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デストロイエンジェル  作者: 零時桜
第二章『忍び寄るディカリア』
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第二章『忍び寄るディカリア』 - Ⅲ

 それはつまるところ、執行兵同士が戦うという状況になる。当然、僕は疑問をぶつけた。


「で、でも、執行兵同士が戦うなんておかしいんじゃないの? 執行兵はあくまでもヒドゥンを狩るための存在で……」


「そうですね、食料さんの仰ることはごもっともです。しかし、クレインのように他の執行兵を憎む者もいます。当然、そうなれば執行兵同士でも争いが起きる。まあ、今回のディカリアのケースは、もう少し複雑な事情がありそうなのですが」


「ヒメノ、詳しく聞かせて」


 こくりと頷いたヒメノは、彼女が知っている情報をひとつひとつ噛み砕くように説明を始めた。


 曰く、執行兵の組織内部に、ヒドゥンと手を組む存在がいるとの疑惑。これは執行兵たちの間で、極秘裏に共有され始めた情報らしい。ヒドゥンと手を組み、そして人間の世界へ侵攻せんと目論む存在。なぜその情報をクレインとミオリが知らないのか、ミオリの口から語られた。


「ミオリは少し前からこちらへ来ていましたし、クレインは諸事情で派遣直前まで訓練を欠席していましたので、知らないのも無理はないかと」


 諸事情、というのは、殺されたクレインの姉の葬儀などだろうか。クレインの表情に、僅かに暗い影が落ちた。


「そっか。でもどうしていきなり、そんな情報が流れたんだろうね?」


「元々疑いのある執行兵はいたそうなのですが、ほとんどこちらの世界に来ていてコンタクトが取れていない状況だったというので。今後派遣される執行兵は、ディカリアの情報を伝えていく義務があると上層部から通達がありました。そこで、ひとつ問題があります」


 表情はほとんど変わらないため覗えないが、ヒメノからは次の言葉を紡ぎづらいというような、そんな雰囲気が滲み出ていた。




「ディカリアは執行兵である以上、あなたたちがディカリアの一員でないという保証はありません。偶然、クレインがヒドゥンを倒す姿は目撃しましたので、ディカリアではないと判断できましたが、ミオリは――」




「そ、そんな! 私、疑われてるの?」


 一気に顔が青ざめていくミオリ。無理もない。ミオリはミオリの、ヒメノはヒメノの言い分がある。それに、同胞に疑われる精神的なショックも重なっている。


 さすがのヒメノも表情こそあまり変えないが、ミオリから微かに視線を外した。


「共に訓練を乗り越えた仲間を疑いたくはありません。しかし、人間の世界と私たちの世界を結んでいるのは、ヒドゥンと協力しているディカリアだとの噂もあります。見過ごすわけにはいかないのです」


「でも、私は……!」


 ミオリの大粒の瞳が、涙で潤んだ。ここで疑われては、ミオリが今まで積み上げてきた実績も何もかも、水の泡になってしまう。そのときだった。


「ミオリ、簡単なことよ。疑いを晴らすためには、ヒドゥンを殺せばいい。今日の夜に決行しましょう。タカトもいるし、ヒドゥンは簡単に見つかるはずよ」


「クーちゃん……!」


「なかなかいいアイディアですね、クレイン。それならホノカの捜索にも繋がりますし」


 三人の意見が一致したようだ。ここでも僕は生餌扱いだけど、それでミオリの疑いが晴れるのならばとも思う。


「タカトも、協力してくれるかしら?」


「もちろん。僕は戦えないけど……」


「いいのよ、戦闘は私たちがするから。まあ、あなたが拒否しても無理矢理連れていく予定だったけれど」


 クレインの悪戯っぽい笑みを見ていると、こんな表情も見せるんだな、という至極当然な感想を抱く。クレインからは離れられなさそうだ、と僕も苦笑した。


「それで、ミオリは何か情報を持っているのですか?」


「私は……ただ、ヒドゥンを倒していただけだから」


「そう。疑いが晴れていない以上、ミオリには頑張ってもらうしかないわね」


「――うん!」


 その後は簡単な集合場所を設定し、残り少なくなった昼休みを名残惜しむように屋上を後にした。




 時刻は午後十一時。さすがにこの時間になっての外出は、両親に悟られるわけにはいかない。何かあってもクレインの記憶操作があるとはいえ、肉親に嘘をつき続けるのはなかなか心が痛むものだ。


 なので、今回は両親が就寝した隙を見計らって、外へと繰り出すことにした。


 玄関をそっと閉めると、冷たい風が頬に突き刺さる。暦の上ではまだ春、上着がいらなくなる日は少しだけ遠い。


「何とか抜けられたわね」


 ホッとした様子のクレインは、出会った時と同じ純白のドレスワンピース姿。薄手の生地に、こちらまで寒さが伝播しそうだ。


「うん……ところでクレイン、寒くないの?」


「これ? ああ、寒くないことはないわ。慣れているからいいけど」


 確かに特に震えている様子もないし、彼女が良いというならばいいのかもしれない。けれど、クレインに風邪でも引かれたら困るのも事実だ。


「僕ので悪いけど、よかったら着る?」


 羽織っていたパーカーをクレインに手渡す。


 僕は長袖シャツ一枚になるが、それでも構わない。


「いいの?」


「君に倒れられたら、色々と困るからね」


 僕のパーカーを、しばらく体温を確認するように触っていたクレイン。やがてゆっくりと袖を通した。


「ありがとう……当たり前だけど、タカトの匂いがするわ」


 クレインの表情は、暗闇でよく分からない。それでも、微かな笑みの気配だけは強く感じた。加えて、そんな言葉を投げられてしまったら、僕は赤面せざるを得ない。照れ隠しに、思わず当たり前の確認をしてしまう。


「き、今日の集合場所、どこだっけ」


「忘れたの? 昨日、ヒメノと会ったあの歩道の下。ヒドゥンは、同じ場所に現れる確率が高いからって話したじゃない」


「ごめん、そうだったよね」


 本当は頭に入っていたことだ。怪訝そうなクレインの表情は「ちゃんと聞いてたの?」と言わんばかり。もっとも、彼女が魅力的に映ってしまったからに他ならないのだが。


 そうこうしているうちに集合場所へと到着した。既に、ふたりの執行兵の姿がある。

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