◆037 セイ活リズム
「アルマ様、ですか?」
「アルマ、と呼び捨てになさってください」
「で、でも、ルルは奴隷なのです!」
「私は物品です。奴隷よりも下です」
「そ、そうなの、です?」
「はい。物品であることに誇りを持っておりますので、備品欄に名前を書いて頂きたく」
「る、ルルもあまね様の奴隷なのを、誇りに思っているです!」
「それではお揃い、ですね」
「お揃い、ですっ!」
「……これ、和やかな雰囲気だけどすっごいこと言ってるよね……?」
「奴隷に物って、人権団体が聞いたら気絶しそうですね」
朝、起きる。
だいたいスッキリ快調なことが多いけれど、前日頑張り過ぎているとだるく感じることもある。
特に最近はリアが加わっているので結構大変なことが増えた。
リアはクリスと同じく勇者になるべく育てられたこともあって素のスペックが高く、体力もあるからね。ベッド以外でのできることもクリスと似ているようだけれど、少なくとも性格はまったく違っていた。
ものすごく甘え上手なのである。
「あまねおねえさま。おはようございます」
タオルケットで肢体を隠しながらもじもじと目を逸らし、しかし啄むようにおれの頬にキスを落とす。
「おはよう、リア」
「……」
「リア?」
「朝はご寵愛をくださらないんですか?」
頬を差し出すように首を傾けながらそんなことを言われると、おれの中の野生の本能が目を覚ましちゃいそうなんだけれど、予定があるのでパスである。
というかこれ、ことば選びを間違えてるせいで『ヘイヘイ、カモン!』みたいな状態になってるだけで、ご所望なのはキスだ、多分。
頬に触れるようなキスを返すと、はにかみながらお礼を言ってくれた。これで正解だったらしい。
キスで満足したリアは、おれが服を着ている間に同じくベッドで眠っているままのクリスへと寄っていき、うまいこと抱き枕みたいになるように腕の中へと潜り込む。クリスもよく起きない……あー、昨夜はずいぶん頑張ったもんね。疲れも溜まっているはずだ。
「あったかーい……クリスおねえさまのにおい、すき」
にこにこしながら呟く彼女は、計算がどうこうではなく純粋に思ったことを思ったように言動に反映させているらしく、柚希ちゃんや環ちゃんにも同じように全力で甘えに行っていた。流石にルルちゃんにまで甘えるような真似はしないものの、仲良くしてくださいね、なんて言いながらルルちゃんとハグしていた。
ルルちゃんはルルちゃんで、
「家族、です! 増えた、ですっ!」
文句は一切ないようなので良しとする。 柚希ちゃんは末っ子だったこともあって、凶悪なおっぱいで窒息手前まで抱きしめていた。
「妹ばでけたみたいやけんね、嬉しかー!」
「むぐっ、むがっ、もごごっ」
いや、それはそれで幸せそうにしてたからリアとしてはOKなんだろうけども。リアの顔色が赤くなって青くなって白くなった辺りで流石に止めてあげたけれど、リアもそんなになるまで我慢しなくても良いんじゃないだろうか。
それで死んだら本望、とかそんな感じなのかな。
問題は環ちゃんだ。
「ごしゅ……ぁ、環おねえさま」
「その呼び方は、二人だけのときって教えたよね?」
「ひぅっ、ご、ごめんなさい。御赦しを」
「だめ。許さない」
どんなプレイしてんだよ!?
思わず、純粋なリアに無体でも働いているんじゃなかろうかと邪推してしまったけれど、リアはリアで真っ赤な顔をして、潤んだ瞳で上目遣いに環ちゃんを見つめながら「お、おしおき、ですか……?」とかちょっと期待してそうな発言してたし、需要と供給的には一致してるっぽいので関知しないことにした。
関知しないったらしないんだよ! 巻き込まれたらどうすんだっ!?
さて、今日も今日とて聖杯に魔力を注ぐ。あんまりたくさん注ぐとおれがぶっ倒れるのでほどほどに注いだらおしまいなんだけど、最近になってようやく、ちょっぴり、ほんのすこーしだけ、底にピンク色の液体らしきものがみえる気がしてきている。
あれ、ピンク? と思わないでもないけれど、きっとサキュバス的なパワーだからピンクなんだろう。前のレインボーな液体も中々にショッキングだったので、むしろ桃のカクテル的なのを想像するとこっちの方が飲みやすいかも知れない。甘そうだしね。
溜まるまで年単位でかかりそうなので、聖杯の中身をみるたびにラナさんの顔が脳裏をよぎるのは内緒だ。無限自給自足して溜めるのが一番早い気はするけど、NTRダメ、絶対!
