◆041 披露会、開催!
「……なんか、普通に入っちゃって良いんだね」
「そうですね。入口でチケット確認とかもやってましたし」
「……思ってたんと違う」
「あ、それはこの後、もっとはっきり感じることになりますよ」
「エッ、何があるの!?」
「気になった方は、本編へGO! あ、今話から四章ですよー!」
「ねぇ、何があるの!?」
祓魔師協会成果披露会。
披露会っていうと『こんなに頑張ったよ、見て!』ってイメージだけど、祓魔の技術は門外不出だったり一子相伝だったりと、内緒にしたいことも多い。だから無理やりにでも技術を引きずりだすために実戦形式にしたんだとか。利権が絡むのは祓魔師が実力社会だから勝ったときにマウント取りやすいんだって。
あ、これ全部環ちゃんにしてもらった説明です。
葵くんから聞いた内容を要約してもらいました。
さて、おれたちはそんな成果披露会の会場へと来ている。
表向きは点検保守の日となっている夏の東京ドーム。流石に公に認められていない祓魔師が大手を振って大会を開催できるわけもなく、実にひっそりとした感じ。
――だと思っていたんだけれど。
「タピオカミルクティー抹茶味はいかがですかー? 今なら相良家特製の解呪薬が5%も含有されていて5000円! ちょっとした呪いや不調ならサクッと解決、お買い得ですよー!」
「御守り要りませんかー? 不動明王系なんで妖魔討伐の備えに一つあると安心感が違いますよー! ご家族へのお土産にもぜひどうぞー!」
「さてここに見えるは我が熱田一門が総力を挙げて打ち出した小刀であります! 守り刀としてのご使用はもちろん、妖魔退治の予備武器、果てはフルーツナイフ代わりまで何でも熟します! 見てください、このパイナップルなんて下に置いてあるまな板ごと真っ二つに――」
いや、もうちょっと忍べよ。
というか最後のもパイナップルごとまな板切断してるとか逆に使えないでしょ!?
ギャラリーも歓声あげながら拍手してんじゃないよ! 異常だって気付こうよ!
「すごかねぇ……東京ん祭りば初めてやけん、楽しか」
「人、人、人? です!」
「人じゃないのも少しいる」
「そうですわね……それほど強力なモンスターという感じではありませんけれど」
異世界組が感知した人外の反応。まさか、春のときみたいに妖魔が、と思って身を固くすると、環ちゃんが慌てて葵くんに確認していた。
「大丈夫ですよ。多分、生物系の式神か調教された妖魔でしょう」
「なるほど。そういう風に戦う人もいるんですね」
「はい。あ、もし万が一があっても環さんは俺が守りますから」
「ありがと。頼りにしてるよ」
環ちゃんがにっこり笑えば葵くんはふんす、と気合も新たにしていた。すごい混み方をしているけれど、全国の祓魔師が集まることを考えるとこのくらいはしょうがないのかも知れない。
「こんなに大々的にやって大丈夫なの? バレない?」
「大丈夫です。昨夜の時点で人払いの結界がそこかしこに掛けられてますし」
「あまね、気付かなかったの?」
「うっ……ごめん」
どうやら気付いていなかったのはおれだけらしく、クリスを始めとした約全員に首を傾げられてしまった。魔力がないはずの環ちゃんでさえ、具体性はないものの何かしらの術が使われていることは予想していたらしい。
「いや、この量の人と売買する物品の量のことを考えると、気付かれないように搬入したり入場するだけでも難しいじゃないですか。何かしら仕掛けがあるなって思ってましたよ? ほら、外も高級車がたくさん行き交ってましたし」
ちなみに大悟と梓ちゃんは観劇の予定が入ったらしく土御門家のワンボックスで送り迎えだけしてもらって欠席である。観劇チケットは土御門夫人からプレゼントされたものだということなので、親公認である。
土御門さんはどうだか知らないけどね。
仕事ができないレベルでふさぎ込んでるってどういうことなの……。
代わりに、というわけでもないけれど、アルマが植物幼女を抱っこしてついてきてくれている。いや、ちっちゃい子を独りにしておけないし、アルマにお世話を頼もうと思ったら、環ちゃんと離れることを渋られたからね。
環ちゃんからもお願いしたんだけれど、環ちゃん的に厳しい交換条件を出されて最終的には環ちゃんが折れて連れてくることになったのだ。
珍しい。
「た、環様のご指示とあらば……! その代わり、帰ってきたら環様のお世話もさせてください! もう一から十まで! 全て! 思いつく限りあらゆるお世話を!」
「……あまねさん、つれてきましょう」
アルマはお世話中毒なので、隙あらば環ちゃんを甘やかそうとする。環ちゃんは割と良い感じに享受してるけれど、流石にトイレまでお世話されたりするのは嫌だったらしい。
夜なんてもうあらゆる奉仕をさせまくりだし今更、とは思うんだけどもそれとこれとは話が違うんだって。
ちなみにアルマにどこまで世話を頑張れるのか聞いたところ、
「他の業務に支障が出ますが、呼吸の代替や心臓の代わりに血流を送ることもできますよ?」
とのことでした。
神代の技術こわい。
というか神代の人たちってどんだけものぐさなんだよ!
