第18話 崩壊
是非最後までお楽しみください!
え……? 死亡……? なんで……? どうして……?
俺は理解が追いつかなかった。そして家族みんなも同じであった。
「ご家族にこちらを」
そう言って警察官のひとりが近くにいた俺に向かって渡してきた。
それはお父さんの魔剣であった。
その魔剣から魔力感じられず、まるで息を失っていた。
いつもより重く感じるその魔剣を受け取り俺は叫んだ。
「嘘だ……嘘だ.....嘘だ!!! お父さんがそんな簡単に死ぬはずがない!!! 嘘つくなよ!!! なぁ!!!」
俺は渡された魔剣にしがみつきしゃがみこんで泣き叫んだ。
「どういうことか詳しく教えてください」
お母さんは涙をこらえながら震えた声で聞いた。
「昨晩ダンジョンに入ったパーティが出てこないと情報が入り今朝調査したところこちらの魔剣だけが見つかりました。調べた結果グラディウス様のものと判明しましたのでお届けに参りました」
それを聞いてエイミーやリューネも涙を流し始めた。
おかしい.....おかしいよ.....そんな事ない.....ありえない.....!!
俺は何も考えられなかった。必死にお父さんの死を受け入れようとしなかった。
その日の夜の記憶は全くもって残らなかった。
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俺はそれから気が狂ったようにお父さんの魔剣を持って近くの洞窟に湧くモンスターを狩り続けた。
蜘蛛のようなモンスターにスライムのようなモンスター。どれも俺でもたおせる弱いモンスターだった。
でも、お父さんの魔剣から魔力は全く放たれていたいからか両手で振るので精一杯だった。
「はぁはぁ.....」
ピュキィーーーー!
俺は無我夢中に魔剣を振り続けた。
毎日毎日。家族と顔も合わせずご飯もほぼ食べなかった。
たまにエイミーが部屋まで持ってきてくれる不味いご飯を2日に1回ほど食べていた程度だった。
俺はこの数日間の記憶が無い。お母さんやエイミー、リューネの声も顔も思い出せない。
思い出せるのはお父さんの顔だけだった。
俺は現実から逃げるためにお父さんの魔剣を振り続けた。
この時完全にバルコット家は崩壊していた。
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あれから何日経っただろうか。今日もまた何も言わず玄関を開け外に出た。
ゆっくりと歩んでいく俺の後ろから追いかけてくる足音が聞こえた。
「グラリス様!!」
それはエイミーであった。
いつも以上に低い声で鳴り響いたその声は俺の頭の中まで響き渡った。
振り返った俺の目の前まで来たエイミーは両手で俺の肩をがっちりと掴んだ。
「はぁ.....はぁ.....毎日毎日どこに行かれるのですか!! グラリス様!!」
「そんなの.....エイミーには関係無いだろ」
俺はエイミーの手を振り払って前に進もうとした。
でも、エイミーはそれをされないように力強く肩を掴み続けた。
「離してよエイミー」
「離しません」
「どうして」
「どうしてもです」
真剣な眼差しで見つめてくるエイミーに少し嫌気がさしてしまった。
「離せって言ってるだろ!!」
俺はエイミーの両手を強く振りほどいた。
エイミーは驚いた顔でこちらを見つめていた。
「用があるなら早く言ってくれ」
俺は尖りきった口調でそう尋ねた。
するとエイミーは我慢していたのか大量の涙が溢れ出した。
「.....かぞぐを.....すぐっでぐだざい.....ぐらりずざま.....」
家族を救う。エイミーの願いはこうだった。
何が救うだ。もうお父さんは帰ってこない。いちばん強いお父さんはもう死んだ。何をしたってもう変わらない。
「無理だよ。エイミーの方が家にいた時間長いんだから.....僕には無理だよ。何も出来ない僕じゃ」
そう言って振り返り去ろうとした瞬間だったーー
パチンッ!!
