第19話 再生
是非最後までお楽しみください!
「なによ.....」
お母さんは冷たい視線で俺を睨めつけた。
「あ.....いや.....」
前のお母さんとは全く違うその容貌に俺はヒヨってしまった。
「用がないなら出ていきなさい!! 邪魔なの!!」
お母さんが怒鳴りつけながらベッドの横にあるサイドテーブルに乗っていた本を投げつけてきた。
飛んできた本は俺のお腹辺りに直撃した。
その瞬間俺はエイミーとリューネの姿を思い出した。
沢山涙を流したふたりの気持ちを。
俺は大きく息を吸い込んだ。
「……お母さん!! どうかしてるよ!! 今までのお母さんに.....戻ってよ!!」
初めての反抗だった。
いつもは優しいお母さんだったが今は違う。
「どうかしてる.....? なによ。私の気持ちなんてこれっぽっちも分からないでしょ!! エイミーもリューネもグラリスも!!」
お母さんは怒鳴り返してきた。息を切らしはぁはぁと荒い呼吸をするお母さんに俺はまた大きく息を吸い込み
「分からないよ!! 分かるわけないよ!! でも.....でも!! お母さんだって分からないでしょ!! 僕やエイミー、リューネの気持ちなんて!!」
それを聞いた瞬間お母さんは、はっと息を飲んだ。
「エイミーがどんな気持ちで毎日ご飯を作ってくれてるか!! リューネがどれだけ悲しんでるか!! お母さんだって辛いかもしれないけど.....僕たちだって同じなんだよ.....」
話してる途中、涙がこらえられなかった。
でも、お母さんからの返事は来ない。
俺は涙で視界が滲んであまりお母さんのことが見れなかった。
「僕.....魔剣学校に行くよ」
長い沈黙を抜け、涙を拭い、俺はそう告げた。
今まで開かなかったお母さんの口が開いた。
「.....お金はどうするのよ」
「そんなの僕が何とかする」
「何とかするってグラリスあなたはまだ8歳でしょ.....」
「じゃぁ.....どうすればいいの!!」
また沈黙が続いた。
沈黙に耐えきれなくなり俺は最後の言葉を告げた。
「お母さんが変わらないなら.....僕が全部何とかするから」
そう言って振り返りドアノブに手をかけた。
俺は諦めることにした。今すぐ元に戻すことを。
でも、いつかは。俺がもっと強くなってお父さんも超えるときには。
ドアを開けて外に出ようとしたその時だった。
「少しは.....少しはお母さんも.....頼ってよ.....」
その瞬間だけは、今までのお母さんだった。
でも、こんな姿見た事なかった。
お母さんが弱音を吐く姿。そして、涙を流す姿。
俺はお母さんのその言葉に驚きを隠せなかった。
すぐに振り返る。
「お母さん.....」
「私は.....あなたたちの.....親なの.....違う.....?」
俺は何も考えずお母さんに飛びついた。
「確かにお父さんは強かった……でも私はそうじゃない……」
お母さんは俺を抱きしめながら震えた声で話を続けた。
「でも……グラリスやリューネの親よ……違う……?」
「そうだよ.....お母さんだよ.....大好きな.....お母さんだよ.....!」
「.....ごめんねグラリス.....こんな頼りないお母さんで」
「そんな事ない! お母さんは俺の中で世界一のお母さんだよ!」
親子揃って泣きながら長い時間を過ごした。
細くか細い手で俺の頭を撫でるお母さんは温かかった。
昔お父さんによくお母さんとの馴れ初めを聞かされていた。
あの時はめんどくさいなと軽く流していた。
でも、どれを思い出してもそれは何の変哲もない思い出でだった。
好きな人との大切な思い出。お母さんの失ったものはでかい。
だから次は俺が。
もう大切なものを失わないように。
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あの日からお母さんがエイミーに強く当たることも無くなった。
そして、ご飯もお母さんの料理をみんなで食べるようになった。