呼吸くらいしなよ! 死んじゃうじゃん! あと心臓止めるのって逆に難しくないですか……あれだよね、心不全とか起こしたときのためだよね? まさか面倒だから、なんてことないよね?
そんなことを考えながら選手控室を目指して歩いていると、環ちゃんが屋台に引っ掛かった。
「あ、あれ美味しそうですね」
「エッ……エッ!?」
冷やかしながら物販を見ていて環ちゃんが気になったもの。それは、カレーだ。
よくあるご当地カレーかと思ってよくよく幟を見てみると、『河童出汁の焼きチーズカレー』『国産河童100%』『皿を外して4時間以内に出汁を取りました』などと銘打たれていた。
……まって。
理解が追いつかずにフリーズしているとクリスとリアに引きずられた。
ああうん。君たちもブレないね。チーズだもんね。
ちなみに店の前に貼ってあるラミネートされた説明書きには『※本品製造ラインでは、オボ・アマビエ・サザエオニを含む製品を製造しています。呪いをお持ちの方は相互干渉にご注意ください』なんて書かれている。
アマビエ以外知らないけど呪いとか書いてあるし妖魔の名前なんだろうな、きっと。
環ちゃん、クリス、リア、ルルちゃんは食べるらしいけれど、おれと柚希ちゃん、葵くんはパスだ。葵くんは試合が控えているのと、柚希ちゃんは妖魔はあんまり食べないとのこと。
いや、うん。それが良いと思うよ……なんか一気に身近な感じするけど、妖魔って食えるの……?
葵くんはモンスター食べてたし、クリスも勇者候補時代に食べてたって言ってたような気がするから無理ってことはないのか。
いや食べないけどね。
そもそも河童食べるとかヤバいでしょ!?
「よし、先に葵くんを控室に送っちゃおう! 買い込むのはその後で!」
他に目新しいものでも見つけて忘れてくれると嬉しい。
いや、ヒト型というか、人間系のシルエットのものはヤバイでしょ!? 物語とかだとオークを食べるようなことが書いてあるけど、どう頑張っても食べられる気がしないよおれは!
っていうか高いよ! 一杯2500円ってどういうこと!?
前にどっかの物産展イベントでイセエビ入りの味噌汁が一杯1500円だったけど、それより高いってひどくないかな。
そんなことを考えながら葵くんを控室まで送る。芸能界よろしく、小部屋の前に『土御門』と書かれた紙が貼ってあるので、選手とか宗派とかごとに部屋を用意してあるんだろうな。
部屋を開けると小上がりになっていて、畳張りに化粧台という如何にも『本番前です』みたいなつくりの部屋になっている。
部屋の中央に置かれた座卓にはたくさんの書類が置かれていて、それと睨めっこしているロマンスグレーの紳士が一人。
「あ、三条さ……エッ!?」
「……お久しぶりでございます……碌に挨拶にも伺えず申し訳ありません」
「いやいやいや!? それどころじゃないでしょ! 《月光癒》!」
どう見ても致命傷食らったあとみたいな顔色してるよ!?
