羽化
頭の中バタフライ~ლ(╹◡╹ლ)
面白いと感じて下されば評価を宜しくお願いします!
「あ!海だよ!海が見えてきたよ!」
イアは前を指さす。
目の前の風景に海が広がってきた。
「もうすぐ着くよ~。ほら町も見えてきた~」
ホルマがそう言うと、ニマは途端に駆け出して前を歩く僕とホルマを抜き去った。
「もうすぐ船だよ!早く早く~!」
「ニマ!少しは落ち着けって!俺も背負いながら走るのは少し無理があるんだ!」
「ロイ~!あんた男でしょ!町はすぐ目の前なんだからラストスパートくらいかけてよ!」
「まったく、言わせておけば好き勝手に言ってくれて」
ロイはカワモリを担ぎながら走り始める。
私も走る!と、イアはロイに付いていく。
2人もまた僕とホルマを抜いては行くが、彼らはすぐに立ち止まった。
その様子を見た僕は、さすがに背負いながら走るのは無理だったのだろうと思ったがどうやら足を止めた理由は別にあった。
「ねえ見てロイ!なんだか町の様子がおかしくないかな?」
「ああ、煙が上がっているな」
ロイは振り返る。
「ハル!ホルマ!町でなにかあったらしい。どうする?」
視線を前に向けると煙が立ち込めているのが見える。
白城町で起こった狼の襲撃が頭をよぎる。
「急いだ方がいいわね~。みんな急ぐよ~」
「でも、イヌちゃんが・・・」
「イア、状況が状況だ。あの魔物の事は一旦置いておこう」
「賢明ね~。ハル、あなたもそれでいいよね~?」
口をつぐむ僕の返答をホルマは待っている。
イアに視線を向けるとどこか悲しい顔をしていた。
狼を待つのか。
先を急ぐのか。
(どうする?イアの気持ちには応えたいが、町の状況も気になる。町に火の手が上がる程の状況って魔物ぐらいしか思いつかない。ロイの言う通りここで待つ選択肢はない、か)
先を走っていたニマは振り返る。
「ねえ何してるの~!早くしないと船が逃げちゃうよ!」
みんなが立ち止まる中、僕はポケットに手を伸ばしていた。
(選択は保留だ。まずは情報を得よう)
僕はポケットから栞の玉を取り出して心の中で叫んだ。
(セーブ!)
目の前が真っ暗になった。
・・・
気が付くと僕は小舟に乗っていた。
風も波も無いどこまでも続く薄暗い空間の中で、僕は手の上で眩しく光る栞の玉を見つめた。
「このセーブデータの保存先はどうしようか。念のため前のセーブデータは残しておくか」
僕は光り輝く栞の玉をポケットにしまい込み小舟に備わるオールに手を伸ばした。
周りを見渡すと、薄暗い空間の中に1つのふわりと浮いた光る玉が見えた。
僕はそこへは向かわずに別の場所へ船を進める。
他には何も無いように見えたこの空間で、別のふわりと浮いた玉を見つけた。
僕はポケットから光る栞の玉を取り出して、宙に浮いている電源の切れた電球のようなその玉に栞の玉をあてがった。
すると、栞の玉の光は目の前の球体に吸収されるように移動した。
「これでセーブデータは2つ目か。空の玉はあと1個だけ。何度でもやり直しが利くからといっても使うタイミングは間違えないようにしないとね」
僕は深呼吸をして目の前にある6人を映した玉に触れる。
すると玉は輝きを強め、僕の視界は真っ白に染まった。
・・・
「ねえ何してるの~!早くしないと船が逃げちゃうよ!」
ニマがこちらに向けて叫ぶ中、僕はホルマに顔を向ける。
「先を急ごう」
僕は短くそう伝えるとホルマは頷いた。
イアはどこか寂しい表情を僕に向けるが、僕は気付かないフリをする。
「そしたら~、私は先行するからみんなは出来るだけ早く来てね~」
そう言ってホルマは右手に意識を集中する。
ホルマの足首にあるアンクレットの玉がピンク色に光り始めた後、右手人差し指の先がピンク色に光り、ホルマはその指を地面に当てる。
「ふうちゃんこの指と~まれ!」
