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使える魔法はセーブとロードとリセットです。  作者: ちさめす
小説世界 白城町編
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17/45

旅立ちの前日④

白城町編の最後です。

次の編からはもっと面白く書けるように努力します。

今後ともよろしくお願いします。


白城町の東側にはこの町一番の公園がある。


公園のシンボルとなっている大きな杉の木の下に設置された木彫りのベンチに僕たち3人は座り、じゃんけん大会で獲得した焼き芋を3等分にして食べていた。


「この焼き芋、ほんと空きっ腹に最高だな。味も噛むほど濃くなってきてすごく美味しいよ」

「有名な焼き芋らいしいね、イモリンだっけか」


「芋杏だよハル~」

「違うよイア、イモリンは芋の妖精だよ。触れるもの全てを芋に変えてしまうんだ」


「なにその妖精~おかしいよ~」

「おかしいよ~じゃなくて美味しいよ~の間違いじゃないのかい?」


「もうロイまで乗らないの~!そんな妖精さんはい~ま~せ~ん~」


たわいのない会話をしながら芋を食べていると、不意にボールが転がってきた。


幸いにもこの辺りは魔物による被害が無く、公園では普段通りに子どもたちがボール遊びをしている。

誤ってこちらに転がしてしまったのだろう。


走って取りに来る子どもとは距離があったので、ロイはそのボールを蹴って返そうとするが、ボールはあらぬ方向に飛んでいってしまった為、ちょっと行ってくると言い残し、ロイは焼き芋を持ったままボールの方へ駆けて行った。


見送った僕は残り少ない焼き芋を丸ごと頬張って食べた。

しかしすぐに半分にすればよかったと後悔していると、イアがクスクスと笑ってきた。


「変な顔になってるよ」

「もごもごもごもご」


「ねえ~何て言ってるのよ」

「んん、イアも一気に食べてみてよ」


「私はいいよ~ゆっくり食べるね」

「じゃんけんして僕が勝ったら一気に食べるゲームしない?」


「しないよ~!」

「そっかー。イアの変な顔見そびれちゃったよ」


「変な顔なんてしません~!・・・ねえ、ハル。じゃんけん大会楽しかったね」

「ああ楽しかったな。優勝も出来て大満足だよ」


4人で迎えたじゃんけん大会は僕が制した。


もっとも僕にはリセットする力があるため、たとえ負けていてもやり直しの効果で結果は変わらなかっただろう。


「絶対に優勝したい理由があってさ、だから勝てた時は本当に嬉しかったよ」

「ねね、どんな理由があったの?」


「それ聞いちゃう?」

「聞くよ~!教えてよ、ハル」


「美味しそうに食べるイアが見たくてね。だから絶対焼き芋手に入れるぞーって気持ちでじゃんけんしてたんだ」


イアは嬉しそうな表情で、足をリズミカルに上下に動かしてありがとうと言った。

そして、イアは手に持っている残り少ない焼き芋をまるごと頬張った。


ところが、その全部が口には入りきらない様子で、少し焼き芋をはみ出したまま、もごもごと口を動かす。


その様子を見て、僕は変な顔だと笑う。

イアが必死にこぼさないように焼き芋を食べようと頑張っている姿に、可愛いとさえ思えた。


夕日が僕たちを照らし続ける中、僕はただただイアの事をずっと見ていた。


ごちそうさまでした、とイアは両手のひらをついた。


「あ、そうだハル。頭にぶつかったというあの黒い玉を見せてよ」

「ああいいよ」


栞の玉をポケットから取り出してイアに渡した。


「この玉が空から降って来たんだよね。誰かの落とし物なのかな?」


イアは玉を手のひらで転がしたり、つまんだりしている。

「落とし物・・・か。確かにそうかもしれないな」


現実世界の栞がどういう経緯で生まれたのかを僕は知らない。

本の世界に入るなんて、人間には出来ない所業だ。


「きっと神様が落としたものなのかもしれないな」


(本を貸してくれたあの司書さんに聞いてみたい気もするけど、居なくなってもう話せないし)


