◆049 決勝前に
「本日二話目、なのです!」
「ルルちゃんえらい!」ナデリコ
「……7月11日だからコンビニのネタとのことですが、ほとんどコンビニ関係ないですよね?」
「あ、明日からはまた夜9時の一回だからね!」
「……梓ちゃんに報告しよっかな」
「(……大悟、強く生きろよ……!)」
妖怪料理は嫌だなぁ、と思いながら席を立ったおれたちに、土御門さんは飲み物を調達してくるように依頼してきた。
葵くんの決勝進出を祝う意味も込めて、昼ご飯は既に注文してあるとのことだった。土御門さんがいうには、この最終日に出場するということは強者の証であり、それなりの影響力を示すことになるんだとか。
去年までは土御門さん本人が出場し、最終日まで行ったら適当に戦って勝ったり負けたりしていたとのことで、祓魔師協会の利権的なノルマはもうクリアしたんだって。せっかくだから葵くんには優勝して欲しいものだけれど、相手の臼杵氏も相当強かったように見えた。
ロリコンだけど。
そんなことを考えながら、柚希ちゃんと環ちゃんの三人で連れだって飲み物を購入に向かう。向かう先はもちろん普通の自販機だ。
変なエキスとか素材が入ってるのは絶対に飲まないからね!
何故か知らないけれど、出店の賑わいとは裏腹に自販機はそれほど混んでいない。皆、そんなに妖怪好きなのか。
なんとも言えない気持ちで麦茶とかウーロン茶、ジュースの類を適当に買っていく。みんなで抱えて運ぶことになるんだけど、柚希ちゃんが抱えるとペットボトルでむぎゅって潰れて非常に眼福だ。
あー、魔力が湧いてきた……!
「あまねさん、目つきが嫌らしいですよ」
「エッ、ハイ」
「あとでクリスさんに言いつけますからね?」
「た、環ちゃん……ペットボトル、おれがお持ちしましょうか?」
「うむ。苦しゅうない」
下らないやり取りをしながらも席に戻るところで、思わぬ人物と出くわした。昨日、胃が痛くなるような嫌味を言っていた依光氏の秘書らしき女性である。
涙に頬を濡らした彼女は、目の辺りに大きな青あざを作り、ひっつめにしていた髪の毛を乱していた。
「エッ!?」
「あまねちゃん、回復魔法ば掛けたげて!」
思わず固まるおれの脇を柚希ちゃんが駆け抜けた。飲み物を放り出すと、寄り添うようにして肩を抱く。
「どげんしとっと? 大丈夫?」
「……依光様に、叱られて……」
力なく呟く秘書さんに回復魔法を掛けてあげる。多分《風癒》で充分なんだろうけれど、あまりにも可哀そうな姿に思わず《月光癒》を放ってしまった。紫銀の魔力が弾け、即座に秘書さんを癒していく。
あのおっさん、この人に暴力を振るったのか……?
「と、とりあえず席に連れて行きましょう!」
環ちゃんが柚希ちゃんの放り出した飲み物を拾いながら提案してくれたので、柚希ちゃんが寄り添いながら連れていくことにした。そう言えば昨日、呪いがどうとか言ってたし、うまく行けば解呪とかもしてあげられるかも知れない。
「で、連れてきたんだけれども」
「ふむ」
「おかしいですわね……? 昨日は感じた呪いの臭いが消えてますわ」
「せっけんのにおい、です!」
連れて帰ったところで異世界三人娘からは呪いナシの判定を受けた。
えええ……ただでさえよく分からないのに、余計に分からなくなってきちゃったよ。どういうことなの?
怪訝な顔で皆を見るも、誰も説明してくれそうな気配はない。
というよりも環ちゃんが秘書さんのことを随分気にしていて、何があったのかを優しく聞き出し始めたので雑談できる雰囲気ではなくなったのだ。
環ちゃんが聞き出した話をまとめると、やっぱり依光氏――もうおっさんでいいや――が、自陣営のフードが敗退したことに腹を立てて秘書さんを殴ったらしい。そして、そのまま昼食を持ってくるように命令されて、あそこでおれたちに出会ったと。
「……どうして、どうしてそこまでしてあんなのに従ってるんですか!?」
「病気の母が……葬儀代も……あ、え? お母さんは、病気で、あれ? 葬儀をしたの、に、?」
「ふむ、いけませんな」
憤慨する環ちゃんに対し、混乱した様子の秘書さんの焦点がだんだんと合わなくなる。これ、普通じゃないぞ、と気付いたときには三条さんが背後に回って呪符をトトトッと秘書さんに貼った。
同時にふらりと力が抜け、気を失う秘書さん。
「エッ」
「大丈夫です。何らかの理由で呪いが解け、今までの認識や言動との矛盾に気付いたのでしょう」
強烈な呪いや暗示が解けた直後なんかは、そういう違和感が大きすぎて錯乱してしまうことがあるらしい。ってことは、昨日クリス達が言っていたように、本当に呪いが掛かっていたんだろう。
一体、何時解けたんだ?
