◆042 初戦開始
「食べ物よーし」
「よし、です!」
「飲み物よーし」
「よし、です!」
「あとは観戦するだけだね!」
「応援、です!」
「んー、何だかんだでわくわくするねー」
「あ、この串焼き、『あたり』って書いてあるです!」
「ルルちゃん、やりましたね! あたりを引くと評価・感想・レビューのどれかがもらえるんですよ!」
「さらっと嘘吐くのやめようか」
「あ、しかもこの『あたり』は印字がずれてるのでさらにオマケが付きますよ!」
「オマケ、です?」
「ファンアートまでもらえるかもしれません!」
「……急に昭和の駄菓子屋っぽいルール出してきてファンアートまでせびってる……!」
蒿雀という妖怪の肉を使った唐揚げ串。ニンニク醤油味。1000円。
黒毛和牛100%のビーフパティを鬼火で直火焼きにしたハンバーガー、3500円。
河童から出汁を取って作った焼きチーズカレー、2500円。
飲み物は私とルルちゃんが牛鬼から絞ったミルクで作ったラッシーで、クリスさんとリアは解呪薬入りのタピオカミルクティーだ。
ちなみにこれらは全部経費で落ちるとのことなので、領収書を後で葵くんにプレゼントする予定である。任せてください、って言ってたので遠慮はしない。葵くんのお小遣いとかじゃなくて、土御門家の支払いだったら何買っても大丈夫だろうし。
本当は、妖怪『赤えい』のヒレ酒も気になったんだけど、さすがに未成年だから諦めた。
あまねさんと柚希さんは妖魔を食べることに忌避感があるらしくてどこでも売ってそうなものばかり買っていたけど、こんなの絶対に食べる機会ないんだし、何事も挑戦してみないとね!
土産物もちょいちょい買ったけど、そっちは後で検分することにしてまずは実食である。せっかく未知の味な訳だし、冷めちゃったら勿体ないからね。
「蒿雀の唐揚げだそうですよ? 一口どうです?」
「よ、妖怪でしょ? 食べないよ?」
「ん-、ちょっと高級な鶏肉って感じですかね。柔らかいしジューシーです。はい、アーン」
「た、食べない! 食べないぞおれはっ!」
うん、いつも通りあまねさんは可愛くて最高。
騙して口に入れたい気もするけど、さすがにこの警戒心だと無理だろうなぁ。せいぜい飲み物を交換するくらいが限界だろうけど、乳製品はお腹壊しやすいって言ってたしラッシーは可哀そうだ。
かと言って解呪薬入りのタピオカミルクティーもなぁ……多分大丈夫だと思うけど、あまねさんは淫魔な訳だし、万が一ダメージでも入ったら冗談じゃ済まない。
多分ゲームの印象なんだろうけども、妖魔とかモンスターとか邪悪なものって回復薬的なものでダメージ受けるイメージあるよね。蘇生アイテム使うと一撃で殺せたりとか。
まぁ私の予想が正しければ、あまねさんはもうそういうのは効かないと思うけど。
「お、何か始まりそうですね」
あまねさんをイジメていると場内アナウンスが『披露会』の開始を告げた。
「環様、観戦に集中なさいますか? お食事はこのアルマめにお任せいただければ咀嚼から嚥下まで――」
「だ、大丈夫」
「左様ですか……」
残念そうな顔するのやめなさい。
どんなにお願いされても代わりに咀嚼を頼むことはないからね!?
下手すると、アルマが食べて、分解した栄養素だけを私の血管に直接入れるまであり得るんだよね……マジで何なの神代の人たち。
『レッディィィィィィィィィィス・エンッ・ジェントォメェェェェェェェェンっ! 今年もこの日がやってきた!! 血で血を洗い、金と権力を毟れるだけ毟る最っ高の三日間!!! 祓魔師協会成果披露会の開幕だぁぁぁぁぁぁ!!!』
やたらテンションが高い司会に合わせて歓声があがる。
ノリノリだけどうるさいよ……これじゃ落ち着いてあまねさんをイジメられないでしょ。内心で苦情を入れつつも中央部、どうやってかは不明だけれど全面が石畳になっている部分を見れば、色違いの石を組み合わせて四角い区切りが四つほど出来上がっていた。
東京ドームって普段は芝生だったはずなんだけど、祓魔師協会が特別な術を使ったか、もしくは財力にものを言わせて敷き詰めたかのどっちかだろう。
柔道の試合会場みたいなイメージだけれど、参加者が多いので初日は4試合ずつ進めていくらしい。
「さて、お手並み拝見といきますか」
トーナメント方式らしいし、最初はサクサク進めていかないと三日じゃ終わらないんだろうね。
ジューシーな唐揚げを頬張りながらも見つめると、やたらうるさい巻き舌で名前や所属する流派なんかが紹介されていく。んー、苗字だけで考えても全国津々浦々から祓魔師が集まっているのが分かる。
祓魔師の家系のことは知らないけど、古くからある家だと苗字ってだいたい地域が特定できる。戦国大名とかそういうのを考えてるだけだからズレてる可能性もあるけど。
さて、初っ端から葵くんも戦う。
ちょっと遠くになるから見づらいけれど、
「環様。私が代わりに視認して脳に直接情報を――」
「大丈夫」
ゆ、油断も隙も無い!
