お仕置き
「久しぶりですね。兄様……しかし……感心しませんね。亜人でも、何の罪もないのに殺してしまうなんて、法に反していますよね?」
「な!? お前はまさか……あのアルベルトなのか?」
兄、いや兄と呼んでも、否定されるだろうことはわかっていけど、あえてそう呼んでみた。
案の定、先程までとはガラリと変わってご機嫌斜めの兄、エリアスが苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
「はい、アルベルトです。……兄様はずいぶんと変わられたようで……」
「お前に兄と呼ばれる筋合いはない! もうお前はベルナドッテ家の人間じゃない、いや人じゃない。……生きていたなんて、腹立たしい!!」
すっかり不機嫌になったが、突然顔色が豹変する。
「いや、考えようによっては3年前に仕留め損ねたヤツが向こうからノコノコ現れたんだ。お前、一体何を考えているんだ? まさか、兄と久しぶりに対面して嬉々として姿を現したのか? 安心しろ、お前はそこのエルフの小娘を始末した後、すぐに殺してやる」
「ですから、亜人とはいえ、殺生は法律違反ではないですか?」
「呆れたな! 満足に魔法を使えないエルフにしてもお前にしろ、生かすも殺すも人であり貴族である私次第に決まっている。そんな有名無実な法律を盾に、正当性を主張する気か?」
「規律を守り、慈愛と博愛の精神を持つことがアースガルド人の矜持と学校で教えて頂いたのですが……」
どちらにしろ、衝突は避けられないだろう。
このエルフの女の子を守るためなら、俺は自重しない。
最初に強い魔力を感じて、探査の魔法で事の次第を捕んで、非道な人間が亜人を害しているのがわかって、慌てて転移して来たものの、既に大半が死んでしまっていて、このエルフの子が最後の一人だった。
その上、その非道な人間が自身の実の兄だと分かると、 やるせない。
「君。大丈夫かい? もう大丈夫だから安心して……ごめんね。早く来れなくて……」
「……わ、私を助けて頂けるのですか? 本当にですか? あなたもアースガルド人なのに?」
少女は勘違いをしている。俺も亜人だ。ただ、兄と同じ銀の髪、碧い目を持っているから勘違いしたんだろう。
「俺は底辺魔法使いでミューなんだ。だから、そこの人殺しと同じ銀の髪と碧い目を持っていても君と同じ亜人なんだ」
「ありがとうございます。でも、この貴族様はとても強い魔法使いで、その、関わらない方が……」
気丈なエルフの女の子は命の危機に際しても、尚、他者を思いやる心を持っているようだ。
この子が人じゃない? この子を守るべき法がない? 俺は憤りを感じた。
「教えて欲しい。この人は何人、君の友達を殺したの?」
「……え?」
彼女は俺の質問の意図が読み取れず、困惑しているようだ。
「理不尽に友人を殺されて、あなた自身も殺されそうになっている。俺はあなたの友人を殺した人数に応じて、この男に相応の制裁を与えます」
俺はエルフの女の子にニッコリと笑顔を向けてこう言った。
「俺は最強の魔法使いの師匠に鍛えられてね、かなり強いんだ。だから、君の無念を晴らして挙げられるよ。さあ、この人の罪の深さを俺に教えて?」
一旦、言葉を切ると、不敵な笑みを浮かべて兄を見据える。
「ッ!!」
兄のエリアスは俺の挑発を受けて、忌々し気に俺を睨みつける。
一方のエルフの女の子はその大きな瞳を更に大きく開いて、俺を見つめていた。そして。
「……5、5人です。5人の友達が殺されました!」
「なら、死をもって償って頂くしかないね。こんなどうしようもない非道な人間を生かしておいてもろくなことはないだろう」
「ダ、ダメです。この人は第一王子殿下の側近です。ですから、殺してしまったりしたら、国を相手にすることになる。……だから、お気持ちは嬉しいですけど、あなたはこの場から逃げてください……」
エルフの女の子は声が段々小さくなって、諦めたような顔になった。