あのおっさんに暴力を振るわれたからか?
首を傾げるも、答えは出ない。
というか、あのおっさんは何を考えて人に暴力を振るったんだ。
幸いにもアルマが秘書さんの介抱をしてくれるようなので、おれたちは様子を見ながらも昼食である。幼女と秘書さんが横に並んですうすうと寝息を立てている横で食べるのはなんとも食べづらいけれど、しょうがない。
ちなみに一六段くらいあるお重だったんだけど、おれはパス。
連日の食べすぎで胃もたれしてるし、夜はプールだから動けなくなるような事態は避けたいのだ。
代わりに、というかやることもないので、お重の中に入っていた和風ソースのローストビーフをナイフで削ぐように切り分ける役目をしている。見栄え重視なのか、少しでも味が良いものを届けようとしたのか、ブロックのまま真空パックになっていたのだ。
付属のナイフも金属製で普通に豪華なカトラリーって感じだし、本当に金持ちの頼むものってすごいんだな……。
なんとも言えない空気の中、合流してきた葵くんも含めて皆で食事を摂り始める。
環ちゃんなんかは考え込んでしまってほとんど箸が進んでいないけれど、その気持ちはおれも痛いほどわかる。異世界でもあったけれど、本当に嫌な気分だ。
心の中で沸々と湧き上がる怒りを抑えながらもローストビーフを切り分ける。三条さん曰く、薄く切った方が美味しいらしいんだけども、慣れてないので厚みがばらばらなのはご愛敬である。
代わりにやってくれようとしたけど暇だし、嫌なこと考えちゃうから手を動かしたい気分なのだ。
ようやく全部を切り分け終えると、味見に一枚だけパクリ。
「……うっまい」
柔らかくもジューシーな肉に、玉ねぎと醤油がベースになっているソースと絡んですごく美味しかった。お重の中には稲荷寿司や煮物、鯛の尾頭付きなんかがババンと入っていたほか、テリーヌやマリネなどの洋風な品も入っている。
どれもこれも見栄えが良いので、写真を撮っておくのもありだったかもしれない。特に、プチトマトのマリネは色んな色のやつを使っていたのですごく可愛い感じだった。
食事も中盤に差し掛かると、葵くんと臼杵氏の決勝に関する話題がぽつりと出てきた。
「魔力弾に関しては、特訓中に柚希さんに散々狙撃されたんで大丈夫だと思います」
「準決勝も楽勝やったもんね!」
「問題は攻めだな」
スピードで攪乱しようにも、臼杵氏のスタイルはカウンター系で相手をいなしたり、攻撃を弾いて隙を作ることに長けていた。
そういう意味では、中途半端な攻撃をするのは逆に悪手になりかねないんだとか。
かといって葵くんには一撃必殺、みたいな技はほとんどない。
煽り系実況者に打ち込んだ魔法はどうなのか聞いてみたけれど、首を振られてしまった。
「《朱雀》は溜めが大きいですし連発できるほど魔力がないです」
《朱雀》っていうのか、あれ。カッコいいなぁ。
もしかして《青龍》とか《玄武》とか《白虎》もあるのかな?
「攻めの速度をさらに上げるべきですわね」
リアの提案は、単純かつ分かりやすいものであった。攻める手数をさらに増やしていくことで、相手に攻撃の隙を与えない。よくいう『攻撃は最大の防御』って奴だ。もちろん、フードとの対決を見る限り臼杵氏の反撃も厳しいものになるだろうが、それが一番良さそうな案であった。
なんとなく方針が決まったところで戦闘できる組の人たちが、自分なら臼杵氏を相手にどう立ち回るか、なんて話題になった。
もう完全についていけません!
おれ、戦えないもん。
それに午後の試合も楽しみではあるけれど、何よりも夕方からのナイトプールがおれの本命だ。
皆の水着に思いを馳せながらも、眠り続ける幼女のお腹をぽんぽんするのであった。
いやだってやることないし。
これやると、小っちゃい子って落ち着くって言うしね。
「大悟さん、コンビニ経営に興味がおありですか?」
「ヴァッ!? どどど、どうしてっすか!?」
「そういうゲームをプレイしてるって聞いたので。ライブハウス経営と蕎麦屋の経営はどっちが良かったですか?」
「つ、そのエンドは昨日見たばっかりなのに!? 環っすね!?」
「今は激辛フルーツサンドとメイプル稲荷寿司のどっちを仕入れるかで悩んでいるそうですね」
「ご、ゴメンナサイ……!」
「なんで謝るんですか? コンビニとか店舗経営のシュミレーションゲームって聞いたんで、私も一緒にプレイしたいな、って思ったんですけど」
「エッ」
「……ご迷惑でしたか?」
「環ぃ――! 本気で許さないっすよおおおお!?」
「……?」