一応、環ちゃんにお願いして引退動画も撮った。
どういう風に話せばいいのか分からなかったから筋書というか、セリフを考えるの手伝ってもらっただけなんだけども、
「こういう時は変に飾らず、ごめんとありがとうで良いんですよ! 無理に色々言ったりすると邪推したり、言い訳って取る人もいますから」
「んー、そっか。でも本当に理由言わなくて良いの?」
「あまねさん……よく考えてみてください。えっちなロリサキュバスのあまねさんが『おれ、二十一歳の男子大学生に戻るから引退するね』とか言い出したら皆泣きますよ?」
あーうん。それはちょっと分かるかも知れない。
自分でいうのもアレだけど、もしおれがファンだったら泣くなそれは。
「そんなに迷うなら止めましょうよ」
「ホントの本心では、女の子も有りだなって思ってたり?」
「えー、どうせ聖杯の中身溜めるのにすっごい時間かかりますし、もっと後でもよくないですか?」
「ほら、もしかしたら気が変わって女の子の方が良いって気付くかもしれませんし」
「もしかしたら途中で中身こぼしちゃったりなんかして、さらに年単位で時間が掛かるかも?」
環ちゃんはなどとことばで揺さぶりをかけてきたけれど、おれのおとこに戻るという決意は固いのだ。
あと最後のやつ、もし起こったら絶対に故意だろ。もちろん犯人は環ちゃん。証拠がなくても環ちゃんを有罪にしてやるからな!
そんな環ちゃんだけれど、現在は絶賛ダメ人間なう、である。
「あー、快適。気持ちいー」
「光栄です」
「あ、待って。その角度だとおっぱいの感触が」
「それでは、これで如何でしょう」
「あ、最高! やわらかーい」
「光栄です」
ソファでアルマに膝枕をされた環ちゃんは、耳かきをしてもらいつつ顔に当たる胸の感触を楽しんでいた。夜は夜でとてつもない奉仕の精神を持っているのだけれど、昼間も奉仕中毒とかお世話中毒みたいな感じで、いつでも誰かの世話をできないか窺っている節がある。
ちなみにアルマのことは環ちゃんが根掘り葉掘りきいていたので、おれはあんまり知らない。どうせ聞いても理解できないし。
後でざっと話してもらったところによると、アルマは奉仕する側であるため、敬語や気遣いは一切不要だとのこと。さん付けされることすら遺憾であるとのことで、全員が呼び捨てにすることになった。
次いでおれ達の呼び方だ。
環ちゃんのことはそのまま「環様」と呼んでいるけれど、おれやクリスのことは「お嬢様」と呼ぶことになった。これは環ちゃんの拘りで、
「あまね様」
「メイドさんらしくないのでお嬢様で。さんはい」
「お嬢様」
「そうです。あまねお嬢様、さんはい」
「あまねお嬢様」
なんかよく分からない学習をして全員をお嬢様と呼ぶことにしていた。一応、葵くんだけはお嬢様付けはやめるように言っていたけれど、実際に対面したときにどうなるのかが非常に不安である。
ちなみにアルマはメチャクチャ優秀である。
優秀というか、チートというか……撮影した引退動画を編集しようと環ちゃんがパソコンをイジッていたところ、急にパソコンをディスり始めた。
「何ですかその知性の欠片もない造形物は」
「環様、このような雑事は私めにお任せを……単純な電気信号による操作ですか」
「ほう、このぱそこんなるものを使わないといんたーねっとに動画を投稿できないと……」
「それでは僭越ながら」
言いながら、壁に掛けてあったUSBケーブルをパソコンに差し、反対側をパクリと咥えた。
「ぱひょこんのぜんししゅてむをしょーあくひまひた」
何をどうしたのかは全く不明だけど、アルマはUSBを咥えることでパソコンをとんでもない速度で操作できるのである。改めてアルマが人間ではないことを感じさせる光景ではあるけれど、おかげで引退動画は無事に作成完了。
あとは聖杯が溜まるのを待って投稿するだけとなった。
ちなみにこういう電子機器は全面的にディスの対象になるらしく、
「てれび、ですか……平面でしか映像を伝えられないのですね。画質も酷く荒い……環様の目に負担がかかることも理解できないのですかこの痴れ者は」
「すまほ、ですか……庇護欲をそそる小さなボディは評価しますが、それだけですね。環様は豊満なバストを好んでいるので、貴様などお呼びではありません!」
「おーでぃお、ですか……表現できる音域が児戯程度ですね。生まれ変わって表現の何たるかを学ぶべきでしょう」
なんかよく分からないディスを口にしながら鼻で笑い、色々魔改造を施していた。
あ、オーディオは異世界の真教国に置きっぱなしの奴ね。環ちゃんと秋葉原のジャンク屋をまわって色々買い集めてたんだけど、大悟が支払ったみたいなのでおれは詳しい金額を知らない。
高笑いしながらジャンクパーツを繋げたり部品を交換したりしている姿はマッドサイエンティストそのものだけど、行動原理が「環ちゃんのために!」なので結果は上々。ちなみにテレビは16K? 相当になったらしい。もう逆に何がすごいのか分からない。
とりあえず、指先で直接ハンダ付けしたり、親指と人差し指でぎゅってして圧着できるのはすごいと思った。プログラムの書き換えなんかもしたらしい。
「たっだいまー! あーまねちゃーん!」
アルマに関するあれこれを考えていると玄関から呼び声。
生絞り元気100%な声は柚希ちゃんのものだ。
「はいよー。どしたー?」
歩くのが面倒なのでぱたぱたと飛んでいくと、夏のむわっとした熱気とともに柚希ちゃんが入ってくるところだった。外は随分と暑いらしく、柚希ちゃんは白のTシャツがちょっと貼り付いていて異常に美味しそうだ。
あれですよ、白米がほかほかと湯気を立ててると美味しそうにみえるのと同じ原理ですよ。
いくら大らかな柚希ちゃんと言えども下着が透けるのは恥ずかしいらしく、Tシャツの下には黒のキャミソールがちょっと見える。
我が家はエアコンつけっぱなしなので廊下も涼しい。ハンディタイプの扇風機を片手に、頬を上気させた柚希ちゃんの色っぽさと言ったらもう言葉にならない!