自身の命の為に他者の命が拘わった時、縋ることを諦めるなんて……
「あなたは立派だ。だけど、俺は君を救う力がある。そんな俺に君のような高潔な魂の持ち主を見捨てろと? 本音を言います。俺があなたを助けたいんです。ダメですか? あなたを助けては?」
俺の気持ちが通じたのだろう。エルフの女の子は一旦諦めた顔から再び希望を持つ、あの尊い表情になった。
「……た、助けて、く、ださい! お、お願いします!!」
しかし、そのやり取りを聞いている間に兄、エリアスが激怒する。
「いい加減にしろ!! さっきから黙って聞いていれば!! いい気になるにも程があるだろうがぁッ!!」
口角を釣り上げて嗜虐心をたたえ、歪んだ顔は見苦しい。
「強い師匠にあったのかどうか知らんが、私に勝てるなどと、本気で考えていること自体が不愉快だ! 亜人が魔法で貴族である、私に勝てる訳がないだろう!!」
エリアスに急激に魔力の高まりを感じる、そして、俺も呪文詠唱に入る。
「「主 は 焼き つくす 火、万軍 の 主 は 焼き つくす 火 の 炎 を もって 臨まれる、燃え盛る火はその真価を我が身に示せ『紅蓮の祝福【プロメテウス・ブレイズ 】』!!」」
兄、エリアスの顔が驚愕に変わる。同じ魔法詠唱、同じ魔力回路が構成され、同じ魔素が反応するさまを、自身だけでなく、俺の周りにもそれが起きていることを感じているのだろう。
詠唱が終わると、紅蓮の炎の矢が5つほど現れて、互いに相手に向けて放たれる。
「ば、馬鹿な!? 神級魔法をお前が唱えただと!! あり得ん! そんなことは認めん!」
エリアスが呪詛を吐くように異を唱える。無理もない。何故なら神から授かった才能魔法の天恵を持たない俺が叶えられる筈のない魔法を発動したのだから。
兄の認識は常識において正しい。しかし、事実からすると、全くの間違いだ。
兄、エリアスは自身の遺伝子の中にある、才能をもって、何も考える必要なく、火の神級魔法を唱えることができる。
でも、俺は違う。師匠から学んだ魔法の基本、兄には見えない魔法陣、それに刻まれたルーン文字、そしてそれが意味なすところ。それらを理解すれば、誰でも神級魔法を発動できるのだ。
もっとも、俺はルーン文字の勉強だけで1年、魔法の基礎理論と魔法陣の基礎だけで1年。
そして、師匠の得意な火の神級魔法をはじめ、大半の属性の上級魔法を習得するのに1年。
兄は本格的な魔法の勉強なんてしたことがないだろう。
「兄様、神級魔法なんて、誰でも習得できるんですよ。ただ、あなた達天恵の才能魔法を持っている人と違って、魔法の初歩からたくさんの研鑽を重ねて何年もかかるだけです」
「馬鹿なぁ! 私は神に選ばれし人間だ!! お前のようなゴミと同格な訳がない!」
全く、師匠の言う通りだ。アースガルド人はその魔法の才能に溺れ、選民意識に染まって、自己を最上級の存在とし、他者を見下す。
兄が亜人の女の子を殺戮したことが、その象徴だ。
亜人は人ではない。神に選ばれた者ではない。故に趣向で殺しても構わない。
信じられない傲慢、無慈悲。本当に神に選ばれた存在がそんなことをするわけがない。
そんな人を神が選ぶ訳がない。
そんな兄の考えを正す必要があると思った。今更、この傲慢を変えられるか?
違う、そこじゃない。俺にも彼らの傲慢を変える自信なんてない。
子供のころの経験でそれが無理なことは察することができた。
俺が正したいのは。
「兄様、間違ってますよ。僕と兄様は同格なんかじゃない……」
「は、はは!! やっぱりわかっているのか! どうせ魔道具か何かでインチキでもしているのだろう! 私とお前が同格な訳がない!! 安心したぞ、流石にきちんと身の程はわきまえているようだな!」
「いいえ、僕は兄様のような三流魔法使いじゃありません。格が違うのは当然です。俺が上で、兄様は下。兄様には才能がないんですよ」
「な、なんだとぉおおおおおおおお!!」
激しい憎悪が魔素をかき乱す。全く、無駄に魔力が多い上、満足にコントロールできていないから、始末に悪い。ホント、魔力がもったいない。
