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プロローグ 04

※本作品には、グロテスク・暴力的な表現(行為、言動)表現が含まれています。(1つのシーンとしては存在しませんが、性的な表現も含まれています)これらが苦手な方は、ご遠慮ください。


※作中での描写のように殺傷行為を行うことは犯罪となります。どのような事態となっても当方は一切の責任を負いかねますのでご了承ください。


※この物語はフィクションです。登場する人物・団体等は全て架空のものです。

(一部登場する実在するまたは実在した人物・地域等もございますが、あくまで設定上のものです)


※本作品には悪魔などが登場します。このテーマは宗教・思想によって解釈が異なりますので、これによって不快感を感じられる方はご遠慮ください。


長々と書きましたが上記をふまえた上で楽しんでいただければ幸いです。

 アパートに入って直ぐ、まず目に付いたのは正面の階段と1階の各部屋へと続く廊下、そして、右の側壁についた郵便受け、階段は建物の古さを現したかのように黒ずみ汚れ、奥へと続く廊下は薄暗く、突き当りまではっきり見えない。


 郵便受けには、かつてここの住人であった人の名前が書かれた紙製のネームプレート。すっかり擦れて読めなくなってしまっている。


 例の“奴”がいる部屋は、二階の角部屋。階段をゆっくりと上り始める。

 かつーんかつーん、と私の足音はコンクリートの壁に反響され通常よりも大きく響く。最後の一段を上りきると、建物前で感じた異質の何かが“それ”へと変わった。

 体の背面で受ける3階へと続く階段からの空気と、前面で受ける2階の廊下からの空気が明らかに違う。私は、そんな空気をいつものことだと気にもせず廊下を進む。


 私の姿が月明かりで照らされ、薄暗い廊下に影を落とす。廊下を進むにつれ、“それ”は徐々に濃度を増す。


 角部屋の前にたどり着いた。ドア越しにはっきりと感じる、悪しき気配……そして……

 ――血の匂い。


「報酬相応の相手って訳ね……」


 閉鎖された部屋から溢れ出す血の匂いに、中の様子は容易に窺えた。おそらく中は血の海に違いない。中級エクソシスト程度に来る仕事内容の中では滅多にお目にかかれないレベルの相手だろう。


 近くの壁にカバンを立てかけ、ドアノブに手を掛る。そして、ノブを右に捻りそのままドアを押し開けた。錆び付いてすっかり重くなったドアが、がこん、と音を立てて開かれる。


 ドアをくぐると部屋の構造上なのか、直ぐにリビングへとたどりついた。

 錆びた鉄のような血と肉が腐った臭い…こみ上げてくる吐き気を懸命に堪えて室内に視線を走らせる。


 ――見つけた!

 しかし、私が目にした“奴”は、私の予想と教会の報告にあった悪霊とは遥かに違った化け物だった。

 そいつは、ぐちゃぐちゃ、と粘り気のある音を立て、覆いかぶさるように若い女性の上で臓物を喰らっていた。


(――悪食)


 悪霊とは、実体を持たず何かに取り憑きさまざまな害を及ぼす。今回も悪霊に取り憑かれた、野犬によって起こった事件のはずだった。しかし、今、目の前で人を食らっている悪食は、実体を持ち、自ら生き物を襲う悪魔と呼ばれる存在。悪魔は悪霊などとは比べ物にもならないくらいの力を秘めた怪物だ。こいつはイグゼキューターの管轄だ。


 背筋が凍りついた――


 歪な球みたいな顔がいくつも集合し、毒々しい一つの球状の体を形勢している。その1つ1つに目はないが、その代わりに鋭い牙を持つ大きな口を備えている。大きさにして1メートル弱。その姿は教会の資料で見たことはあるが、実物を見るのは初めてだ。

 幸い奴は食欲を満たすのに夢中で、こちらには気づいていない。


(しっかりしろ私っ!これくらいでビビってたら、イグゼキューターに、父さんのように成れっこないじゃない!!)