でもまだ会話は少ない。空いたひとつの席が埋まることはもうないのだから。
でもここで声を出したのはお母さんだった。
「グラリス。魔剣学校に行くって言うのは本当なの?」
俺は急いで口の中のものを飲み込み答えた。
「行くって言うか.....行きたいっていう願望です。どうにかしてお金を集めて10歳までにもっと強くなって.....お父さんみたいになりたいんです」
「でも.....グラリス。お母さんが出せる金額はせいぜい20金貨くらいよ。お父さんはS級魔剣士だったおかげで保険として毎月手当があるけどギリギリの生活ができるくらいなの」
「20金貨も出してくれるなら全然十分です」
エイミーも会話に参加してくる。
「でもグラリス様。コセオ魔剣学校の入試費用って.....100金貨くらいって聞いたんですけど.....」
不安そうに見つめるエイミーに対して俺はこう返事をした。
「大丈夫。あてがあるから。まぁ.....絶対大丈夫とは言いきれないけど」
「そのあてって言うのは.....」
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家族でお金の話をした数日後。俺はお父さんの魔剣を持ってある場所に来ていた。
そこはーー
「懐かしいなここも.....」
そう。中央都市ケントルム。数ヶ月前お父さんとリューネと来た街だ。
そして、俺は歩き進めある場所に着いた。
そこは俺とリューネが変な粉をかけられて捕まりそうになったあの裏路地であった。
そこに着き木の箱に座って待っているとある女性が俺の方に向かってきた。
って言うのも呼んだのは俺なんだけどな。
「グラリス君。お父さんの件深くご冥福をお祈りします」
「アコイスさん顔をあげてください。アコイスさんに相談があって呼び出しました」
そう。深く頭を下げた彼女。俺のあては俺たちの命の恩人。アコイス・ルードさんだ。
無理を言って手紙でここに呼び出したのだ。
それは遡ること数日前ーーーー
拝啓アコイス・ルード様へ
いきなりですがお父さんが亡くなりました。
その件についてとあるお話がしたいので僕たちを助けてくれたあの場所に3日後の正午、時間が合えば来ていただけると幸いです。
グラリス・バルコット
こんな汚い文章で正直来てくれるかも怪しかったがこの手紙を魔剣学校に送った。
小さな期待を込めて俺は集合場所に向かった。
正直これからの相談は無理も承知だ。
アコイスさんは今先生をやっている。絶対に忙しい。
でも。俺が強くなるには、お金を稼ぐためにはこうしかないんだ。
「相談って.....なにかしら。ちょっと時間がないから急ぎでお願い」
青白く光る剣を腰に刺しているアコイスさんは優しくそう尋ねてくれた。
「アコイスさん。無理なら無理って言ってください。僕をダンジョンに1人で潜れるくらいに.....魔剣学校に入れるくらいに強くしてくれないですか!!」
俺はダイナミックに土下座した。懇願だ。
あてがあるとは言ったが多分無理な事だ。
頼む頼む頼む頼む!! 俺はこうするしかないんだ!!
数秒経ってアコイスさんが口を開いた。
「グラリス君。顔上げて」
アコイスさんは俺の目線まで腰を下げて話しかけてくれていた。
恐る恐る顔を上げるとアコイスさんはまた口を開いた。
「私は無理ね」
考えうる最悪の返事が帰ってきた。
俺の中での時が止まった。
.....ああああああああああ! どうしようどうしよう!
「え、ちょ、ま、え」
俺が戸惑っているとアコイスさんがまた口を開く。
「落ち着きなさい! ちゃんと聞いてた?」
「え、ちゃんとって.....無理って事をですよね?」
「違う。私はさっき〝私は〟って言ったの」
「って言うことは.....」
「3日後またここに来なさい。その魔剣と覚悟を持ってね」
そう約束してその日は家に帰った。
どうだったでしょうか!
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