「.....っ!」
俺は反射的に叩かれた左頬を抑えていた。
こっちの世界に来てビンタされるのは初めてだった。
しかもエイミーにぶたれるなんで思ってもいなかった。
「なにすんだよ.....」
俺がそう言った瞬間またエイミーが俺の肩を掴んだ。
「グラリス様じゃなきゃ.....だめなんです!! 閉じこもってしまったラミリス様を救うのも!! 気持ちが沈んでしまったリューネ様を救うのも!! グラリス様じゃなきゃ.....ダメなんです!!」
エイミーが叫ぶ。その時俺はあるものが目に入った。
エイミーの左腕に深い切り傷のようなものがあるのを見つけた。
「エイミー.....この傷.....」
「あ.....これは.....部屋から出ないラミリス様にご飯を届けに行ったら不味いとお皿を投げられてしまいまして.....その時割れてしまったお皿の破片が飛んできてしまったんです」
エイミーは少し恥ずかしそうに言った。
俺は何を考え何を言えば良いのか分からず立ち尽くしているとエイミーがさらに話し始めた。
「私は.....エイミーは何もできません。こんな傷だって治せません。でも.....グラリス様なら簡単に治せちゃいます。だから.....何も出来ない私の代わりに.....グラリス様お願いです。ラミリス様を……リューネ様を……エイミーを。救ってください」
さっきまで泣いていたエイミーの瞳からはもう涙は溢れていなかった。
その代わりに俺の瞳から涙がありえないほど溢れ始めた。
俺は魔剣を持つ力すらも入らなくなり、そのまま魔剣は地面へと落ちた。
泣きじゃくる俺を見たエイミーは何も言わずにただ抱きしめてくれた。
エイミーの胸で泣いて泣いて泣き叫んだ。
何分経っただろうか。俺は久しぶりに埋めていた顔を離した。
「落ち着きましたか?」
「うん。エイミー.....ごめん。なんかおかしくなってたみたい」
エイミーのおかげで元の自分に戻れた気がした。
お父さんの死を目の当たりにして、俺はどうこの現実から逃げるかだけを考えていた。
でももう今は違う。やるべきことがわかった。
「全然エイミーは大丈夫ですよ!! グラリス様が元気で良かったです」
「今からお母さんとリューネの所に行くよ」
俺はそう言いながらエイミーの腕にあった傷を治した。
そして落としてしまった魔剣を拾おうと手を伸ばし掴んだ。
その時だった。
ブワァァァァアン!!!
「なっ、なんですか!」
魔力を失ったはずの魔剣から凄まじいほどの魔力が俺の手の中に溢れ出てきた。
お父さんの魔剣は生き返ったのだ。
俺は決心した。
俺がこの魔剣で、お父さんの魔剣を使って、強くなって、俺が家族を守るんだと。
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俺はエイミーに説得されたあとすぐに家の中へと戻った。
お母さんの様子を見に行く前に俺はリューネの所に向かった。
「リューネ。入っていいか」
返事はすぐに帰ってこなかったが数秒後に「ええ」と短く返事が返ってきた。
ドアを開けるとリューネはベッドに座っていた。
何も言わず俺は隣に座る。
「.....大丈夫か?」
静かに俺はそう尋ねた。
また数秒の沈黙が現れる。
「…………」
長い沈黙の後、リューネは答えた。
「……大丈夫なわけないでしょ! 2回も.....2回も親を失って! グラリスには.....分からないわよ.....」
リューネは叫んだ後、大きな瞳から大粒の涙が溢れ出し、俺の身体に飛び付いてきた。
親を失った悲しみからなのか、それとも気持ちのはけ口を見つけた安心からか。
リューネの涙の理由は分からなかった。
「ごめん。俺はリューネの気持ちは分からない。でも.....でも。俺は絶対死なないから。お母さんもエイミーもリューネも絶対に死なせないから」
俺はそう言ってリューネを抱きしめた。
俺が泣き叫んだ時と同様にリューネは泣き叫び続けた。
それから数分後。リューネが何かを言った。
「.....絶対。.....グラリスは絶対死んじゃダメだから.....」
「あぁ。約束だ」
それからリューネが落ち着くまでずっと頭を撫で続けた。
長い時間が経ち、リューネが顔を上げた。
「落ち着いたか?」
「うん……ある程度は……」
「じゃぁ俺はお母さんの所に行ってくるね」
そう言って離そうとしたときだった。
「……まだ……だめ……」
リューネがコクンコクンと首を上下に揺らしながらそう答えた。
きっといろいろ考えすぎて寝れていなかったのだろう。俺はリューネをベットに横に寝かせ布団をかけた。
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リューネが泣き疲れて寝てしまったのを確認してから俺はお母さんの部屋の前に来た。
「お母さん。入っても良いですか?」
リューネの時とは違い返事はかえってこなかった。
でも俺はここでちゃんと話をつけなきゃ行けないと思い、返事が来ないままドアを開けた。
散乱した本に服。ボサボサの髪の毛に壁には引っ掻いたような傷。
そこに広がっていた光景はまるで俺の知らない人の部屋であった。
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