 自分自身に怒鳴りつけ、恐怖で小刻みに震える体を奮い立たせ、強引に意識を前に向ける。その声に反応し、口元を真っ赤に染め、口元からは、腸だと思われる長い臓物をぶらつかせながら奴がこちらを振り向く。

 腸をずるり、と啜り上げると、悪食は私の胸の位置くらいまでゆっくりと浮かび上がり、新しい獲物を見つけ喜んでいるかのように、不快な声を漏らした。


 ――次の瞬間、奴は私目掛けて、文字通り一直線に飛び掛ってくる。



「やってやろうじゃないのっ!!」


 すぐさまパイソンを不気味な球体に向け、素早くトリガーを3回連続で引く。

マズルフラッシュと共に38スペシャルの乾いた銃声が轟く。しかし、全弾命中しても怯むどころか、さらに加速して突っ込んでくる。


「っ!!」


 ありったけの力を右足に込め、左に頭から飛ぶ。

 私が立っていた位置に激突した。コンクリートの壁が砕ける。まるで小爆発でも起こったかのように、アパート全体が揺れ動いた。まともに食らったらひとたまりもない。


「っの野郎!!」


 そのまま空中で振り向き、間髪いれずさらに3回トリガーを引く。しかし、無理な姿勢で発砲した弾は、まともな軌道であるはずもなく、3発中2発は壁に当たり、1発は奴を掠めるだけに終わる。

 転がりながら着地すると、しゃがんだまま左のポケットに手を突っ込み、聖水の入った瓶と取り出すと、体勢を立て直しこちらに照準をつけた悪食に向かって力いっぱい投げつける。瓶は悪食の体に当たり割れ、聖水が奴の硬い皮膚を焼く。

 肉の焦げた匂いと硝煙の匂いが混ざる。


 悪食は地面に落ち、自らの体から立ち上る紫色の煙に捲かれ。フィルターを通したような、この世のものとは思えない声で悲鳴を上げる。この隙に、パイソンのシリンダを右手でスライドさせリロードに入る。


 ポケットから取り出したクイックローダーを左手に持ったまま、シリンダのシャフトで 薬莢を押し出し、床に捨てる。そして、6発同時にリロード。このクイックローダーはリボルバー式の拳銃の最大の泣き所であるリロード時間を短縮することが出来る。


 ――その間、約2秒。


 息を吹き返したパイソンを苦しみもがく悪食に向け再び連射する。しかし、4発撃ったところで、苦し紛れに地面を抉りながら突進してきた。

 全弾撃ち込むつもりでいたため、反応が遅れ突進を避けきれず、私の体は悪食の勢いだけで弾き飛ばされコンクリートの壁に叩きつけられてしまう。一方の悪食は勢い余って隣の部屋まで突っ込んでいった。


「――あ、ぐっ」


 一瞬だけ呼吸が止まり、次に激しい痛みが背中を襲う。

 体に力が入らない……

 掠っただけなのにこのダメージだ。まともに食らったらひとたまりも無い。


 どうやら、悪食の硬い皮膚に対して、38スペシャルでは致命傷を与えることはできない、ましてやあの突進力の前では無意味に等しい。


 気力を振り絞り、壁を支えにしてどうにか立ち上がろうとするが、膝が震えてうまく立てず、その場にへたれ込んでしまう。

 こちらの部屋に戻ってきた悪食は確かな手ごたえを感じ取り勝利を確信でもしたのか、不気味な口元を弛め、ゆっくりとその距離を詰める。


 まだ、腕は何とか上がる……

(あきらめてやるものか!!)

 首に提げたチョーカーをむしりとる。


 ――残り、3メートル

 震える手で、再びパイソンのシリンダを横に押し出し、薬莢を捨てる。


 ――2メートル

 空になったシリンダに1発の弾丸を込める……


 ――1メートル

 ハンマーを起こす……

 口を開き奇声を上げ迫る悪食……


 ――ゼロ!

「――?!」

 口内の不思議な感触に悪食は戸惑ったことだろう。それもそのはず、肉を喰い千切る筈だった口の中には、硬い銃身が入っているのだ。


「油断して、さっさと止めを刺さなかったお前の、負けだっ!」

 一際大きな銃声が響き、奴の体には私の腕を楽に通せそうな位の風穴が開いた。

 悪食は、不快に鼓膜を揺さぶる断末魔を上げ、その体は細かい白砂のようなものに分解されていく。


 硝煙独特の匂いが鼻につく……

 あまりの反動で手が痺れてしまっている、緊張しすぎて息が切れる。


「はぁはぁ……やっぱり……はぁ……マグナムは違うわねぇ」

 あはは、と乾いた笑いが唇から漏れる。

 そう、私が撃ったのは、――357マグナム。私の“とっておきのお守り”だ。

 357マグナムを牛革の紐で結びつけただけのチョーカー。それが文字通り私を守ってくれた。


 357マグナムの薬莢を取り出して、まだ燃えたばかりの炸薬の熱が冷め切っていない薄い金属部に敬意を賞しキスをした。


ご感想・ご指摘いただけたら幸いです。


今後とも宜しく御願い申し上げます。


秋山時雨

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