「兄様、じゃあ、証明して見せましょう。兄様は火と土の神級魔法を授かりましたよね? じゃあ、何故二つを合わせた応用の魔法を使わないんですか? 例えばこんなふうにね」
僕は詠唱破棄で、師匠の得意な火の神級魔法『紅蓮の祝福【プロメテウス・ブレイズ 】』に土の上級魔法のエッセンスを投入した魔法を発動した。
「『爆裂【エクスプロージョン 】』 !!」
詠唱破棄から突然生み出された5つの紅い紅蓮の炎の矢が兄の後方に吸い込まれる。
ガガーンと着弾した魔法は激しく爆発して、その場にクレーターのような穴を穿つ。
この魔法は師匠の火の神級魔法【プロメテウス・ブレイズ】に土の上級魔法の魔法陣を解析して、魔法に硝石、硫黄、炭粉を供給しただけのものだった。
師匠の家には物理学や化学の古代本が大量にあった。
その中から、火薬というものがあることを知った。
だが、火薬とは名前は火の薬だけど、実際には土魔法の属性にあたる元素に着火するこで大爆発する。
つまり、火薬とは火と土の二つの属性を持つことになるのだ。
そして、攻撃魔法にこの原理を用いたものはない。
僕の応用魔法、名を『爆裂【エクスプロージョン 】』と名付けた。
「な、なんだ今のは? あんな魔法、見たことがないぞ!」
「才能魔法は確かにすさまじい能力ですね。でも、チート過ぎて、アースガルド人から努力というモノを奪ってしまった。『紅蓮の祝福【プロメテウス・ブレイズ 】』は確かに最大級の攻撃魔法です。兄様が更に威力をあげようとか、様々な状態に応じて変化を与えようと思わなかったのも無理ないことだと思います。だって、何もしなくても手に入るんでしょ? 僕はこの魔法を習得するのに1年かかった。それに、基礎を学ぶのに2年」
空から俺の攻撃魔法の粉塵が降りかかる中、俺の冷たい声が響いた。
「ちょっと土属性の上級魔法の応用を加えることでたちまち威力が倍増するのにね」
「知った風な口を、聞くなぁ!!」
俺の口調は完全に上から目線だった。それはかつて、出来の悪い弟であった俺をけなすエリアスの口調を真似たものだ。
それはプライドの高い兄、エリアスを激高させるには十分だった。
怒り狂った兄にダメ押しの言葉を綴った。
「ちょっと、考えれば分かることなのに、3年前から火と土の神級魔法に目覚めていたのにこの体たらくは、思った通り」
「ッ!!」
「兄様、何一つ応用ができないんですね?」
エリアスが忌々しげに俺を睨みつめる。だけど、何も言い返すことができない。
耳が痛い話なんだろう。実のところ、兄だけでなく、全てのアースガルド人がそうで、近年この問題は貴族社会でも問題になっているそうだ。
「ありえない……!」
体を震わせ、兄が喚き始める。
「ありえない、ありえない、ありえない!! この私が、できそこないの弟に劣るなど、何かの間違いに決まっているッ!! 私は神に選ばれた存在なのだ!」
「どんなインチキかは知らないが、どうせズルい方法で成立させているんだろう! お前が私より優れている筈が無い! あってはならないんだよ、神に選ばれた私が負けるなどッ!!」
認めない……と言うより、認めてはいけないとの思いを感じさせる声でエリアスが喚き立てた。
「神級土魔法……『人形の部屋【サモン・ミスリルゴーレム】』!」
「何?」
忘れていたが、兄は火の神級魔法だけでなく、土の神級魔法の天恵も授かっていた。
そこに現れたのは……巨大なゴーレム……
「さあ、見せてやる。お前のインチキな邪法ではなく、神に授かった本当の魔法を!!」
俺の前には身の丈10mはある巨大なゴーレムが出現していた。
鈍く光る銀色の体躯はおそらくミスリル銀製だろう。
「さあ、ゴーレムよ! そこの哀れな亜人を踏み殺せ!!」
ゴーレムは術者の命令を聞くと即座に反応した。
巨大な体からは想像できないスピード、そして、巨大な腕によるパンチが俺を襲った。
「瞬歩!!」
身体強化魔法でエルフの女の子を抱き上げて、その場を逃げる。
