第15話 エイミーちゃん大号泣大作戦
是非最後までお楽しみください!
「お前……うちの子どもに何してんだ!!」
お、お父さん!?
響き渡る金属音と共に魔力どうしがぶつかり合う。
バチバチと赤と水色の光がぶつかり合う。
「……あなたもまた名乗らないの?」
「お前なんかに名乗る義理はねぇぞ」
両者一度後ろにステップを踏み、距離をとる。
俺はこの状況に唖然としてしまった。
アコイスさんは僕たちの恩人だ。
でも、確かにこの状況だとお父さんが勘違いしてしまうのも無理はない。
早く何とかしなきゃ……ってやばい!!
二人はもう戦闘態勢に入っていた。
二人とも強く踏み込み、両者とも相手に向かって走り出した。
「お父さん! 待って!」
そんな小さな俺の声は聞こえる訳もなく、二人がぶつかり合う寸前の事だった。
「やめて!!!」
リュー……ネ?
俺の知らない間にリューネはお父さんとアコイスさんの間に両手を広げて立っていた。
「ちょ、おいリューネ。どういうことだ」
「この人は私たちの命の恩人なの! グランディスさん早とちりすぎ!」
「そ、そうなの……か?」
「え、ええ。まぁ……」
.......
「誠に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁあ!!」
お父さんは一瞬にして剣をしまい、ダイナミックに土下座した。
困るアコイスさんの顔なんて1ミリも見ずに、ただ地面に頭を擦りつけていた。
「あー、いや、大丈夫ですので、顔あげてください」
それからお父さんにも事の経緯を説明し、アコイスさんについても説明をした。
「え、魔剣高校ってあの魔剣高校か!?」
「え、ええ。多分そうだけど……」
「やっぱ凄いと思ったんだ! 俺は魔剣高校の第一期卒業生なんだぜ!」
お父さんはすごい自慢げに話し始めた。
話し出したらキリがない……そう思った俺とリューネは目を合わせ、頷きあった。
「グランディスさん、そろそろ戻りましょう。アコイスさんにも迷惑ですし」
「あ、確かにそうだな。アコイスさん。本当に申し訳なかった。あと、本当にありがとうございます」
お父さんは深々と腰を曲げ、頭を下げた。
「いえいえ。モンスターの討伐もこちらの仕事でしたので助かりました」
さっき話の中でモンスターの話になった時、「あ、俺がそいつ倒しといたぞ」と、簡単に言っていた。
お父さんはちょっと抜けてるけどやっぱり実力者だ。
それを改めて実感した。
「では、私は学校に戻りますので。またいつか機会があれば」
「ありがとうございました! アコイスさん!」
アコイスさんはニコッと、笑いながら手を振って裏路地を出ていった。
「ところでお父さん。あのお花屋さん……」
「あぁ……ぶっ壊れた……」
「え、じゃぁお花は……買えないってこと?」
お父さんはうんうんと腕を組んで頷いた。
「じゃぁどうしましょうか……エイミーさんの二十歳記念の贈り物……」
リューネが頭を傾げる。
どうしよう。このまま何も渡さないのもあれだ。
……あ、いいこと思いついたぞ!
「お父さん。この後まだ付き合って貰えますか? あと、家にペンと便箋のようなものってありますかね?」
「両者とも大丈夫だぞ」
「分かりました! 急ぎましょう!」
「ちょ、ちょっと! どこ行くのよグラリス!」
俺は街を出て家の近くへと走って行った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
その日の夜。
「はぁ……ちょっと疲れたわグラリス……」
「だめだよリューネ。ここからが本題なんだから」
俺とリューネは何かを終えて今、部屋で何かをしようとしている。それは……
「今から手紙を書くんだよ!」
「手紙?」
「そう。名ずけて! エイミーちゃん大号泣大作戦だ!」
手紙。それはいちばん手っ取り早く感謝を伝えられる方法。
かと言って気持ちがこもってないわけじゃない。
むしろめっちゃこもる。
「……私、手紙書いたことないのよね……」
「大丈夫だよ。自分の思ってるエイミーへの気持ちを字にして表せばいいだけだから」
俺はこっちの世界に来てコソコソしていることがあった。
それは字の勉強だ。
話せても読めなかったり書けなかったりしたら意味が無い。
本を読み聞かせてもらっていた頃から俺は毎日コツコツ、独学で勉強していた。
最近ではリューネに教えることができるようにもなった。
リューネは物覚えが早く、俺より早く全ての字を読み書きできるようになってしまった。
え? 俺の教え方が上手いからって? そんな褒めないでくれよ。
「グラリス。ちょっと聞いてんの?」
「え、あ、な、なんだ?」
「……そんなに長くかける自信ないけど……それでもエイミーさんは喜んでくれるの……?」
