痕跡
何とか間に合ったーーーー!!!
文字数制限クリアしました(๑╹◡╹๑)
本当はこのパートと次のパートで1つのパートが出来る予定だったのですが、
ストーリーに会話やキャラの感情などを入れていったらむっちゃ長くなってしまいました。
(恋愛をテーマにしたいので、感情の機微は出来るだけ書きたいと思っています)
面白いと感じていただけましたら是非とも評価をお願いします!
僕はイアを見た。
「助けよう」
僕の答えにイアは笑みを浮かべていた。
「ハル、分かっているのか?俺たちの目的はあくまで移送だ。ここで時間を掛けてしまえば例の盗賊が現れてしまうかもしれないんだぞ」
「ああわかっているよ」
「じゃあ何故留まろうとする?」
「魔物の躾け方だよ。どんな方法なのかは分からないけど、白城町が襲われた事で今後ますます魔物への対応が必要になってくるよね?多分この人はその問題を解く鍵なんだ」
「ちょっとさハル~。言いたいことは分かるけど、優先順位ってあるでしょ~。悪いけど私は反対するよ~」
「私はハル様の力にはなりたいよ?だけど私たちシールドレインにとっての任務は何よりも優先すべきことなの。でないとホルマ先輩に叱られちゃうの。ハル様の味方になるとホルマ先輩に叱られちゃうの」
「大丈夫だよホルマ、ニマ。僕たちは先に進むよ。でもこの人は連れて行く」
「それはどういうこと~?」
「ロイ、この人を運ぶの頼めないかな?」
「それは構わないよ。でも魔物はどうするんだ?俺たちでは運べないぞ。イアには悪いけど殺していくのか?」
下を向いたイアに僕はもう一度目を向ける。
「その狼は殺さないよ。ここに置いていく」
「だから~、一体何を言ってるの~?ニマの拘束はそんなに長くは効かないからすぐに追い付かれるよ~。それに、魔物を見過ごすことを、私は許さないよ!」
ホルマの言葉は強くなる。
ホルマが所属しているシールドレインは人を魔物から守る為に組織されている。
日々凶悪な魔物と戦う彼らに魔物を見逃すという概念は存在しない。
「ホルマは聞いたことがある?人に懐く魔物の話」
「聞いたことないわね~。それが何っていうのよ~」
「今僕たちの目の前では、みんなが考えもしなかった現象が起きている。魔物が人に懐いているその原因を知ることは、魔物と対峙するシールドレインにとっても有益なはずだと思わない?」
「何が言いたいのよ~?」
「魔物の実態調査に協力してくれないか?」
「くどいよハル~。ねえ、特命を舐めてない~?寄り道をしながら出来ると思ってるならそれは大きな間違いだよ~」
「舐めてなんかいないよ。ホルマと同じで僕も真剣だよ」
「そう。ならその人なんて捨て置いて先を急ぎましょう~。全くもう、今のこの時間も本当は嫌なんだからね~」
ホルマはこちらに背中を向けて歩き始めた。
会話を見守っていたロイとニマは、僕へ哀れむ眼差しを向けながらゆっくりとホルマに続こうとする。
イアだけがまだ僕の近くに立っていた。
「仕方がないんだよね・・・ホルマの気持ちも分かるから。・・・行こ、ハル」
そう言って、イアが動こうとしたその時。
「今回だけでいいんだ!」