そして、一定の距離を取ると、エルフの女の子を下ろして、兄様に告げる。
「忘れてました。兄様は土の神級魔法の天恵も授かっていたんですね」
「ああ、そうだ。ユグラドシル王国史上、10人といない、二重天恵ダブルネームだ。俺とお前の格の違い、見せ付けてやる! そのゴーレムには攻撃魔法なぞ効かぬぞ。たっぷり絶望して……そして、死ね」
全く、兄様には腹がたつ。信じがたく効率の悪く、見苦しい魔法を唱えておきながら、このサイズのゴーレムを作り出すなんて、それもミスリル製。馬鹿げた魔力のおかげか……
魔力が人なみしかない俺にはできない芸当だ。しかし。
「兄様、忘れてませんか? 俺は底辺召喚魔法使いなんですよ? 攻撃魔法なんて、俺にとってはお遊びみたいなものなんですよ」
「なッ!?」
『贖罪の六龍【サモン・シックスペインズ】』
エリアスは現れた召喚獣に驚く。それはそうだろう、神級魔法の召喚獣なんてせいぜいサラマンダー位までしかないはずだ。だけど俺の召喚獣は。
「り、龍だと!! そ、それも6体!!」
エリアスの顔に驚愕の色が浮かぶ。
その顔色はまさかあり得ないといった風だ。だが、彼の疑心も簡単に吹き飛ぶ。
龍の一体が、エリアスのゴーレムにブレスを吐きつけ、ゴーレムが青白く輝き、ゴーレムはあっけなく爆散する。
「兄様、俺の方が上? ということを理解してもらえましたか?」
ガックリと地に膝をつく兄、エリアス。目から涙を流し、ぶるぶると恥辱に震えている。
「……あ、ありえ……ん」
なおをも認めない兄、エリアス……まあ、最初から理解してもらえなくてもいいんだけどね。
ただ、兄に無残に殺された少女達の無念を晴らしたかった。だから、これだけじゃ足りない。
「兄様、そめてこの子に頭を下げて謝ってください。人ならできますよね?」
「ひ、ひぃ」
情けない声を上げる兄。これで少しでも性根が治るといいのだが……そんな訳もないのもわかってはいた。しかし、罪に相応の……いや、相応である筈がない。兄に殺された子の無念、恐怖、痛み……想像するに耐えられない。せめて、兄に痛みを与える。正直、他人に迷惑をかけるくらいなら、この手で殺すべきだと思う。しかし、それはこの少女に止められた。そしてその理由も教えられた……
どこまでも腐ったアースガルド人、そしてその象徴である兄。
せめて兄から無理やり謝罪させよう。
「なぜ、イルゼ達を殺したのですか? エリアス様? あんなに可愛がっていたのに……」
リーゼという少女がエリアスを問い詰める。だが、兄の回答は。
「た、たかが亜人の女の事で何を言ってやがる。安心させて気を許したところを殺した時の顔を見るのが好きだからに決まっているだろう! 面白いからだよ!!」
「たかが? 亜人といっても、目の色や、髪の色が違うだけで、話すこともできるし、アースガルド人と何一つ変わらないではないですか! それをあなたは、イルゼ達をたかがと? ……あの子達はあなたを昨日まで信じていたんですよ!」
俺は思わず嘆息してしまった。元々選民意識の強い人だったけれど、すっかり王都の貴族に染まったらしい、以前はここまで非道なことをする人ではなかった筈だ。
だが、俺の落胆は更に大きくなった。
「な、何だと?」
エリアスの顔がみるみるうちに朱に染まる。
「私とその亜人共が何一つ変わらないのだと? そんな訳がない!! 私は神に選ばれしアースガルド人なんだ!! 不敬であろう!!」
エリアスは突然女の子に詰め寄り、右腕を掴み、腕をねじり伏せた。
「い、いたい゛…止めて、酷い! えっ、いだいよぉ……い、痛い、止めて」
「はは!! いい声で鳴くな。それ、それ! 今直ぐにその誤った思考を矯正してやる!!」
薄ら笑いを浮かべると、乱暴に女の子を組みひしぎ、そして、そのまま覆いかぶさった。
「や、やめて、はなして!」
「だめだな! これからがお楽しみの時間だろ?」
まったく、兄は何を考えているのか? 俺の存在忘れてる?
