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デストロイエンジェル  作者: 零時桜
第八章『喪失、そして』
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第八章『喪失、そして』 ‐ Ⅷ

「く、うッ……随分と余裕を見せてくれるわね、アミナ」


「当たり前だろう? お前たちも竹谷タカトも皆殺しにしてやるが、やっぱりお前は最初に殺してやらないとな、クレイン。姉妹仲良く「ヒドラ」の餌食になれ」


 紫色の刀身に何本かの蛇のような生物が巻き付いた意匠の剣、ヒドラ。実際に対峙しているわけではない僕ですら、今までに経験のないようなおぞましさと威圧感を覚えている。


「お姉ちゃんを殺す必要なんて、どこにあったの?」


 距離はそのままに、クレインはアミナへ向け話しかけた。疑問は、僕がカフェで聞いたこと。少しだけ警戒を解くクレインに、アミナも僅かながら剣先を下げる。が、まるで隙はなかった。


「竹谷タカトに話したことをお前にまで話すのか? まあいい。アタシたちの……ディカリアの目的は、ヒドゥンとの共存、そして人間の世界を破壊すること。奴らは言葉を理解しないが、ちゃんと飼い慣らせば立派な駒になる。ほら、あっちの奴も苦戦してるみたいだぜ?」


 コハク型を相手に立ち回るホノカが、遠目に見えた。激しい火花を撒き散らしながら続いていく戦闘。ホノカは息も絶え絶えだが、コハク型の方は疲れを知らない様子で無感情のまま刃を振るい続ける。


「だからと言って、執行兵の責務を放棄していい理由にはならないわ。お姉ちゃんも、それをあなたに伝えたかった。きっとそうよ」


「どうだろうな? どっちにせよもう死んでいる奴の話をしても、蘇るわけじゃない。それはお前が一番理解しているだろう?」


 クレインの言葉も憶測にすぎない。だが、それはルーシャさんにとっても、クレインにとっても無念なことに代わりはないはずだ。


「それは――」


「起こってしまったことは変わらないんだよ。いくらお前が悔いても、ルーシャは帰ってこない。その仇討ちの根性は認めてやるよ。ただ、これ以上アタシに歯向かってどうなるかは保証しないぜ」


 再び中段の構えに切り替え、臨戦態勢を作るアミナ。奥歯を噛み締めつつ、クレインも武器を構える。後方のヒメノも同様にアミナを狙うが、全く隙のない構えを前に矢が放てないでいる様子だ。下手に攻勢に出てしまえば、カウンターをもらってクレインに被害が及ぶ可能性もある。


 執行兵同士の連携が戦局を左右するといっても過言ではない。コハク型と戦っているホノカも加えられれば盤石の布陣が組めるのだが、そういうわけにもいかない。


「本当に来ないなら、こっちから行く、ぜッ!」


 ニヤリと口元に笑みを張り付かせたアミナは、手にした大剣の重さをもろともせず、クレインとの距離を詰める。ササコ先輩もそうだったが、早い。とても目で追える速度ではないと、僕の本能が告げている。


 そのまま思いきり叩きつけられた剣。クレインはアマトを使い防御に徹しようと試みるも、槍を二本、十字の状態で受け止めるのが精一杯だ。ヒトヨの鎌のときとは違う、アミナのパワーをひしひしと感じる。


「ほら、どうした? まだルーシャの方が楽しませてくれたぜ?」


「っく、うッ……!」


 耐えきれなくなったクレインは足に力を入れてアミナの大剣を振り払うように後退したが、それを見逃すアミナではない。体勢を崩すことなくそのままクレインに肉薄し、今度は下段から剣を斬り上げるように振り払った。


「……うぐッ!?」


 激しい火花が散る。寸でのところでアマトを使い受け止めたが、明らかな殺意を持ったその刃を完全に往なすことは難しく、クレインの身体が大きく弾かれる結果になる。


 軽く宙を舞い不安定な体勢で着地したクレイン。そんな彼女が顔を上げるとほぼ同時に、後方から矢が放たれる。ヒメノによる援護射撃は、真っ直ぐにアミナを狙った。


「はッ、まるで羽虫だな。こんなもの、アタシには何発撃っても届かねえよ」


 剣で対応されたのならば、ヒメノもまだ納得がいっただろう。ただ、今回はクレインにすぐに反撃される心配がない。接近する矢に恐怖することなど一切なく、あろうことか、素手で矢を受け止める。そのまま、ぼきりと圧し折った。


 これには、クレインもヒメノも動揺を隠せない。銃弾程でないにせよ、目で追うのが難しい武器だ。それをいとも簡単に、無力化してみせたアミナの強さ。ヒトヨとも、キララとも、もしかするとあのササコ先輩とも違う、別次元の強さだ。


「く、届かない……」


「ヒメノ!」


 次の矢を番えようとするヒメノの傍に、クレインが駆け寄る。何かを話しているようだ。


 僕の位置からでは聞こえないものの、それはアミナを負かす作戦に他ならない。そんな姿を見せられてしまえば、当のアミナも苛立ちを隠せない。


「おい……この期に及んでお喋りか?」


「それはどうかしらね。お姉ちゃんを倒すほど強いあなたに勝つためには、綿密な作戦も必要なのよ」


 クレインも強気な笑みを覗かせるが、その実、恐怖は拭えないはずだ。ただ、彼女はひとりではない。矢を番えてじりじりと後退するヒメノに、アイコンタクトを飛ばす。


「結構な心掛けだが、これだけは予言してやろう。お前たちはアタシに勝てない。どうせ、竹谷タカトも含めて皆殺しだ。コハク型もいることだしな、そう時間はかからないだろ」


 きっと、ホノカとコハク型の戦いに介入し、それに一瞬でピリオドを打つことも可能なのだろう。アミナから感じる余裕。同時に、ヒドゥンに対する絶対の信頼。


「さあ、言っておくけれど、私の仲間も強いわよ」


「知ってるさ。特にあのホノカ、お前らの世代では優秀な執行兵だからな。いくら縦の繋がりがないとはいえ、噂には聞いている」


 僕の位置からではクレインの表情は覗えないが、恐らく面白くない顔をしているに違いない。アミナの話からも、クレインが首席でホノカが次席だったというのは逆で、実際はホノカが主席卒業できる素質を持っていたと考えるのが正しいのかもしれない。


「それは光栄ね。同期として鼻が高いわ」


「もちろん、お前のことも知っている。ルーシャがササコと話をしている姿をよく見てたからな。ま、蓋を開けてみたら恐怖に竦み上がるだけの小娘だったが」


 アミナの挑発はまだ続く。ルーシャさんの名前、ホノカとの比較、どれもクレインの琴線に触れるものだ。

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