僕は叫んだ。
ホルマを含め、みんなが足を止めた。
「もしも・・・もしも上手くいかなかったり、特命の邪魔になるようなことがあれば、今後はもうわがままは言わない。特命を完遂するまでホルマの言う通りにする」
ホルマは振り返える。
ロイも、ニマも、そしてイアもこちらを見ている。
「この人も、町も、みんなも、救えるかもしれないんだ。この人には、その可能性があるんだ。だから、今回だけは、僕に協力してほしいんだ」
これまで、魔物という生き物に出会ったことがない僕の魔物に対する価値観は、明らかにこの世界の人たちと比べると異質なものだった。
だからこそ、この世界に生きるホルマからすれば、僕の考えを理解するには到底及ばない。
この時の僕は、まだそのことには気付いていなかった。
「なんでそこまでしてその人にこだわるの~?魔物の躾け方にはもちろん興味はあるよ~。でも現実を見て。その人が丁寧に教えてくれるとは思えないし、逆に命を狙われるかもしれないのよ~。百歩譲って教えてくれたとしても、果たして本当になんの【対価】も無く魔物を従えることが出来るのかしらね!」
「それでも僕はやってみたいんだ!それにやってみないと」
「わからないなんて言わないでよね~」
「いい?よく聞いてハル~。あなたの熱意に免じてその人のことは領主に知らせておくわ~。これで後は他のシールドレインが動いてくれる。あなたがしたがる調査なんて、特命を完遂した後にじっくりとすればいいじゃない~。それでいいわよね~?」
「それだとあの狼は助からない」
「当たり前だよ~。あの魔物は私が仕留めるわよ~」
「それじゃだめなんだ!この人もあの狼も助けることが大事なんだ」
「なんで~?なんで助けるの~!?」
誰の目から見ても、彼女の隠しきれない怒りはハルに向いていた。
ロイたちは固唾を呑んで成り行きを見守る。
空気が張り詰める中、僕は自分の中で一つの答えを出していた。
始めてカワモリと対峙した時、僕は恐怖で動けなかった。
イアの為に変わろうと決めたのに、僕は何も出来なかった。
思うだけじゃ何も変えられないんだ。
だから、僕は今出来る事をやろうと思う。
それを積み重ねた先に求めるものがあると信じて。
イアは言った。
助けたいと。
イアがそう望んでいるから。
その言葉通りが今の僕の原動力だった。
「イアがそう望んでいるからだ」
「ハル・・・」
イアの言葉が2人の間を風と共に抜けていく。
「はあ~。どんな理由なのよ」
ため息をつくホルマの表情に怒りはもう無かった。
「闇雲に言っている訳じゃない。僕にも考えがあるんだ」
ホルマは、自分に向けられているハルの澄んだ瞳に、自身が小さく映っていることに気が付いた。
「こんなの、イアと変わらないじゃない・・・」
呟やかれたホルマの言葉は、誰にも届かないまま空に消えていき、ホルマは遠い記憶を思い起こしていた・・・。
〇〇〇
過去。
ホルマとイアが出会ったあの日。
ねえ!起きて!・・・
ここは・・・
●●●!・・・
君は・・・誰・・・
私はイア!・・・
私は・・・身体が・・・動かな・・・これは・・・血・・・
大丈夫!?ねえ!