「持ち主が見つかるかもしれないし、それに何となくだけど持ってればいつかまた記憶が戻ると思うんだ。だから・・・もう無くさないようにしないといけないんだ」


玉に触れていないとセーブなどの能力が使えない。


狼に襲われた時のことを思い出す。

あんな化け物がいる世界の攻略に、玉無しでは無理だと自覚している。


イアはロイから、ハルは病み上がりでも玉を探す為に白城町に来たという事を聞いている。


「ハルの何となくは私も信じてるよ。記憶を取り戻す為にもちゃんと無くさないようにしないとね」


そう言ってイアは僕に栞の玉を返した。


「あ、そうだ。ねえハル、コア留めはどうかな?」

「コア留め?」


「丸いコアを身に着けるためのものなんだけどね、その黒い玉はコアに似ているから使えると思うの」


私のはこれだよ、とイアは首にかけていたネックレスを外して僕に渡した。


核となる黄色い玉を4本の銀の線が檻のように包んでいるネックレス。


「これは便利そうだな。ポケットに入れただけよりは絶対無くさない気がするよ」

「コア留めはね、いろんな種類があってね、シールドレインならみんな持っているよ」


「そうなんだ。僕もコア留めがほしいな。どこで手に入るの?」

「コア留めはアクセサリーとしても人気が出てね、今ではどこでも売っているよ」


イアは少し下を向いて、言葉を続ける。


「ハ、ハル。その・・・わ、私と同じネックレスでもよかったら家にもう一つあってね、今度持ってくるけど、ど、どうかな?」


「もらえると嬉しいな。ありがとうイア」

「うん!分かった!今度・・・持ってくるね!」


僕はイアにネックレスを返した。


夕日の照り返しで、イアの顔が赤くなっていることに僕は気付かなかった。


それから夕日はゆっくりと雲に隠れていき、辺りは暗くなってきた。


「もう夜だね。そういえば、ロイ遅いね」

「ロイはあそこで子どもたちとボール遊びしているよ」


僕が指さす先で、ロイは子どもに囲まれて遊んでいた。


イアがロイに向かって手を振ると、気付いたロイも手を上げて反応してくれた。

そのロイに子どもたちはボールを当てると、子どもたちは追いかけてくるロイから逃げ回っていた。


イアはロイと子どもたちを見て笑っている。


クスクスと笑うその声を横で聞いていると、僕は自然と今日一日の出来事を思い返していた。


「今日は本当にいろいろあったな」


イアはこちらに振り向く。


「気付いたら草原で目が覚めて、玉のせいですっごい頭が痛くなって、病院で診察を待っていたら狼が襲ってきて、噛まれて意識を失って、それから父さんと話して、ニマと話して、イアとも話して、それでじゃんけん大会で優勝して・・・全てが初めてで、初日なのに本当にいろいろと経験した。狼に襲われた時は絶望もしたし、ロイやニマと話す時は楽しかったし、それにイアと話すと不思議な感じがするんだ。何て言うのかな、安心するっていうか、その、上手く言葉が見つからないけど、もっと話したいって思うんだ」


小説の世界でも、全てが現実のように感じられる。


絶望も実現されるなら、幸福も実現されるのだろうか。


イアのハルへの愛も現実になるのだろうか。


そして、死もまた現実になるのだろうか。


答えの出ない問いが次々と湧いてくる。


「そうだったね・・・。今のハルは別人だったね」


隣で僕の話を聞いていたイアは、確かにそう呟いた。


「え?」


僕は耳を疑った。


(僕がハルじゃないってバレているのか?今のハルはハルでは無く、現実という別の世界から来た僕だと。なんで?どこで気づいた!?)


「あっ、え、違う!違う!ごめんね、違うのそうじゃないの」


イアは急いで訂正する。


「ハルは記憶を失っても、私は昨日までのハルだって思っているよ。今のハルは昔と変わらない、ただ忘れているだけだって。だから私はロイから話を聞いた時、記憶を取り戻すお手伝いをしないといけないって思ったの」


イアの手に力が入る。


「でもね、もしも思い出せなかったらどうしようって。昔の記憶をハルが思い出せなかったら、今のハルは昔と同じじゃなくなるかもしれないんだねって、昔のハルとは別人になってしまうんだねって思ってしまうの。記憶が戻らなかったらどうしようって私、怖いの。・・・私って、弱いね。ごめんね、ハル」


「今は思い出せなくても・・・いや、絶対思い出すよ。絶対に!」


僕は咄嗟にそう答えた。


今の僕は、ハルとはどういう人だったのかを、ハルのイアへの気持ちが何だったのかを、ハルとイアの思い出を、繋がりを、想いを、まだ何も分かってはいなかったから。


栞のカラクリを、転移してきたという事実を、心の奥底にしまい込んだ僕には、記憶は絶対に戻るという根拠の無い言葉でただ慰めることしか思い付かなかった。


「・・・他の人のように感じてしまうの」


イアがゆっくりと口を開く。


「そう感じちゃいけないのに、頭では分かっているのに、これまでの思い出がハルとは違う人だって、そう思わせてくるの。雰囲気も考え方も違うって。・・・記憶が無くなると、話し方も変わってしまうんだねって」


「イア・・・」


「話し方が変とかじゃないよ。ただ、ここにいるのは確かにハルなのに、ハルじゃないみたいで。・・・私、何言ってるんだろうね。ハルは何も悪くないのに。えへへ、私が変だったね。ごめんね・・・ハル」


イアは下を向いて黙り込んでしまった。


下に垂れる髪の毛がその表情を隠している。


掛ける言葉が出てこない。


何も思いつかない。


しばらくの沈黙が続いた後、遠くから僕らを呼ぶロイの声が聞こえた。


顔を上げたイアは走ってこちらへ来るロイを見て立ち上がった。


イアはこちらへは振り向かず、ハル行こっ!と声を掛け、僕の返事を待たずに走り去っていく。


沈みゆく夕日は雲から出ていた。

夕焼けが公園を包み、離れていく彼女を照らしている。


僕はただその姿を見つめながら、ふう、と息を切る。


物語が完結すれば、ハルはハルに戻る。

イアの為に、僕は物語を完結させると心に決めた。


なぜならば。


イアが立ち上がるその時、僕は見てしまったのだ。

その日の最後の陽光が彼女の素肌を褐色に染め上げ、瞳の下から流れていた一筋の光の線を。


書いていて涙が出そうになりました。

感情をこんなに文字に起こしたことが無いので、下手な部分があるかもですが、いい作品になる様に頑張ります。


面白いと思ってくだされば評価の程よろしくお願いします!


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