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画材屋探偵開業中!  作者: sanpo


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 :去夏〈7〉


 広島駅新幹線口から乗った高速バス・ノンストップ・グランドアロー号は島根県松江駅前に到着した。

 現在時刻・午前10時13分。すぐにタクシーを拾う。

 

 今頃、来海(くみ)サンは目覚めて、眼前にいるのが僕ではなく兄の行嶺(ゆきみね)氏だと知って驚いているだろうな。

 置いてけぼりにしたことを猛烈に怒っているかもしれない。でも仕方がない。

 彼女は勇気と行動力のある僕の最高の相棒だから、起きていたら絶対一緒に行くと言い張っただろう。でも、今回だけは一人で行く。 

 今日、僕が対峙するのは〈人〉と言うより僕の〈過去〉なのだ。

 僕には僕だけの秘密がある。それはまだ来海サンにも明かしていない。もし今日、全てを無事やりおおせて光町の画材屋に帰ることが出来たなら、その時は――

 その時こそ、僕は真実を全部、包み隠さず話すつもりだ。

 昨夜、トウダイグサを調べた時、すぐに僕はピンと来た。実はあそこで浅井透(あさいとおる)が絵に込めた暗号――〈謎〉はほぼ解けていたのだ。

 花言葉も無いあの草の場合、なんのことはない、答えはもっとストレートだった。命名の由来も関係ない、名前そのもの、トウダイ(・・・・)グサ。但し、燈台じゃない、灯台の方。

 僕が美大一年生だった夏休みに、浅井透とスケッチ旅行したあそこ。

 タクシーの車窓から、その燈台が見えて来た――


 今、燈台は僕の目の前にある。

 その手前……やはりな! 岬を覆うあの日と同じネズミモチの群生。

 この樹木こそ、植物画の最後の一作であるとともに個展会場中央の大作〈去夏の宴〉に繋がる。

 純白の少女を取り巻く緑がこのネズミモチの樹々だ。そして二人が指に持つ真っ白なスプーン……

 その隠し場所を教えてくれたのは、透、おまえだった――

 

 夏の日差しにすべてが煌めいていたあの日、白い灯台と真っ青な空と海を背に、満面の笑顔で緑の茂みを指差して友は言った。


 ――この樹はネズミモチと言って汚染物質に強い。その特性から排気ガスの多い道路沿いや街路樹、都会の公園によく植えられる。モチロン塩害にも負けないから海岸にも群生する。

 ――流石、植物に詳しいおまえらしいな、なんでも知ってるんだな! 

 ――まだまだ本題はこれからさ。この樹は凄いものを隠している。見せてやるよ、(あらた)。 この樹の秘密を。


 さながら魔法の呪文を教える魔法使いのように透は囁いた。その樹、ネズミモチの小さな緑の実を一つ捥ぎ取る。先端を千切ってギュッと押しつぶした。すると――


 ガサリ


「やはり来たな、新。おまえ、俺が教えたその樹の秘密を憶えていたんだな?」

「透――」

 振り向くといつの間にか真後ろに友がいてあの日と同じように笑っていた。

 透は僕を押しのけて若い実を捥ぎ取った。先端を千切り、押しつぶす。すると明るい緑の実からニュルッと二つの白いスプーンが出現した。

 スプーン(・・・・)……

 それ以外に形容できない。誰が見たって完璧なスプーンだ。ただ小さいだけで、玩具かドールハウス用のミニチュアのスプーンに見える。

「これぞ妖精のスプーンさ!」

 あの日と同じ台詞とともに僕の方に差し出して透は言った。

「ようこそ、新! ということは、俺のメッセージを解読したんだな。おまえなら個展会場に並べた絵の意味を読み解いてくれると信じてたよ」

 一旦言葉を切る。だしぬけに低い声で訊いてきた。

「新、おまえは今も俺のことを殺人者だと思っているのか? 俺が百夏を殺したと思っているのか?」

「透……」

「おまえが言ったんだ――」

 そう、僕は言った。その夜、百夏が飛び降りた屋上で、並んで立った浅井透に向かって。


 ――おまえが殺したんだ! 正直に言えよ! 俺は聞いたぞ、百夏が落ちたその時、おまえが傍にいたと。


 確かに、透はあの日、あの瞬間、屋上に百夏と一緒にいた。それを目撃していた数人の学生の証言で警察にも事情を訊かれた。とはいえ、突き落としたという確かな証拠はなく、すぐに解放された。だが僕は透を許さなかった。透の言葉を信じず、彼を責め、罵倒した。


 ――おまえが殺したんだ! この人殺しめ! おまえは殺人者だ!

 ――俺はそんな真似はしない。何故、信じてくれない?

 ――その時、おまえは傍にいた。それだけで十分だ! 他に誰があんな真似が出来る? 百夏を突き落とすなんて……

   おまえだけだ、あの場にいたのは! あの瞬間、おまえだけが百夏の一番近くにいた!

 ――そうだな。俺は傍にいて、おまえはいなかったものな……


 そうだな(・・・)俺は傍にいて(・・・・・・)おまえはいなかった(・・・・・・・・・)ものな(・・・)……


 そのとおりだ。その時、僕は百夏の傍にいなかった。

 真実だからこそ、一番言われたくないこと――ナイフのように胸を(えぐ)る言葉だった。頭が真っ白になり、僕は怒鳴った。


 ――俺はおまえを許さない。証拠がなくったっておまえは殺人者だ! 永遠に呪ってやる! おまえの顔など二度と見たくない! 消えちまえ! 僕の眼の前から消えちまえ! この世から消えちまえ! 



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