少年と少女は出会う
いつもの様にフィンは死にかけていた。生まれてこの方何度目かのそれであるので慣れたものではあるが、さすがに今回の発作は尋常でなく苦しく、
(ようやくこの苦しみから解放される…)
止まらぬ荒い息の中でフィンは思った。思えば家族には苦しみしか与えてこなかった。5歳で患った大病から生還したものの、体は弱く、一年のほとんどをベッドの上で過ごす事になった。以来、両親を悲しませるだけだった日々もようやく終わる。
大きく一息つく。ふと目の端にキラキラしたものが映った。そちらに顔を向けると---天使がいた。
黄金のくるくるとした巻き毛と宝石のような碧色の瞳、薄紅の頬にザクロの実のような唇。
(お迎えがきたんだ)
今まで見てきた絵の中の天使の何倍も天使というのは綺麗なんだなあと、火照る体とは逆に頭は冴えわたって、フィンは呑気にそんな風に思った。天使の唇がゆっくり開く
「生きたいか?」
(生きたいか?…か)
思えば誰もそんな事は言わなかった。自分に望まれるのは生きていて欲しいという切な願いだけで、フィン自身がどうしたいかなどは-おそらくその答えが怖くて-聞かれたことは無い。
「私、は-----」
サッとどこからが風吹く抜けたと思うと、すうっと呼吸が楽になった。時間が止まったように嘆く両親も難しい顔をした医者も何かを耐えるような表情の侍女も動かない中、天使が近づいてくる。
自分が死ねば家族はもう何度となる悲しみから解放される。親戚たちからの嫌味も過ぎたる身分に対して何一つ満足にできないもどかしさからも----
でも、
「生き、たいっっ」
指先一つ満足に動かせない、走ることもできない、大好きな家族に苦労しかかけていない身だけど…
生きたいのだ、最期のその瞬間まで。
ふわり、と天使がほほ笑んだ。
(かわいい)
そう思うとフィンは意識を失った。