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画材屋探偵開業中!  作者: sanpo


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 :少女の心〈3〉


「ハハァ、これだな!」

 三人がいなくなると、早速僕は〝消えた掛軸〟の原画をPC画面に映し出してみた。

 

 〈雪見八景・豊國(とよくに)画〉


 少年とその母が言う通り、素晴らしい絵柄だ。

 遊女が和時計を見つめている。脚付きの火鉢の下にそっと置かれた恋文らしき紙片。遊女はこれを書いた想い人がやって来るのを今か今かと待っているのだろう。外は今日一日、雪だったらしい。黒地に金の蒔絵の膳には雪兎が乗っている……

 雪景色を一切描かず、見る者に季節を伝える見事な構図と表現力。流石、天保年間(1830~)の江戸で、役者絵では写楽を超える人気を博し、美人画では歌麿と競った豊國ならではだ。

「ふふ、今回は安楽椅子探偵ってわけね、(あらた)さん」

 レジカウンター奥に設置してある簡易(ミニ)キッチンでココアを淹れながら来海(くみ)サンが面白がって笑う。

「まぁね」

「で、先刻の三人の証言とその画像の絵柄から、何かわかった?」

「あ、ココアは三つにして」

「え?」

 僕がそう言ったのと同時にドアベルがカラランと鳴ってセーブル色の扉から少女が入って来た。

 先ほどの一人、池野風花(いけのふうか)さんだ。

「ようこそ! 冷えるねぇ。今、ココアが来るからまずは暖まって」

 レジカウンターの上、少女と僕、そして自分の前にそれぞれ湯気の上がるカップを置くと来海サンが僕をつついて小声で訊いてきた。

「驚いた! ホームズ張りね? どうして彼女が戻って来るとわかったの?」

「答えは簡単。僕が『もう一度ここへ戻って来るように』と記したメモを渡したからさ」

「!」

 これぞ探偵の常道手段。

 そう、帰り際、ハンカチを返す際、一緒に折り畳んだ紙片を紛れ込ませたのだ。

 彼女は気づいて従ってくれた。

「安心して、池野さん。君の不安はわかってる。だから、心配せずに全てを話してほしい」

 僕は励ますように語りかけた。

「君は掛軸を盗ったりしてはいない。だけど、そのことをきっぱりと言えない小さな振る舞いをした。帰る際、取るに足らないささやかなもの(・・・・・・・)を茶室から持ち去ったから――それで他の二人に『何も盗ってはいない』とは言い切れなくて困ってるんだよね?」

 池野さんはまばたきして、

「その通りです。何故、知ってるんですか?」

「それは――推理したからさ!」

 僕は片目をつぶると人差し指を立てた。

「君も生駒君も、茶室にあったもので掛軸以外(・・・・)、ひとつ、僕に言い忘れているものがある。逆に大西(おおにし)さんだけがそれについて詳細に語ってくれた。でも、大丈夫。君の持ち出したもの(・・・・・・・)が逆に君の潔白を証明できると僕は思ってる」

「ほんとですか?」

「それを、今、持ってる?」

「ええ」

 少女はオーバーのポケットを探ると、それを取り出した。

 (てのひら)の上には二粒の丸い真っ赤な実……

 ああ、やっぱりな!


 翌日。ピリリと肌を指す透明な冬の朝を斬り裂いて自転車でやって来た少年。

 きっと全速力でペダルを漕ぎ続けたのだろう。店内に駆け込んでからもすぐに言葉が出ず、肩を揺らして喘いでいる。

「やあ、来たね!」

 僕はそれを差し出した。

「確認してくれ、これ(・・)かい?」

「これです!」

 掛軸を手に生駒君は叫んだ。

「どうして――どこで、どうやって、見つけたんですか? しかも、こんなに早く……」

 僕は答えた。

「最初に君が言ったように今回の謎は物凄い難問だった。それで、僕からお願いがある。一度だけ謎解きを披露するからこのことは君の胸にだけ納めてほしいんだ」

 ハッと息をのみ生駒君はうなづいた。

「わかりました。僕は母に無事、掛軸を返せたら、それでいいんです」

 今日こそは黄色いゴッホの椅子に少年を座らせると、僕は話し始めた――


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