とはいえここで始めると絶対に柚希ちゃんが脱水になってしまうので、少し涼んでからのほうがいいだろうね。
「柚希ちゃんお帰り。どしたの?」
「涼しかー。ウチな、お兄ンとこ行って来てよったんよ」
「知ってる知ってる」
ラナさんの生活用品を整えるために、昨日のうちに呼び出されていたのだ。泊まってくるばい、と連絡があったのでまだアルマに出会っていない。説明するの大変だし、環ちゃんに投げちゃおうかな、と思いながら柚希ちゃんに寄っていく。
すとんと着地し、ぱたぱたと翼で仰いであげる。
「涼しかー!」
背中を向ける形のおれに顔を近づけ、胸元に風を送るために襟を――
「あまねちゃん。どげんして止めよると?」
「アッ、ごめん」
くそー! パタパタしてたら襟をぐいってするとこ見えないじゃん!
服の隙間からちらっと見える感じがまた良いのに!
ぐぬぬ、と内心で歯噛みしながらも風を送ると、ふいー、と背後で柚希ちゃんが人心地ついたであろう声が聞こえる。
悩ましい……!
「あ、そいでね。お兄からナイトプールんチケットば貰うてな」
「ナイトプール?」
「お兄も偶然知り合うた人に貰うた言うとったばってん、ラナさんの水着独占したかー言いよってな」
あーうん、想像できる。
あの二人はどこだろうと誰がいようと隙があればイチャイチャしてるし、大好きアピールすごいもんね。下手すると見つめあってるだけで一日を終えられるレベルの人たちである。
「行かんけんくれるて」
「おお。やったね」
「うんにゃ、実はしゃばいんよ」
「なんで?」
柚希ちゃんが差し出したチケット束。いやこの枚数ってどう考えても貰えるものじゃないよね?
多分、ラナさんに聖杯を使ったことに対するお礼だろう。
わざわざ貰いものっていう辺り、出来た人である。
都内でも有名な屋外ナイトプール施設のチケット。確か、完全予約制で一枚につき1万6千円。ビルの屋上にあって、夜景がすっごく綺麗だって評判のところである。
ちなみにクチコミランキングは堂々の一位で、平均の評価は4.9。唯一の低評価は「雨が降ってて寒かったです」という言いがかりみたいなものなので実質Maxの5である。何でこんなに詳しいかと言えば、今度クリスたちを誘っていこうと思って調べていた場所だからだ。
別に大悟が羨ましいとかじゃないけど、たまにはそういうイベントもね。
決して羨ましいとか思ってないけど。
羨ましくないけど花火大会の日程とかも一応調べてあるし、
「みんなの浴衣姿とかそそらない?」
「そ、そそります……!」
環ちゃんを焚きつけておいたので浴衣の仕入れもバッチリのはずだ。
土御門家は門限が厳しいから夜に開催される花火大会に梓ちゃんを連れていけないはずである。
どうだ大悟、おれの勝ちだっ!
……話を戻そう。
何が困るのかと言えば、それは指定された日付だ。
「これ、トーナメントの日?」
「最終日やねぇ」
葵くんが参加する予定の祓魔師成果披露会。
その決勝とも言える最終日が指定日になっていた。
「な、ナイトプール!」
「なんで夜? 昼間は?」
「分かってない! 分かってないよクリス! 夜のライトアップされた水の中で見る皆は絶対に格別なんだよ!」
「私も?」
「当たり前じゃん!」
「……なら良い。行く」




