こんな状況だけど、意識して欲しい
「は、い。もう、大丈夫、です、よ」
私が大丈夫かと聞くと、セナはそう言って、私から離れていった。
セナは大丈夫って言ってたけど……喋り方が全然大丈夫そうじゃなかった。だから、私はセナが離れたおかげで、周りが見えるようになって、何か、扉の所が焦げて、燃えてるのが少し視界に入ったけど、私はそんなのを無視して、真っ先にセナの方を見た。
すると、セナは少し息が荒いかな? ってくらいで、特に怪我をしてるようには見えなかった。
「セナ、逃げられそう?」
だから、私はそう聞いた。
私を抱えて逃げられる? って意味と、普通に、騎士から逃げられるのかっていう意味を込めて。
さっきは無視したけど、なんか、宿が燃えてるし、多分、捕まえるのが無理そうだと思って、もう殺すために、騎士が燃やしてきたってこと、だよね。……この宿には悪い事をしたと思うけど、運が悪かったと思って欲しい。……だって、貴族のせいだし。
「は、はい、大丈夫、ですよ」
私がそう考えていると、セナがそう言ってくれた。
だから、私は情けないと思いつつも、セナに近づいて、私を抱えてもらった。
セナが居なきゃ、私、何も出来ないや。……もちろん、セナから離れるなんてこと、ありえないんだけど、せめて少しでも、体力、つけないと。
「……マスター、しっかり、掴まっててください」
そして、セナに抱えられて、そう言われた私は、言われた通りに、セナの首元に腕を回して、しっかりと掴まった。
いつも通り、セナに胸を押し当てる形になったけど、こんな状況だからか、セナも私の胸に意識する暇がないのか、顔を見ても、普通だった。
私は少し、不満な気持ちになった。
……こんな状況なんだし、こんな気持ちになるのはおかしいって分かってるけど、セナは強いし、意識、して欲しかった。
そう思って、私はセナの邪魔になるかもしれないのに、更に強く、胸を押し当てた。
「ま、マスター? 大丈夫、ですよ」
すると、セナは私が怖がってると思ったのか、優しく、そう言ってくれた。
……全然違うのに、心配そうな声でそう言われた私は、一気に罪悪感に襲われた。
「う、うん。ありがとね、セナ」
それでも、私は何とかそう言った。
「はい!」
セナは嬉しそうに頷くと、そのまま私を抱えながら、壁を蹴り破って、外に出てくれた。
……びっくりした。……いきなり壁の方向に歩き出すから、どうしたのかと思ったら、蹴り破るつもりだったんだ。……衝撃とか、全然なかったから、良かったけど、音は……あれ、そういえば、音も聞こえなかったな。……そもそも、あの炎も全く熱さを感じなかったんだけど。
「セナ、ありがとね」
私はセナがなにかしてくれたんだと思って、改めて、お礼を言った。
すると、セナは嬉しそうにしながら、街の外に出てくれた。




