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僻地にて
新しい中編作品です！
此処は泰陽皇国、実野谷の地。
初秋のある日。早朝、薬畑山の道の途中で、山の麓の選別所まで大量の薬草と楮を運んでいる荷車が、盗賊に襲われたことがあった。
護衛の武人たちが盗賊と乱闘していた時、森の中から、貫頭衣を着た一人の娘が、静かに地上の様子を窺っていた。
その娘は怒りに満ちた目をしていたが、感情的になり過ぎてはいなかった。
（また、アイツが居るっ！）
大柄で、口髭が妙に目立つ盗賊の頭を見つけると、娘は慎重に弓を構えた。迷うこと無く、悪党の首に矢の先を向けたようだ。
足場の悪い枝の上から、ほとんど姿勢を崩さず、彼女は一点を見ることに集中していた。
（絶対に、逃さないっ！！）
微かな風が止んだ一瞬を、娘は見逃さなかった。盗賊の頭の首へ真っ直ぐに、ヒュンッ……と矢を放した。
すると、コノハが射た矢が、悪者の頸動脈を見事に貫いたのだ。
その後、盗賊の頭はすぐに息絶えたのだった。
「おっ……、お、お頭が討たれたっ！」
「誰だっ、討ったのは！？ あそこの木の上に居る、小僧かっ！」
「いや、女だっ。……あ、あいつはっ、きっと山の神の化身だぁ！！」
「そーにちげーねえ！！ 逃げろっ。逃げろぉーっ！」
そうして、盗賊たちは全員、青白く顔色を変えて、一目散にあちらこちらに逃げて行ったのだった。
後日、実野谷の国司は、上記に書かれてある娘の偉業に、大変感嘆したらしい。
そして、その国司は現天皇と仲が良いこともあり、数日後には弓使いの娘に関する情報が、自然と天皇の耳にも入ったらしい。
天皇は娘の功績を讃え、「凄まじい程の手柄は、最強の『監視力』となる」と、大王家の新しい従者に大抜擢したそうだ。
２話目から本編になります。