とりあえず《月光癒》を掛けて不調の回復を試みるけれど、怪我かと言われると微妙なところである。あまね真教国樹立のとき、環ちゃんには効果あったし無意味ではないと思うけれど、大丈夫かな?
「……ありがとうございます。今朝までとは段違いに楽になりました。あまね様は回復術の腕をあげられましたかな?」
「いや、そんなのどうでも良いから休みましょう!? 死んじゃいますよ!?」
「ここが勝負所なのですよ。でも、お気遣いありがとうございます」
「葵くん!? 土御門さん何してるの!?」
「エッ……多分この時間は……日向ぼっこ……ですかね?」
はあああああ!?
いつまで梓ちゃんのこと引きずってんだよ!
このままだと本当に三条さんが死んじゃうぞ!?
やつれて増えたしわの量も、土みたいな顔色も普通じゃない。何かの呪いじゃないか疑ってしまうレベルである。
さっき売ってたタピオカミルクティーとか効かないかな!?
そんなことを考えながらやきもきしていると、リアとアルマが三条さんに自己紹介をしていた。三条さんも三条さんで、孫をみるような優しい顔つきで二人に挨拶を返す。
「お見知りおきをお願いしますわね――《睡眠》」
「……ぐぅ……」
「リア?」
「このお方、このままでは死んでしまいますの。あまねおねえさまとも親しいようでしたし、とりあえずは強制的に睡眠を取らせましたわ」
ゆ、有能……!
くたりと落ちた三条さんを受け止め、畳に寝かせる。使っていた座布団を二つ折りにして枕代わりに差し込んでおくのも忘れない。きっとこれで多少は楽になるだろう。
三条さん、こういう魔法への耐性高いイメージだったんだけど、そうでもないのかな?
いや、普通に疲れすぎてて対応できなかっただけかも。不意を突かなかったら普通に防がれていた気がする。
そう考えるとリアの行動は英断である。
「えらい!」
「ありがとうございます。ふふ、そうしましたら、このリアめにご褒美を下さいませんか?」
言いながら環ちゃんに甘えて、髪の毛が乱れないように優しく頭を撫でられていた。そして葵くんもいるというのに頬に軽くキスを落としたり、ハグしたりとイチャイチャしまくっている。
「んふぅ……ありがとうございます」
「続きは後で、ね?」
「はぁい」
環ちゃんに蕩けるような笑みを見せるリアに、葵くんの頬が赤くなる。
うん、そうだよね。
これは二人が悪い。
初心な中学生相手に刺激が強すぎるだろう。
「イチャイチャしてないで、観戦席いくよ。葵くんの集中力乱しちゃうでしょ」
眠った三条さんにもう一度オマケの《月光癒》を掛けて、おれたちは控室を後にした。屋台とか出店のひしめく通路を通り、観客席へと向かう。
途中で異世界組と環ちゃんが色々買い込んでたけど無視だ。おれは柚希ちゃんと普通のジュース、普通のワッフル、普通のポテトを買っておしまいである。いやぁ、こういうイベントあんまり来ないし、わくわくだね!
わ、わくわくしてるからアーンとかして来ないで!
食べない! おれは食べないぞおおおお!?
「おーく、ですか? こわいです! 逃げるです! あ、お肉は好きです! お祭り、です!」
「オークか。割と美味いぞ。野営のときに出てくると夕飯が豪華になる」
「オーク、ですか……すみませんが、獣臭い気がして、あまり好んで食べませんの」
「食べるのか……!」
「ところ変わればってやつですよ。ほら、アフリカの方だと蛇とか食べますし」
「それはそうだけどさぁ」
「海外の人とか虹色のケーキは喜んで食べる癖に海苔は『黒いぞ? 食べ物の色してなくね?』とか言いますよ?」
「えっ」
「海苔って食べる国の方が少ないらしいですね」
「……マジか、美味しいのに」
「だからこそ、食べてみようと思うわけですよ。あまねさんもどうです?」
「食べない! おれは食べないからね!?」
「えー、普通に美味しいですよ? ほら、河童の供養だと思って」
「そんな供養ないよ!?」