すると、ホルマの足元にピンク色の魔方陣が現れ、そのからピンク髪の女の子がせり上がってきた。
ホルマはピンク髪の子に後ろから乗っかかると、ピンク髪の子はすごいスピードで駆けていった。
「ホルマは召喚魔法が使えるのか」
「そんな感じだな。ハル、俺らも急ごう」
「急げとは言ったけど、まさかふうちゃんを出すなんて」
ニマはぽかんとした表情で走る僕たちを見ると、続くようにニマも走り始めた。
しかし、僕はすぐに足を止める。
全力で走ることで傷口が痛み出したからだ。
ロイが僕に気付く。
「ハル?どうした?傷が痛むのか?」
「さすがにちょっと走るのは無理みたいだ」
「そうか」
ロイは前を走るニマを呼び止める。
「ニマ!ハルと俺はそう全力で走れそうにもない!先に行っててくれ!」
「ええ!ちょっと!急にどしたのよ!?何かトラブル?」
「ハルはまだ傷が癒えてないんだ。俺もカワモリさんを担いでいるから全力では走れない。ホルマや町の様子が気になるからニマはイアと一緒に先に行ってくれ」
「ハル!怪我が痛むの?大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だよイア。ロイが傍にいるからちょっと時間は掛かるけどなんだかんだ町にはたどり着けるよ。先に行ってホルマの力になってやってくれ」
「ハルがそう言うのなら私、信じるね。・・・ニマ!私達も急ぎましょ」
イアはニマに言葉を掛けるが、下を向いていたニマはすぐには答えなかった。
(・・・ハル様は負傷してる。私の助けを待ってる。そして、今はホルマ先輩がいない!これはもしかしてもしかすると!手を差し伸べるチャンスなんじゃないかな!?にゃひゃひゃひゃ!私には聞こえるよ。ハル様のボクの心を奪って下さいという合図を!・・・なんか町は大変ぽいけどホルマ先輩なら何とかするだろうし、私は私の愛の試練を成さねば~~~!)
ニマはふらふらと下を向きながら一歩一歩を踏み出す。
「あららあ?きゅうにちからがぬけるわあ?どうしてかしらあ?」
ニマは片言を口ずさみながらゆっくりとハルの元へ向かう。
そして、図るかのようにハルに倒れ掛かった。
「おい、ニマ!?」
突然のニマの行動に僕は驚く。
イアはニマの脱力した様子に心配の目を向けるが、ロイは呆れた表情を見せる。
「ニマ、今はふざけてる場合じゃないのは分かるよな」
「ありぇえ?あ!ちょっと間違えたかも」
(違う違う!そうじゃないってば!私ったらなんで間違えたの!?これじゃまるで助けられる側じゃない!?助ける側になるのよ私~~~!)
「ごほん!ロイ、ちょっと聞いて。私達が行った後に、もしも万が一にも魔物が来ちゃうとハル様は危ないでしょ?手負いのハル様を放っておけないのよ~。だからちゃんと町に着くまで護衛しないと!シールドレインとして私はハル様をお守りしますわあ!」
ニマは僕に向かって抱きつく為なのか、大きく両手を左右に広げた。
「ニマ、今はふざけてる場合じゃないのは分かるよな?続けるのならげんこつするよ?」
抱きつく寸前のニマは止まる。
両手で服をはたき身なりを整えたニマは言葉を訂正する。
「や、やっぱり先に行くのがベストな気がしてきたな~!にゃはは・・・」
「ニマ、体調は大丈夫なの?」
「え?ああ、うん大丈夫だよイア!それじゃあ、ね!行こっか!」
「うん!」
イアはこちらに振り向く。
「ハル、ロイ、行ってくるね」
「イア!気を付けて」
「うん!ありがとう!ハルの方こそ気を付けてね!先に行って待ってるから!」
イアはニマと共に走って行く。
僕はその姿を見守った。
そのすぐ近くの林木から一羽の黒い蝶が羽ばたき、町の方へと飛んで行った。
お待たせしました。
これからはタイトル回収の展開になりますლ(╹◡╹ლ)
その後の展開もお楽しみに!面白いと感じて下されば是非とも評価をお願いします!