意識が・・・遠のく・・・
●●●!・・・
それは・・・だめ・・・だ・・・
だめじゃないの!あなたを助けるの!・・・
早く逃げ・・・あなた・・・まで・・・
やだ!助けるの!・・・
私は・・・もう・・・だめ・・・
だめじゃないの!助けるの!・・・
早く・・・行きなさ・・・
ううん!行かない!・・・
このまま・・・だと・・・あなたも・・・死ん・・・
それはだめ!それでもあなたを助けるの!・・・
なんで・・・そこまで・・・
私がそう望んでいるからだよ!だから助けるの!・・・
あなたを死なせない!絶対に!・・・
私が助ける!・・・
〇〇〇
記憶に浸っていたホルマの意識は現実に戻ってくる。
「・・・だから、実態調査として今はあの狼を殺さないでほしいんだ」
僕だけじゃなく、みんながホルマの返事を待っていた。
ホルマはイアに視線を移し、しばらくの間イアを見つめた。
そして表情を少し緩ませた後にホルマは口を開いた。
「わかったわよ~」
「ホルマ、ありがとう」
僕の感謝の言葉を皮切りに、イアはホルマに飛びついた。
「ホルマ!これでカワモリさんもイヌちゃんも助けられるんだね!誰も哀しまなくて済むんだね。ありがとう、ホルマ!」
「ちょ、ちょっとイア~!身体の差を考えて!つ、つぶれる~!」
溢れんばかりの抑えられていたイアの感情を必死に受け止めようようとしているホルマに、ニマやロイが言葉を掛ける。
「あのホルマ先輩が意見を変えた!この後雨が降って来るかも~~~!」
「ホルマ!俺に出来ることがあれば何でも言ってくれよな。協力は惜しまないぜ」
「あ、ありがとうロイ~!それじゃ早速だけど、た、助けて~」
ロイは笑みをこぼしつつ2人に近づき、イアの肩にそっと手を置く。
「イア、そのハグは体重の9割がホルマにいっているよ」
「あ!ごめんね、ホルマ!嬉しくてついつい~」
顔を赤くしたイアは、ホルマをゆっくりと解放した後も、ホルマの手を握り続けたまま笑顔を振りまく。
そのイアの行動に僕の心はまた晴れたような気がした。
その裏で、にやりと企むニマの表情に僕は気付かなかった。
(あんな積極的なハグを見て、ハル様は嬉しそうな顔をしてるね~~~!その表情、私しゃ見逃さないよ・・・ふふふ。後はタイミングだけ。ホルマ先輩には任務に私情を挟むなって怒られちゃうから、その時が来たら一気に心を奪うわよ・・・にゃははは)
落ち着いたイアは僕を見た。
「そしたらハル、カワモリさんとイヌちゃんはどうやって助けようか?」
「今から話すよ。カワモリはロイに背負ってもらって僕たちはこれまで通り移送を続ける。もちろん、狼は置いていく」
「そうすると【バインドアップ】は切れちゃうよ?もう効果時間は数十分程度だよ?」
「拘束は解かれてもいいんだよ、ニマ」
「え?どういうこと?」
「拘束が解かれた後は僕らを追わせればいい」
「運ぶのではじゃなくて付いて来させるのか。でも、そんなに上手くいくのか?」
「それはわからない。追って来ずにどこかへ消えてしまうかもしれない」
「それだと意味がないのではないか?」
「命を救うことは出来るよ。でも、他の魔物みたいにいつの間にか討伐されてしまう可能性は否めないけどね」
「なるほど。それでホルマに魔物を殺させない様に実態調査を提案したのか。シールドレインは見逃せないから観察するという理由を得る為に。考えたなハル」
「シールドレインは個人では動かないよ~。それと言っておきますが今回だけだよ~。次は無いからね~」
「わかっているよ。ありがとうホルマ」
「根拠は無いけど少し自信はあるんだ」
僕は横たわり意識を失っているカワモリを見た。
「カワモリの匂いを道中に残していくんだ」
「そっか!イヌちゃんは鼻が利くから匂いで追跡出来る!わあ~!すごい!さすがだねハル!」
「幸い今日は晴れている。いつまで匂いが残るのかは分からないけどやってみる価値はあるだろう?」
「あるある!絶対上手くいくよ!」
イアは笑顔で答えた。
「魔物が私たちに追い付いた時にまだ半分ハゲが寝てたら、もう一回拘束すればいいのね!」
「そうだね。その時は頼むよ、ニマ」
