襲撃
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「着いたよ」
「すごい町だね・・・。これ全部、壁?」
「そうだよ。この町は円の形をしていて、その全てを守るように高い外壁が造られているんだ。出入りは東西南北にある4つの門だけで、この外壁が出来てからはどんな魔物も寄り付かなくなった。まさにこの町の守り神ってところさ。・・・それよりもハル、あの開けた草原が見えるか?」
「あの場所って、もしかしてさっきの?」
「ああ。ハルが記憶を無くして倒れていた場所だ。あの南東の草原地帯だけは昔から魔物が寄り付かないって言い伝えがあるんだ。それもあって、ハルが独りになりたいときはいつもあの場所で昼寝をしていたんだけど・・・」
「ごめん、覚えてないや」
「いや、謝らないでくれよ。少しでも記憶が戻るきっかけになればと思っただけだから」
「ありがとう。・・・そうだ、ロイ、なにか書くものとか持ってない?」
「これを使いなよ」
「ありがとう」
「・・・なになに、始まりの、草原?」
「もしかしたらまた記憶が無くなるかもしれないから、メモを付けておこうかなって」
「それは良い心掛けだ。それにしても始まりの草原っていうネーミングセンスは面白いな」
「な、なにも思い出せないからね。僕からしたらここが出発地点なんだ」
「そうか・・・。早く記憶が戻るといいな」
◇◇◇
「お帰りなさいませ。ハル様、ロイさん」
「お勤めご苦労さまです」
「ご苦労様です」
「・・・え?」
南門を守っている2人の門番はお互いに顔を見合わせた。
「ハル様が、挨拶をした・・・?」
◇◇◇
「それじゃあ俺は診察の受付を済ませて来るから、待合室で待っていてくれ」
「ありがとう」
(それにしても人がすごく多いな。これだと空いた席はなさそうだ。・・・あの空いたスペースで待ってようかな)
壁に背中を預けた僕は深呼吸をして頭の中を整理する。
(この世界では、僕はハルという人物に転移している。中身は違う世界から来た別人だということをロイや周りの人に説いても、信じてはもらえないかもしれない。むしろ変に思われてしまうと、この世界のクリアに支障が出てしまう。・・・幸いにも記憶喪失でなんとかなってる。これまでの3つの世界も似たような感じだったし、このまま記憶喪失ということにしておこう)
「また無茶したのか!」
「ちょっと~声が大きいって~」
(ん?なんだろう?)
声のする方へ目を向けると、近くに座っている首に赤いバンダナを巻いている男と左手に包帯を巻いた女の子が話し合っていた。
「あんなに小さい魔物なら1人で倒せると思ったの~。ほんとドジふんじゃっただけだから~」
「コアを持ってない時は戦ったらダメだって何度も言ってるだろ!?今回で一体何度目の怪我だよ!」
「もうごめんってば~。次は絶対に大丈夫だから安心してよね~。でも聞いて?弱ってたから倒せると思ったの~」
「本当に反省してるんだろうな!?ったくもう、前にも言ったけど自分の命は大切にする約束だろ?ホルマが襲われてるって聞いた時は全身逆立つくらいに心配したんだぞ?」
「そんなに怒らないでよね~私も反省してるんだから~。それと逆立つってなに~?逆立ちでもしてたの~?」
「うるさい!そこはなんでもいいだろ!?とにかくマナの補給でコアを持ってない時は魔物とは絶対に戦うな?ほんと、頼むぜまったく」
(やっぱり本当に魔物なんて出るのかこの世界は)
「お姉ちゃんいた!あのねお姉ちゃん、さっきは助けてくれてありがと~!でもね、怪我させちゃった・・・ごめんねお姉ちゃん」
カチューシャを付けた少女は涙を浮かべる。
「心配しないで大丈夫だよ~。お医者さんもすぐ治るって言ってたからね~。それにお嬢ちゃん、魔物を倒すのが私のお仕事なの~。だからもう気にしないでいいのよ~。分かった~?」
「ありがと~お姉ちゃん!」
少女は、頭をなでてくれていた包帯の女の子のお腹に飛びついた。
包帯の女の子もバンダナの男も、その少女を見ながら微笑んだ。
◇◇◇
「ハルどうした?そんな嬉しそうな顔をして。なにか良い事でもあったのか?」
「まあね。そんなところだよ」
「おお?一体なにがあったんだろうな。それとハル、診察は二時間後ぐらいになりそうだ」
「この町は小さな病院がここだけだったね。この混み具合だとやっぱりそれぐらい掛かるよなあ。・・・あ、そうだロイ。さっき小耳に挟んだんだけどね」
僕はロイにあの2人の会話の内容をロイに話した。
「多分その人はシールドレインに所属している人だな。人々を魔物から守るために政府が公に組織しているんだ。シールドレインはコアというものを持っていて、それで魔物と戦うんだ」
「魔物・・・シールドレイン・・・コア・・・っと。これで一通りメモは出来たね」
「・・・ハル。本当に頭の方は大丈夫なのか?その、変な意味じゃなくてだな、なんていうかその、玉がぶつかる前のハルと雰囲気が違う気がして、少し不思議な感じがしてな」
「頭の痛みはもうすっかり引いたよ。心配してくれてありがとう、ロイ」
「それは別に良いんだ。ただ、前のハルは謝り方の一つも知らなかったのに、記憶喪失ってこんなにも人が変わるんだなって思ってさ」
「前のことは何も思い出せなくて・・・変に感じるなら謝るよ、ごめん」
「い、いやいやいいんだ。謝らないでくれ。俺こそ変なことを言ってしまって、本当にすまなかった」
「僕は気にしてないから大丈夫だよ!そんなに落ち込まないで」
「本当にすまなかった」
◇◇◇
病院の入口のドアが開き、勢いよく人が入ってきた。
「魔物だ!魔物が来たぞー!みんな早く逃げろ!」
突然現れた男の叫びで、待合室全体がどよめいた。
受付にいる看護師は業務の手を止めてその男を見ていたが、目の前のモニターに緊急を知らせる赤い避難信号を確認すると、他の看護師と連携を取りながら患者の避難誘導を行った。
叫ぶ男のもとに先程のバンダナの男と包帯の女の子が駆け寄ったのを僕は見た。
「おい、一体何があったんだ!?」
「魔物だ!魔物が町に侵入してきたんだ!この病院も危ないから早く君たちも逃げるんだ!」
「うそ~!この町はゲートで守られてるのに。もしかして突破されちゃったのかな~?」
「その可能性が高いな。包囲陣を敷いてる領主館には衛兵がいるはずだから俺たちは町で襲われてる人を助けるぞ!」
「待ってホロ!まだコアはマナの補給で研究所にあるのよ~!それにもしもゲートが突破されてるなら領主館も危ないわ。私はコアを回収した後、領主館へ向かってみる~!」
「わかった!」
◇◇◇
「ハル、ここも危ないみたいだ。俺たちは一度領主館へ戻ろう」
「そうだね。ロイ、案内を頼むよ」
僕たちは、看護師たちの誘導で次々と避難する人々の波に乗って病院を出た。