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第39話 パリ万博


 日本の狭いアパートに戻り、カレーライスを食べて、のんびりコーヒーを飲んでいた時だ、


「ねぇねぇ、ユミさんからのメールよ」

「ユミさんから?」


 卓上3Dディスプレイを見ている結菜さんの横顔が、どんどん興奮していくのが分かった。


「何て言ってきたの?」


 すると、突然大声を出した。


「私パリに行く!」


 なんか嫌な予感。


「ユミさんは何て言ってきたんだよ」

「パリでサムライと出会ったんですって」

「はあっ」


 また突拍子もない話が出て来たではないか。

 ユミさんは今ダニエルさんと、確かにパリを旅行中なんだろう。カヤンのお城をほったらかしでいいのか。

 だが、結菜さんは自分の世界に浸りきって、しきりに興奮している。


「サムライって多分あれだろう。ジャパンフェスティバルとかの催し物で、パリに在留している日本の方が仮装しているんだよ」


 ところがメールには、サムライよりもっと興味深い事が書かれていたようだ。


「サスケっていうブランドの斬新なファッションが、パリっ子の間で話題になっているんですって」

「サスケ!」


 結菜さんは確かにサスケと言った。


「サスケって、まさか」


 おれは戦国時代に秀矩となり猿飛佐助と出会った。霧隠歳三の配下で、その佐助は何と女性だった。

 その後はいろいろ有ったが、現代から戦国時代に来た結菜さんのアイフォーンで、佐助は様々なファッションの写真を見せられている。

 結菜さんはパリに行くんだと、カレーライスの皿もほったらかして、そそくさと旅行の準備を始めるではないか。


「あの、ねえ、結菜さん、フランスまで行くのに一体飛行機代が幾ら掛かると――」

「やっぱりあちらは空気が乾燥しているでしょ。化粧水は欠かせないわよね」


 おれの言葉がまったく耳に入らないのか、結菜さんはメイク用品から何から、次々とキャリーバッグに詰め込み始めた。


「あと問題は洋服なのよね。何しろファッションの都パリなんだから」

「結菜さん!」


 おれは少し声を大き目にして言った。


「飛行機代が幾らになるか分かって――」

「ユミさんがまた迎えに来てくれるんですって!」

「えっ」



 その日、ユミさんは突然目の前に現れた。迎えに来てくれるというから、またプライベートジェットかと期待したんだが、


「結翔さん、お元気ですか?」

「ユミさん!」


 リビングルームにユミさんが立っているではないか。

 アチャ~、完璧狭い部屋を見られてしまった。


「あ、あの、狭っくるしいとこですが、どうぞ楽になさって下さい」

「有難うございます」

「えっと、何かお飲みになりますか?」


 おれは急いでコーヒーカップを持ってくると、


「あの、コーヒーを――」

「結翔さん」

「はい」

「今すぐパリに行きましょう」


 これに驚いた結菜さん、


「あっ、待って、私の荷物!」


 結菜さんが急いでキャリーバッグを掴み引き寄せる。


「靴靴、靴を履かなきゃ」


 直後に、周囲の空間がゆがんだ――

 こうして、おれと結菜さんは、慌ただしくユミさんから再び時空移転をされたのだ。



 これが、パリなのか?

 3人は大きな建物の前に立っていた。イメージしていたのとは、少し違う感じだ。確かに石造りの重厚な建物が並んでいるところを見ると、此処はあの有名なパリなんだろう。だが、何かが違う。何と無く薄暗く、それに、通りを歩く人の服装が変ではないか。結菜さんも少し戸惑った様子で、周囲を見まわしている。


「ユミさん」

「はい」

「あの、此処はパリなんですよね」

「はい、ただし1775年のパリです。気が付かれましたか?」

「1775年!」


 おれと結菜さんは同時に声を上げた。


「そして此処は万博会場の前です」

「えっ、万博って、あの、有名なパリの万国博覧会の事ですか?」

「そうです」

「だけど……」


 パリ万博って、確か1800年代の中頃じゃなかったか?


「時代の流れ、変化のスピードが変わってしまったんじゃないかしら」

「…………」

「あそこを見て下さい」


 ユミさんが後ろを指差した。


「あれは――」

「エッフェル塔です」


 そこには組み立て中の鉄塔、つまりエッフェル塔が建ちつつあった。


「予定外に万博計画が早く進んでしまい、建設が追い付かなかったそうです」


 やがていろいろ分かってくる事だが、この時点でおれの知っている歴史から、駒が百年も早送り、つまり前倒しして起こっていたのだ。

 人類の歴史はホモ・サピエンスから始まり、文明らしいものが発達するまでに約20万年もの年月が必要だった。フランスの街角で、それまで馬しか知らなかった人々が、自動車という乗り物を目にするのは1769年だ。それから2百年後にはジェット戦闘機が空を飛んでいる。話を進めると、さらに未来の人間がタイムマシンを発明する事は理論的に証明できる。それは人類の歴史における必然の出来事なのだ。

 文明発達の様子をグラフにすると、人類史上で最初に起きた四大河文明であるメソポタミア、エジプト、インダス、中国文明を挟む20万年ものなだらかな線が横に伸びている。縦軸が文明の進度で、横軸が歳月、時間である。それが数百年ほど前から目立って上がり初める。産業革命が18世紀半ばから19世紀にかけてイギリスで起こったのだ。各種産業の変革と石炭利用によるエネルギー革命、それにともなう社会構造の変革のことである。さらにその後の2度にわたる世界大戦では兵器の開発を加速させ、20数年で複翼のレシプロ機からジェットの時代になる。

 カーブは急角度となり、2百年掛かって形成された変化が、20年程までに縮まってしまうのだ。さらにAI革命が興り、そしてついに人は未経験の事態を迎える。

 グラフはもはやカーブの最終局面、人類文明史の変化率は限りなくほぼ垂直に近くなってゆく。そのようなグラフを想像してみてほしい。これでは文明発達グラフは横軸の先へ進めなくなってしまうではないか。そこでは時間の尺度が変わらざるを得ず、結果、人類が地球の外に出てゆく大航海時代が始まるのだ。

 そう、ここに至って人類には時間の壁を超えるしか、横軸の先に進む道は残されていないのである。惑星間の移動も時間の制御なしにはあり得なく、スペースシップによる大航海時代の到来も無いのである。その結果がタイムマシンの登場である。

 自動車という乗り物を初めて見た時代の人々は、ジェット戦闘機など想像も出来ないだろう。だがそのジェットの時代の人々はタイムマシンなど、やはり笑ってしまうのだ。人類の歴史は既に異次元の上昇率となっているのに……


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