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デストロイエンジェル  作者: 零時桜
エピローグ
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エピローグ - Ⅰ

 少し出掛けると途中で分かれたホノカとササコ先輩を見送り、僕とクレインはミオリ邸へと帰宅する。目覚めたクレインは何処となく気怠げで、自分が成し遂げたことを未だ飲み込み切れていないような印象だった。ソファに背中を預けたまま、半分だけ瞼を開いた青い瞳を僕に向ける。


「んん……タカト?」


「おはよう、クレイン。もう朝だよ」


 アミナとの死闘から数時間。既に太陽は空に昇り、じりじりと街を焦がし始めているようだ。夏休み後半の朝。クレインがどうしても果たしたかった仇討ちを見事に成功させた日。僕にとっても、思い出深い日になるはずだ。


「私、眠ってしまっていたのね。ふぁ……っ。少しずつ、思い出してきたわ。アマトは破壊されたけど、お姉ちゃんのファロトが私を助けてくれた事、そして、私がこの手でアミナを倒したことも。夢じゃ、ないのよね」


 あの屋上で、何度も会話を重ねたことだ。もちろん、僕は頷きを返す。


「夢なんかじゃないよ。君は確かに成し遂げたんだ。ルーシャさんの仇討ちを」


「ええ。でも、未だに実感が湧かなくて。本当に私に出来たんだって、信じられないのよ」


 手首のファロトがキラリと光る。彼女が自分の成し遂げたことを信じられないのは当然の話だ。彼女にとってルーシャさんは常に自分の前にいた人だから。そんなルーシャさんを、そしてルーシャさんを倒したアミナを、クレインは超越した。拭いようのない事実。


 不意に、彼女へ触れたくなった。少しだけ身を寄せ、クレインの手をそっと握る。彼女は拒まない。代わりにパッと顔を上げたかと思うと、その頬が桃色に染まっていく。


「タカト?」


「僕が証明するよ。君が全てを終わらせたんだ。終わらせても、ルーシャさんは戻ってこないけど……その代わり、彼女は奇跡をくれたんだ。アミナを倒す力を」


「そう、ね。今は形見になってしまったけれど、お姉ちゃんがくれたこの力、これからも振るわないとね。それが、お姉ちゃんに対する弔いかもしれないから」


 左右でデザインと色が少しだけ異なる、ファロト。ルーシャさんがアミナの活動に賛同していたら、クレインも人間界の侵略へ加担していたのだろうか。そんなイフの想像ばかりしてしまうが、ルーシャさんの勇気ある行動に感謝するしかない。


 そのときだった。




「――こほん。取り込み中のところ悪いが、私たちのことも忘れないで欲しいな」


「お邪魔します、タカトくん、クレインさん。おふたりともすっかり仲良しですね。ああ、元から仲良しでしたか」




 ホノカとササコ先輩の声で、僕とクレインはほとんど同時に手を引いた。掌に残るクレインの温かさが徐々に冷めていくのが名残惜しい。


「な、何をしに来たのよ」


「何とはなんだ何とは。お前の体調を心配してやっているというのに」


 ホノカは少しだけ頬を膨らませながらも、手にしたビニール袋をローテーブルの上に置き、その中から出てきた箱を開く。同時に立ち上る甘い香り。姿を現したのは丸々としたシュークリームだった。包装紙に包まれたそれが四つ、整然と並ぶ姿にクレインは目を光らせる。


「え、これ……」


「駅前の有名店の物だ。ササコ先輩に教えてもらった。疲労には糖分補給が一番だからな、食っておけ」


 シュークリームはホノカの好物だったはずだ。自分が食べるよりも先に差し入れるとは、このふたりも幾多の戦闘を経てお互いの絆を取り戻したのだろうと悟る。


「勝手に買ってきたのはあなたよ、ホノカ。まあ、食べないと勿体ないし、遠慮なく頂くとするわ」


 口調こそ素直でないが、クレインはすぐにシュークリームを手に取り、頬張る。口の中で甘さが弾けたのだろう、何とも幸せそうな表情を浮かべつつ一口二口と食べ進めるクレイン。


「お気に召してよかったですね。ところでタカトくん、アミナと、何か話しましたか?」


 ササコ先輩は微笑みを見せながらも、僕とクレインと同じようにソファに座って少しばかり表情を引き締めた。問い掛けに対して、アミナとの最後の会話を振り返って思い出しながら話す。


「はい。まず、この世界と先輩たちの世界を結ぶ「ゲート」はまだ閉じていないこと、そしてアミナが次の手をもう打っていること……です。アミナは「種を蒔いてきた」と話していましたが、何のことかは分かりませんでした」


「そうですか。今の話を聞いて、ひとつだけ確信を持ちました」


 ササコ先輩が声を上げると、クレインもホノカも彼女に注目した。無論、僕も。先輩が得た確信とは何なのか、気にせずにはいられなかった。


「確信、ですか?」


「ええ。私たちの知らないところで、アミナは色々と手を回していたことでしょう。「種」というのは、恐らく次世代のディカリアのことです。どこまで影響が及んでいるかは分かりませんが」


「次世代のディカリア、だと?」


 シュークリームを頬張ろうとしていたホノカが目を見開く。ディカリアは彼女たちにとっての共通の敵。それは、アミナが倒された今日においても変わらない。


「まさか、私たちの下の世代が……?」


「鋭いですね、クレインさん。私も全く同じ考えです。まあ、こちらからは私たちの世界に戻る手段は今のところ確認できていないので、想像するしか術はないのですが」


 クレインたちの後輩。彼女たちが、次世代のディカリアとなって、アミナの遺志を継ぐ可能性も否定はできないのだ。思えば最期の瞬間、アミナは不思議なくらい抵抗をしなかった。ファロトの盾を退けて、クレインに一矢報いるくらいのことは平気でやってのけそうだったアミナ。次世代のディカリアに、全てを託したというのだろうか。


「ともかく、アミナが倒れたことでヒドゥンの侵攻も少しは沈静化するでしょう。次世代のディカリアが現れるまでの間、私はヒドゥンの残党を狩りつつゲートの調査を進めます。アミナが作ったゲートですが、一方通行ではなく必ず私たちの世界に戻る方法があるはずです。まずは、場所の特定から進めないといけませんけれどね。そのためには……タカトくん、君にも手伝ってもらいたいのですが、大丈夫ですか?」


 先輩の瞳が僕を見つめる。クレインと共に戦うと決めたときから、僕の心は変わっていない。悩む必要などどこにもなかった。


「もちろんです。クレインやホノカや先輩たちみたいに戦えないけど、僕にも協力させてください。戦いを、終わらせるために」


 クレインとアミナの戦いという、ひとつの区切りはついた。だが、これから待ち受けている戦いももちろん存在するだろう。ヒドゥンとディカリアの侵攻を食い止め、アミナの野望に終止符を打つ。このヒドゥンの弱点を見ることのできる瞳が、少しでも役に立つなら。

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