懐から出した針みたいな電極をしまいなさい! そんな観戦方法選ぶわけないでしょ!
葵くんはいかにも陰陽師っぽい狩衣姿である。さすがに烏帽子はついていないけれど、白地に朱の差し色が入った衣装は如何にも祓魔師っぽくてカッコ良い。両手には抜き身の小太刀を握っていて、いつでも戦える状態なのがはた目にもわかる。
うーん、小太刀はともかくとして、狩衣はあまねさんに着せてみたいなぁ。
あとルルちゃんも似合いそう。
葵くんの相手はジャージにバンダナというコメントし辛いファッションの女性だったけれど、その傍らには3メートルはあろうかという巨躯の妖魔がいた。牛の頭に人の身体をもったそれは、牛頭鬼と呼ばれる妖魔だろう。地獄で獄卒をしているとか、そんなような伝承があった気がする。
遠目からも随分と存在感のあるサイズの鉞を担いで筋骨隆々な姿ではあるが、どうにも強そうに見えない。
「……なんで乳牛みたいな毛色してんの?」
「ホルスタイン種ですよね、あの模様。しかもメス」
「思ってたんと違う」
「そうですね……お肉は美味しいんでしょうか」
「あーうん……おれは食べないけど、もしかしたら? おれは食べないけど」
白地に黒の斑が入った毛並みに、胸辺りの複乳が盛り上がっている姿はまったく強そうに見えない。
『それでは皆さんお待ちかねの第一回戦、開始ぃぃぃぃぃぃッ!』
開始の合図と同時、葵くんは地を這うように駆け出した。牛頭鬼も肩に担いでいた巨大な鉞を構え直して振りかぶるけれど、どう見ても間に合う速度ではない。
「おー、一撃! ってグロっ!?」
「うん。悪くない。が、慎重になりすぎだ」
「あの程度のモンスターなら、腕を落としたりせずに頭を落とせば一撃ですの」
「んー、良か滑り出しやね」
葵くんが駆け抜けた直後、牛頭鬼の両腕がぼとりと落ちる。一緒に落ちた鉞が轟音とともに石畳に突き刺さっていた。
一撃の威力を重視した感じの武器なのかな?
まぁクリスさんも柚希さんもリアも落ち着いてるので、まったく問題にならない程度の相手なんだろう。勝手にそう判断して唐揚げを頬張る。
うん、美味しい。
私がその一口を終える前に、葵くんのところは決着してしまった。相手が降参したらしく、牛頭鬼がさらりと溶けて消える。
「腕が落ちただけで送還か。軟弱な」
「まぁまぁ。彼我の実力差が理解できただけ上等だと思いますわ」
「どうせ勝てんけん、良か判断ばい」
戦闘できる組の三人がそれぞれに感想を言う。私にはサッパリ分からないので、ルルちゃんを抱っこしたり、あまねさんとイチャイチャしながら見てるだけである。
とはいえ、葵くんは相当な実力を持っているらしいので然も有りなん、という感じではある。クリスさんも柚希さんもバッチリだって太鼓判を押していたし、異世界で護衛をしてもらっていたときにも暗殺者の襲撃なんかを鎧袖一触で吹き飛ばしていたからね。
リア曰く、『速度特化の上に手数で攻めるタイプですわね。呪符を使った魔法もバリエーションが多いですし、妙に打たれ強いので正直戦い辛い相手ですわ』とのことだった。
クリスさんの話では日本の人々に比べると異世界の人々の方が総じて強いらしいので、異世界人の中でもエリートなリアにここまで言わせるのであればこの結果も当然だろう。
『い、一撃ィィィィ! Cブロックの一回戦がもう終わってしまった! さぁ、土御門選手が早々と二回戦進出を決めてしまいました!! 土御門選手はあの悪名高い土御門家の次期当主と目されておりますが、弱冠十三歳でこの実力はさすがに予想外だぞおおおおおお!?』
オーディエンスが放送に合わせて拍手を送る。
葵くんは両手の小太刀を収めると小さく周りに向かって一礼。