「……ああ。大丈夫。絶対大丈夫だ。俺が断言する」
「分かったわ。グラリスを信じてみるわ」
こうして疲れながらも俺たちは、エイミーへ送る手紙を便箋に書き連ねて行った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ーー翌日ーー
「「「「エイミー! 二十歳のお誕生日
おめでとう!!」」」」
エイミーのお誕生日パーティが始まった。
このことは一切エイミーには伝えておらず、夜ご飯の時、エイミーはポカンとした表情で頭にハテナを浮かべていた。
「あ、ありがとう……ございます……」
エイミーは並べられた豪華な食事を一通り眺める。
まだ、状況を掴めていない様子だった。
沈黙が続く中、エイミーがその沈黙を破った。
「……み、みなざん……あ、ありがどう……ございまず……」
エイミーは必死に涙をこらえて二度目のお礼を俺たちに向かって言った。
「エイミー泣くな! 今日はお前が主役だ! さぁ食べるぞ!」
お父さんがそう喝を入れ、みんなで各々のグラスを持った。
「じゃぁエイミー。乾杯の一言お願いね」
エイミーはこぼれ落ちそうな涙を拭い話し始めた。
「……はい。皆さん。このような機会を作ってください本当にありがとうございます! まだまだ未熟者ですが、日々精進しますので、これからもエイミーをよろしくお願いします!! 乾杯っ!!」
その合図に合わせて全員が「乾杯っ!!」と、グラスをカチンっと、ぶつかりあわせた。
エイミーの誕生日パーティと言っても正直俺も楽しみだったのだ。
なんでかって? それは……お母さんの手料理フルコースだからだ!!!
こうして家族五人で和気あいあいと、夜ご飯を楽しんだ。
一通りご飯を食べ終わり、上記の片付けが終わった頃、俺はエイミーを部屋に呼び出した。
「ごめんエイミー。夜遅くに」
「いえ、大丈夫ですよ。本当に今日はありがとうございましたお二人とも」
そう言いながら頭をエイミーは下げた。
「な、なんでエイミーさんが頭下げるのよ! 今日の主役はエイミーさんなのよ!」
そう言ってリューネがエイミーの元に近付く。
だが、一向にエイミーの頭が上がってこない。
どうしたんだ? ぎっくり腰か? いやいや二十歳でぎっくり腰はないでしょ〜……
「ごめんなざい……ちょっどざいぎん……るいぜんゆるぐで……」
「エ、エイミー! な、泣くのはまだ早いって!」
エイミーはまだ何もしていないのに感極まって泣いてしまっていた。
余程今回のパーティが嬉しかったのだろう。なら俺たちも企画したかいがあったと思える。
「ちょ、グラリス……あなた変なこと言わないの……」
リューネが小声で俺に向かってそう言った。
……ん? 俺なんか変なこと言ったか……?
「ま、まだはやいっで……どういうごどでずが?」
エイミーは涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。
……あ、しまった。
俺はまだサプライズがあることをエイミーに言っていなかった。てか気付かれていなかったのだ。
「あ、えっと、それは……とりあえず! 涙拭いて!」
それを聞いたエイミーは「わがりまじだ」と言って直ぐに泣き止んだ。
よしよし偉い子だ。
「じゃぁリューネ。昨日作ったやつ渡してあげて」
恥ずかしそうに斜め下を見ながらモジモジするリューネ。
多分こういうのは初めてだったのだろう。緊張しているのか。可愛いなもう。
「え、えっとエイミーさん。二十歳のお誕生日おめでとうございます」
そう言ってリューネはひとつの少し分厚い手紙入れをエイミーに渡した。
「こ、これは……?」
「僕とリューネからのお手紙です。あとはちょっとしたプレゼントも入ってます」
「……今……呼んでも……いいでずが?」
もう泣きそうになってる……なんか俺まで泣きそうになってきた……
「うん。いいよ」
エイミーはその封筒を開け、二枚の手紙を読んだ。
内容はちょっと恥ずかしいからカットだ。想像におまかせする。
「うわぁぁぁぁぁぁん! グラリス様ぁ! リューネ様ぁ! ありがとうございますぅぅぅ!!」
エイミーは大号泣しながら俺とリューネに抱きついた。
エイミーがこんなになって抱きついてくることは初めてだった。
エイミーの背中を擦りながら、俺はもう一言添える。
「中にもうひとつまた入ってますよ。喜んでくれるかは分かりませんが」
「えっと……これですか?」
泣きすぎたのかすぐに涙が止まったエイミーは封筒の中からひとつ何かを取りだした。
「これって……ヘアゴム……ですか?」
そう。これが俺とリューネが作ったエイミーへの最高のプレゼントだ!
よかったら感想、評価、ブックマークの方よろしくお願いします!
どんなものでも励みになります!