「兄様! 止めてください、一体何を考えているのですか!?」
「安心しろ、アルベルド、次はお前にも抱かせてやる。私が殿下に頼んでお前をアースガルド人に戻してやる、だからな……わかるよな?」
「……兄様……何処まで腐って」
「……た、助けて……お願い」
あまりの事に兄に呆れる。それに俺のことを同類のように扱うのには怒りを覚える。
そして何より、この女の子は俺の顔を見て恐怖に震えている。
それはアースガルド人がどのような存在と思われているのかを如実に物語っていた。
「その子をどうするつもりなんですか?」
「お前に貴族である特権を教えてやる。この女をおもちゃにして、そうだな。お前には殺すのは刺激が強すぎるようだから、ちゃんと街で娼館にでも売り飛ばすか。お前が一人前のアースガルド人になるとはな、ちょうど殿下が新しい人材を欲しておられた!! お前を紹介すれば私の評価もあがるというものだ!! わははっはっ!! おかしすぎて、笑いが止まらねぇ!?」
俺は怯える女の子の方を向くとこう言った。
「君、リーゼさんと言った? ちょっと、あっちを見ていてもらっていい? いくら兄のしたことを謝っても、許されるわけではないけど……兄を殺してしまうことは俺も気が咎める。だけど、それ相応の痛みを知ってもらうので……女の子の君には見るに堪えないと思うから、だから……」
「は、はい」
リーゼというエルフの少女が後ろを向くと。
「へぇ? 兄様はこの子をどうするつもりなんですって?」
そう言うと、身体強化魔法で素早く兄に近づく、兄には忽然と姿が消えたように見えたろう。
「な! に!?」
兄の右腕は俺の手によって、押さえられていた。
「貴様、気でも触れたか!! 私がお前をアースガルド人に!! それも貴族に戻してやると言ってやっているのだぞ!! たかが亜人のお前が、アースガルド人の貴族に戻れるんだぞ!!」
そう言い終わった瞬間、
「や、やめて、やだ、やめ――――い、いだい゛……ちぐしょう、おまえっ! あぐっ、いだい゛よぉ……あぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
情けない声をあげる兄。
「もう一度聞くよ、この子をどうしようとしてたんだ?」
「ひっ、ひっ、ひぃぃぃぃぃいぃぃ!」
兄は失禁をしていた。ぼたぼたと汚らわしい小水が漏れ出る。
俺はもう我慢する事ができなかった。
「……この子が汚れるじゃないか!!」
次の瞬間、兄の体は女の子の身体から引きはがされ宙に舞った!
ズカン!! と凄まじい音と共に、兄の身体がねじれて後に吹っ飛んだ。それは、人が起こした現象とは思えないようなものだろう。
俺がただ、兄を振り払っただけの行為で、兄の身体は地面に叩きつけられた。
地面にはまるで大砲の弾丸が着弾したかの様な大きな破口を作っていた。
そして陵辱が始まった。俺は兄の顔面に拳をめり込ませた。そして、鼻もちならない、その鼻をバキバキとへし折り、綺麗に並んでいた歯を欠けさせ……。
「ひっ……!? ひぐっ、ふぐっ……!」
「さあ、兄様、お仕置きの時間です。罪に応じて痛い目にあってもらいます
……これはあなたが殺した女の子の分!!」
俺は更に兄を殴った。折れた歯や血しぶきを撒き散らしながら……
兄の端正に整っていた顔は、見るも無残な姿になっていた。鼻は潰れ、歯は折れ、血まみれだ。
「や、止めてぇ、しゃめてくださいぃぃ」
兄が涙を流して地面をのた打ち回るその姿は、人を見下し上位の存在であることに何の疑問も持たず、傲慢をただ誇示していたモノとは思えないほどのものだ。
「……これはリーゼさんの分!!」
ドカン!! とまた凄まじい音と共に、兄の身体は再び空に吹っ飛んだ。
それは、人間に殴られて生じる現象とは思えないようなもので、それこそ女神様の天罰、落雷が落ちたかの様だった。
折れた骨や血しぶきを撒き散らしながら、兄は再び地面に叩きつけられた。
「よ、よくも貴族であるこの私を殴り飛ばすとは……へ、亜人ごときがぁ! 亜人風情がぁ……!!」
兄は涙や血で顔を濡らし、鬼の様な形相だが、ついさっきまでの余裕のある力に満ちた様なものでは無く、プルプルと膝が笑っているのが見てとれた。まるで震えている小鹿のような情けなさだ。
「ま、魔法使い様、もう止めてください……」
例の女の子が俺を止める。
「……しかし」
「……それ以上やるとその人を殺してしまいます」
この子の言う通りかもしれない。相応な痛みである筈もないが、殺してしまう訳にはいかない。
「わかった。俺も実の兄を殺してしまうのは気が引ける。君がそう言ってくれるなら」
俺はこのリーゼという子を連れて、兄をその場に置き去りにして村へと向かった。
後に残されたのは鼻水と涙、血と小便でボロボロの状態の兄は。
「亜人風情がぁ! こ、殺してやる……! 生きてきたことを後悔させてやる! お前をズタズタに引き裂いてから、その女は何度も何度も凌辱してやる!!」
兄、エリアスの声が煩く広い空に響いた。
人の世界に戻って、始まった英雄王アルベルトの伝説。
その始まりとなった戦いを見届けたのは後日、彼の妻の一人となるエルフの女の子だった。
なお、彼は子供の頃、淡い恋心を抱いた幼馴染の女の子、クリスとも再会することになるが、その未来を彼はまだ知らない。
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