「このニマ様にまっかせなさい!」
「それじゃあイア、何か切るものは持ってないか?」
「切るもの?良かったらこれを使って」
「ありがとう」
イアから小さなハサミを受け取ると、僕はカワモリの傍まで行った。
「そしたらちょっと失礼するよ」
チョキ。
チョキ。
チョキ。
◇◇◇
僕たちはあの場所を離れて歩き続けていた。
「そういえばもうそろそろ【バインドアップ】が切れる頃だよ」
「追って来るといいね」
「こればっかりはお祈りになってしまうね」
「イヌちゃん・・・匂いに気付いて!」
「それにしても、ロイ~半分ハゲまだ起きないの~?」
「全然起きる気配が無いな」
「ねえ、ずっと背負ってるけどしんどくないの?」
「ああ俺は大丈夫だよ。それよりもこの人、思っていたよりは重くないんだ。背負ってみて気付いたけど、着ている服もぶかぶかなんだよ」
「そういや目の前に現れた時、最近は不作でね~とか言ってた言ってた!」
「盗賊稼業が上手くいってはいないのだろうな」
「そりゃそうだよ!私たちの警備網を突破出来るわけないじゃん!」
「シールドレインは頼もしいな」
「私も頼もしいでしょ?」
「はいはい、ニマも頼もしいですね」
「えっへん!」
ホルマは先頭で地図を広げながら歩き、その少し後ろで3人は横に並んで歩いている。
僕はその3人の更に後ろの方で一人歩いていた。
手に持っているカワモリの髪の束から数本の髪の毛を分ける。
それを、進んでいる道の脇道に一定間隔に少し土を被せながら置き続けているのだ。
「そういえばロイ~、半分ハゲの髪の毛を切ったらもう半分ハゲじゃなくて6分ハゲになるのかな?」
「知らないよそんなことは」
「半分も6分もね、そんなに変わらないとおもうよ?」
「そっかあ~。この人が起きた時はどっちで呼ぼうかな~」
「カワモリさんが目を覚ましたらね、襲ってくるのかな?」
「襲ってきたらまた【バインドアップ】を掛けるから大丈夫だよ~!」
「早いとこ魔物の躾け方についていろいろ聞きたいものだな」
「イヌちゃん、来てくれるといいな」
イアは歩み進める中、何度か後ろを振り向いていた。
◇◇◇
それから10分程の時間が経った。
狼は来ていなかった。
狼の速度なら既に追い付いていてもおかしくはない。
カワモリから切り取った髪の毛は少し前に全て使い果たしていた。
もしも狼が匂いで追って来ているのなら、ロイが運んでいるカワモリの残り香に掛けるしかない。
「来ないな。来ると思ったんだけど」
「匂いで誘導出来なかったね~」
「拘束した僕たちに仕返ししたいとか懐いてたカワモリの匂いを追いかけたいとかを狼は思わなかったのかな?」
「犬じゃないんだよ~?・・・それに、魔物に期待するのはやめなよ。魔物は危険なんだから」
「・・・そうだね、気を付けるよ」
ホルマの言葉に、いささかの重みが込められていたような気がしたが、僕がそのことを聞こうかどうかを悩んでいた時、後ろからホルマを呼ぶ声がした。
「ホルマ先輩!ここって港町までの街道でしょ?もしかして船に乗るの~?」
「そうだよ~。陸路は山を越えないといけないから、大陸を迂回しても船の方が早く着くのよ~」
「やったあああ!船乗ってみたかったんだ!楽しみ楽しみ~!」
両手を挙げてくるくると回っているニマに、その横を歩くロイははしゃぎすぎだと言う。
「私もね、船に乗るのは初めてなんだよね!楽しみだな~!」
「イアも楽しみなの?じゃあ一緒に回ろうよ!」
「うん!いいよ!くるくる~!」
楽しそうに回っている2人を見て、僕とロイは笑っていた。
ホルマは、遊びに来てるんじゃないんだよ~と声を掛けるが誰も聞いていなかった。
後ろを振り向いたまま笑っていた僕は、そのまま視線をここまで通ってきた道に合わせたが、そこに狼の気配は全く無かった。
最近気づき始めたことがあります。
タイトル詐欺の可能性を・・・!!!
(ちゃんとタイトル回収してスカーっと胸が熱くなるシナリオも考えています・・・!)
というか、噛ませ犬的な予定で登場させたカワモリさん、割と重要なのでは(๑╹◡╹๑)?




