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閑話2

「――ってことで、ボクがあの子を引き取って、育てる事にしたワケ」


 学長室の応接ソファに腰掛け、ボクは向かいに座る学長――シルヴィア・バーナムに肩をすくめて見せた。


 若い頃は生徒からだけじゃなく、教師陣すら震え上がらせた女傑も、五十を過ぎて涙腺が緩くなっているのか、ボクの語るクレリアの過去にハンカチで目元を拭っている。


「大恩ある大魔女様の子孫がそんな事になっていると知っていたなら、私ももっと政府に働きかけましたのに……」


 と、彼女は拭った目元を鋭くする。


「だからこそ、クレリアの行方は伏せられてたんだろうね。

 キミらみたいなのが暴れないように、さ」


 ――シルヴィア同様に。


 共和革命が成って、王弟だったシルトベルク公爵が王となった現在でも、こっそりブラドフォード家に忠誠を誓っている者達はそれなりにいる。


 その多くはヒトの世の理の外を識っている者達で――いわば現代における異端と言っても良い。


 彼ら彼女らが旧王家を慕うのは、クレリアの存在があるから。


 およそ百年ぶりに誕生した赤毛赤目の娘は、どうしたって守護貴属――魔女の再臨を意識せざるを得ない。


 そんなクレリアを殺したとなると、革命にさえ不介入を貫いた異端者達がどんな行動を取るかわからなくて、革命者達は……まあ、恐れたんだろうね。


 だからクレリアの出生を念入りに隠して、あんな劣悪な孤児院に預けたんだ。


 その隠蔽は巧妙で、ボクもクレリアを見つけるのに二年もかかっちゃったくらいだよ。


「……政府は、あなたが姫様を引き取った事を?」


「知ってるよ。

 というか、引き取る時にディオリム総理とカロッゾ王に直談判したからね。

 ――特にカロッゾには、この国の()()()()()を教えてやったからね。

 顔を真っ青にして、あの子の育成を懇願されたよ」


 喉を鳴らして笑って見せると、横に座ったニィナが首をひねる。


「――というと、王はこの国の真実を知らずに革命に協力したのか?」


「なぜ革命などに手を貸したのか疑問でしたが……確かにあの方は国事――特に祭事には興味を示さない方でしたからね……」


 シルヴィアは深い溜息だ。


 そうそう。カロッゾは子供の頃から、甘ったれのお坊ちゃんのクセに、権力欲だけは人一倍だったからね。


 兄を退けて、自分が王位に着けると革命軍にそそのかされて、ホイホイ彼らの言葉に従ったんだって。


 その地位の役割も知らないままに……


「……つまりイフュー様は、姫様を巫女として、この国の整調なさろうというのですね?」


「十数年前から大結界が綻び始めててね。

 ……<第二次中原大戦>から百余年。

 ここだけの話、さしもの大魔女の結界も綻びが出始めてるんだ」


 革命が起きる直前から始まり、いまもなお土地の荒廃が進んでいるのも、その影響だね。


「最近、その徴候が顕著でね。

 ほら、五年前、ここのすぐそばで大侵災が起きて、土地が魔境化したでしょ?

 アレもそうなんだ」


 大結界が壊れたなら、きっとあのレベルの侵災があちこちで起こるはずだよ。


 そして、ヒトの住める土地はどんどん失くなっていくんだ。


 ボクが肩を竦めると、シルヴィアは困った表情を浮かべた。


「ですが、我が校はいまや現代魔道――魔術の教育が主流となっていて、魔法を教えられる者は……」


「うん、知ってるよ。

 その為にニィナを呼んだんだし」


 現在、魔法を使える者はこの国だけじゃなく、中原中を探してもほとんどいないんじゃないかな。


 ヒトはどうしたって、楽で簡単なものに依存しがちだからね。


 より簡単に使える魔術が主流になってしまったのは、時代の流れってもんだよね。


「イフューが教えられんかった魔法は、あたしが個人的に教えていくつもりじゃ」


 と、ニィナが平らな胸を叩いて請け負ってくれる。


「では、なぜ姫様を我が校に?」


「……おや、わからないかい?

 学校といったら、勉強や魔法より大切なものがあるでしょ」


 シルヴィアも教師生活が長いのに――いや、長いからこそ、逆にわからなくなってるのかな?


「あの子にはね、魔道の最奥を識るためにも、もっとヒトとの関わりを持ってもらいたいんだよね」


 ――コンソールを失った現在。


 この国を整調するには、東部から伝わった大魔法を用いるしかないんだ。


 ヒトとヒトを繋ぎ、疑似霊脈を築いて描き出す――魔法を越えた魔法。


 それを行うには、クレリアは――良く言えば個として確立し過ぎていて。


 ――悪く言えば、我が強すぎるんだ。


 ヒトに混じり、ヒトと触れ合わなければ、決してアレは喚起できやしない。


 だからボクは、あの子に入学を勧めた。


「――学園ってのはさ、それにぴったりな舞台でしょ?」


 百年前のあの子も、二百年前のあの子達だってさ。


 ……後に大魔女として名を残した子達はみんな、ヒトと関わって――自分以外の誰かの為に、その力を振るったんだから。


 真なる魔法はヒトの想いで紡がれる。


 ボクはね、クレリアにそれを知ってもらいたいんだよ。


 あの子が政府に復讐なんて考えてるのは知ってるけどね。


 根が小物で善性のあの子だから、大した事はできないんじゃないかな。


 ま、ボクにとってはヒトの国の在り方なんて、どうでも良いんだけどね。


 大事なのは、この地でヒトが暮らし続けられる事。


 それ以外は、あんまり興味がないんだよね。

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