一弾の記事は、まだ確信的と呼べるような証拠を週刊誌側が出していなくて、だから、世間的には「第二、第三の記事が絶対にあるぞ」と身構えているような状態なのでした。

 特に動画チャンネルの主やブログなどで稼いでいる人達は、週刊誌が出す決定的なスキャンダルの証拠に期待をしているようでした。彼らはアクセス数が増えれば増える程、お金を稼げるのです。既に彼らはこのスキャンダルで大金を稼いでいるのですが、もし期待通りの記事を週刊誌が発表したなら、更に大金を稼げるのは明らかでした。

 が、なんの焦らし戦術なのかは分かりませんが、週刊誌はそれから発表する記事で客観的な証拠と呼べるようなものを何一つ示さなかったのです。

 ホテルで飲み会が開かれた記事や、数十年前のナンパ手段についての記事や、一読で信憑性を疑わざるを得ないような下劣な内容の記事(この記事は、流石に本気にする人は少なくて、あまり話題にもならず、自然消滅していきました)。

 

 一体、いつ証拠の記事は出るのだろう?

 

 それは、ちょうど、世間的にもそんな疑問の声が聞こえ始めた折でした。

 「あの人、あの週刊誌に勤めているんだよ」

 とある飲み会で、僕は偶然に件の週刊誌に勤めている人と一緒になったのです。知り合いから教えられて、好奇心が抑えられなくなってしまった僕は、勇気を出してその彼に近付いていきました。

 既にその人はかなり酔っているようでした。頭を垂れて、ちょっと辛そうにしている。可哀想だとは思いましたが、大物芸人のスキャンダルについて尋ねるのなら好都合です。判断力が鈍っているでしょうから。

 「あの大物芸人のスキャンダルってどうなのですかね? まだ、何か隠し玉を持っているのでしょう?」

 テレビ局に大迷惑をかけてまで発表した記事です。それに、幸いにも年末年始はそれほど大きな事態にはなりませんでしたが、その後、その大物芸人は活動停止に追い込まれてもいます。まさか真っ赤な嘘な訳がないでしょう。嘘で済ますには、大きく話題になり過ぎています。仮に嘘で小銭稼ぎがしたいと思っていたのなら、もっと小規模で済まそうとするはずです。

 「随分前の歌にさ」と、その人はそう僕の問いを受けて語り始めました。

 「疑い深くなったのは週刊誌の所為だとかなんだとか、そんな歌詞があるんだよ。つまり、随分と前から、“週刊誌の言う事なんて当てにならない”って世間では思われて来たって事だよ」

 酔っている所為でしょう。なんだか愚痴を言うような口調でした。だから、僕はそれを聞いて、きっと記事が嘘だと思われて嫌な思いをしただとか、そんな話をするのだろうと思っていたのです。

 ところがです。それから、その人はこんな事を言ったのでした。

 「普通、あんな馬鹿な内容の記事、信じるなんて思わないじゃん」

 

 ――へ?

 

 と、僕は思います。だから、

 「あの、それってどういう……」

 と、尋ねたのです。すると彼はこんな事を言うのです。

 「だから、世間から“どうせ嘘だ”ってスルーされるだろうと思って書いたフィクションだったんだよ、あれは」

 僕は驚きます。

 彼はまだ語り続けました。

 「なのに、それをまるで真実かのように、ブログだとか、動画チャネルの主だとかが扱ったもんだから、信じる人がたくさん出て来ちゃって」

 大きく溜息を洩らしました。

 それを受けて僕は訊きます。

 「あの……、つまり、あの記事が事実である事を示す客観的な証拠なんてものは……」

 項垂れながら、彼は返します。

 「ないよ、そんなものは」

 

 恐らくは、こういう事なのでしょう。

 週刊誌は、1~2週間程度で忘れられるように、敢えて嘘だと分かるような記事を書いたつもりだった。ところが、ブロガーや動画チャネルなどが金目当てでそのネタに飛びついて拡散し、想像以上の大騒ぎにしてしまった。結果、週刊誌側は引くに引けなくなり、それっぽい記事を書き続けざるを得なくなってしまった……

 

 「動画チャンネルの連中は、大体個人で活動しているんだろう? 年末年始に仕事をがんばるなよ~」

 

 彼はそう言うと苦悩の表情で、頭を抱えました。

 “なんだかなー”

 と、それを見て僕はそう思ったのでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 芸人が可哀想。 でも、現実に起こりそうな気もしてちょっと怖かったです。
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