『し、しかも礼儀正しいぞおおおおおおおおお!? あの土御門家のご令息とは――あ、いや、申し訳ない!! 書類不備があったようで手元には男性と書かれておりますが、可憐なご令嬢です! 礼儀正しく強いご令嬢だァ!!!』
あ、やっぱりそう見えるよね……ほんと、ついてなければ速攻で騙くらかしてたんだけど。Y染色体を呪いながら葵くんへと目を向ければ、コキコキと首を鳴らすような仕草。
それから呪符をバラリとまき散らすと、
「俺は! 男だァっ!!!」
観客席に向けて炎の魔法を放った。
輝きにすら見える白の炎は大きく羽ばたく鳥の形を取り、東京ドーム内を舞う。前にネット上で見たアルミニウムの高温反応――テルミット反応だったか――よりも明るい色合いだ。確か最高温度が3000℃だったから、それよりも高温になっているんだろうな。
『おおっと! 突然実況席に術式をぶち込むとは、やはり土御門の遺伝子は健在だぁ!! でもご心配なく!! こんなこともあろうかと観客席と実況席には藤平家・坂上家合同の結界が――ぁっ!?』
不可視の何かがバリンと砕ける音がした。
鋭角なくちばしをもった炎の鳥は結界を破砕し、そのまま実況席へと吶喊した。
『流石は土御門! 藤平・坂上両家にさっそく喧嘩を売っているゥ!!! ちょっとこのままだと本気で不味いので別の場所へと移動します!!! うおっ!? 金属溶けんのかよ!?』
えええ……実況の人も無事なんだ。
というか土御門の遺伝子って……梓ちゃんパパは一体何をやらかしたんだろ。
『さて、自称ご令息が暴走している間に各ブロックともに決着がついている! 次のブロックが始まるまでもう少しお待ちください!! ――お客様の中に、藤平・坂上一門の方はいらっしゃいませんか? いらっしゃったら大会本部までお願いします!』
あんな攻撃受けた直後にまだ煽るって随分余裕だよね。っていうか結界張り直してそのまま続行するつもりなのか。
いやまぁ、私のところに炎の鳥が飛んで来たらひとたまりもないしぜひお願いしたいところではあるんだけど、どうにも危険な雰囲気には見えない。
隣の親子連れも和気あいあいと言った感じだ。
「パパ! いまの見た!?」
「みたみた、すごかったなー」
「アレが使えれば、ウチをバカにしてきた宗家のヤツらも一瞬で黒焦げだよね!?」
「そうだなー、ガンバってたくさん練習しようなー。目指せ下剋上だ」
「うん、頑張る! げこくじょー! ぜんいんの首をはねて並べてやるー!」
無垢な女の子が興奮で瞳をキラキラさせてる姿は――ってそうじゃない。
内容的にはびっくりするくらいドロドロだけど、会話の雰囲気が一輪車乗れるようになりたい、と同じレベルに聞こえるのだ。
祓魔師界隈の闇が深すぎるのか、それともあのくらい普通なのか。
おそらく前者だろうけど、あんまり関わりたくないなぁ。
私は一回戦の前半を終え、捌けていく選手たちを眺めながら出店で買ったハンバーガーを頬張った。うーん、スモーキーで美味しい。
「さっき出店で☆が売ってましたよ? お一人様限定五個だそうです」
「エッ!? どこ!? 買って来なきゃ!」
「ほら、あまねさんも欲しいんじゃないですか」
「……ぐぬぬぬ。アルマ! 環ちゃんのお世話してあげて!」
「かしこまりました!」
「あっ、ちょっ、それはシャレにならな――」
「さて環様、アルマ特製、栄養満点のミルクを――」
「大丈夫! 間に合ってる! 間に合ってるから!」
「――口移ししてさしあげましょう」
「ノーセンキュー! ノーセンキューですっ!」
「……呼んどいて言うのもなんだけど、さすがにマニアックすぎる……!」




