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◆003来訪者たち・下


 その話が舞い込んできたのは、土御門さんにお願いをねじ込まれてから二日後。いよいよ葵くんと対面する当日になってのことだった。


「オニイサン?」

「そうやよ?」


 しゃこしゃこと歯磨きをするルルちゃんの横、洗顔を終えたおれはきっと間抜けな顔をしていただろう。

 柚希ちゃんのオニイサンが東京に来る。

 鳩に豆鉄砲、じゃないけれど唐突すぎて何も反応が出来なかったのだ。


「お兄な、おとうの下で左官ばやっとーっちゃ(てるんだ)けど、『うちん様子ば見て来い』って長期休暇もろうたみたい」

「ああうん。そうだよね、普通は一人娘が高校出たてで上京したら心配になるよね」

「うん。コウノトリも、子どもばおらん方が気やすいって言いよる」

「アッ、ハイ」


 なるほどね。

 両親がイチャイチャするために娘・息子を遠ざけたのね。

 というか実年齢何歳だろ柚希ちゃんの両親。子ども作る気満々じゃん。いやまぁ夫婦仲が良いのは素敵なことだけども、子ども二人を追い払ってって完全に準備万端って感じだよなぁ。

 そもそも柚希ちゃんの知識のなさが本気で不安なんだけども。


「ちなみにいつ?」

「今日」

「ヴァッ!? もうちょっと早く教えてよ!?」

「昨日ん夜にメッセ来とー」


 ああうん。昨日もおれたちは大ハッスルしたしそれならしょうがないか。昨日は柚希ちゃん、脱水起こすんじゃないかってくらい頑張ってくれたしね!


「わかった。ちなみにウチには来るよね?」

「うん。ホテルば取っとーから泊まる場所な気にせんと良か。ばってん、シェアハウスでお世話になっとー人には挨拶したかって」

「じゃあ今日の夕方辺りにお願いできるかな。今日は土御門さんの息子さんとも顔合わせあるし」

「良かよ」


 ぽちぽちとスマホをいじり始める柚希ちゃんを尻目に、おれは洗顔用に使っているヘアバンドを外して手櫛で髪を整える。隣では口を濯いだルルちゃんがにこにこしながら柚希ちゃんを見つめている。


「ゆずき様のおにいさんです? 家族、です!」

「ア”ェッ、かわいい……」


 思わず尻尾でルルちゃんの背中をやさしく、そう、メチャクチャ優しく撫でてあげる。


「ひょはぅぅう!? し、尻尾さん!? まだ朝なのですよっ!?」

「あー、尻尾も朝から元気だね」

「いいですか? 朝はいっぱいやることがあるのです。ルルも尻尾さんと遊びたいですが、もうちょっと待ってて欲しいのです」


 おれの尻尾は自律式だと教えているので、ルルちゃんはおれのお尻に向かって正座をして、懇々(こんこん)とお説教をしている。

 うん可愛い。

 朝ごはん(・・・・)を食べたくなってしまった。まぁ流石に時間的に厳しいから我慢するけど。

 そのまま三人でリビングに移動して、クリスが当番の朝食だ。異世界出身のクリスとしては、チーズ=贅沢な食べ物という図式が刷り込まれているらしく、隙あらばチーズをメニューに盛り込んでくる。

 普段ならば皆から精気を貰うので食事は要らないんだけど、今日は葵くんと会うこともあってお願いしたのでおれの分も用意してもらっている。

 すでに席に着いていた大悟も合わせて五人の朝ごはんである。


「「「「「いただきます!」」」」」


 今日のメニューはピザトーストだ。

 具材はオニオンスライスと薄切りのソーセージが重ねられ、その上にチーズとシンプルな感じではあるけれど、八枚切りの食パンはカリッと香ばしく焼かれ、上に掛かったチーズもしっかり焼き色がついている。

 頬張ると同時に感じるのはソースに使われたにんにくの香りだ。食欲をそそる香りとともにチーズのコクとカリッカリのトーストが口の中で合わさって、暴力的な旨味を感じる。

 御供は乾燥パセリをさらっと振ったコンソメスープ。

 薄味が好き、というより元々異世界では薄めの味付けが主流なので、クリスの作るスープも当然ながら薄めとなる。

 これがまたガッツリなピザトーストによく合う。

 口の中を洗い流してくれるのでこくりと飲むと、思わずほぅっと息を吐いてしまうくらいほっとする。

 ちなみに朝は軽め、というのが我が家の総意なのでチーズは少なめ。

 クリスの分だけが零れそうな量となっている。健啖家なクリスらしくてくすっと笑ってしまう。


「ふん? どうひは?」


 もぐもぐしながら首をかしげるクリスは、蕩けたチーズが口元で糸を引いていて何となくえっちだ。うーん、普通のご飯だけじゃ昼までもたないかも知れない……。

 適当に誤魔化すと、みんな揃ってごちそうさまである。

 皿洗いはおれの番なので、ちゃっちゃか洗ってしまう。

 洗い物が終わったらもう一度歯磨きをして、着替えだ。にんにくが入ってたので、念のためにいつもより余計にしゃこしゃこしてお着換えタイムである。

 今日は顔合わせってこともあるので、セミフォーマルな感じの装いだ。といってもおれは見た目年齢12歳なので、ピアノの発表会で着るような黒のワンピースドレスだけど。黒を基調としたシンプルなAラインで、丸襟と袖元だけが白。腰の辺り飾りリボンが付いているのがポイントだ、とこれを選んでくれた環ちゃんが力説していた。

 白のニーソックスで合わせて、靴は黒のパンプス。いや、流石に家ではスリッパだけど。

 ちなみにアクセサリーは金属製の腕輪のみ。

 クリスの故郷の風習で、結婚するときにお揃いで買ったものだ。

 よし、と姿見でチェックをしていると、環ちゃんがやってきた。

 こないだ買ったウィッグを装着しているので、アンニュイなお嬢様系の出で立ちである。


「おはようございます」

「おはよ。どう? 似合う?」


 高校生の環ちゃんは実家暮らしなので、だいたいこの時間にやってくる。

 県内屈指の進学校に通っているのだが『良い成績さえ取ってりゃ文句はねぇぜ!』みたいな校風らしく、結構な割合でサボっておれたちと過ごしてくれる。

 ちなみに入学からこっち、ずっと主席を死守しているらしく、金髪ピアスだった頃から本当に文句を言われたことはないのだとか。


「よく似合ってます。さすがあまねさん」


 にっこり笑いながらおれの頭をなでなですると、そのまま指先をするんと背中の方へと這わせた。

 アーッ、えっち! えっちですこの触り方!


「でも、せっかく胸があるんですから、もう少しリボンは絞りましょう」


 飾りだと思っていた背中のリボンを解いて、少しきつめに結び直す。ロリであってもサキュバスらしく出るところが出ているので、それだけでシルエットが少し変化する。

 飾りじゃなくて、実用的なもんだったんだね……洋服って難しい。

 男だったころはシンプルかつ安めのM&Hとユニシロでしか買い物なんてしたことなかったもの。あと、エオンでもちょっと買ったか。

 とにかく値段重視だったおれには未知の世界である。


「んー、素敵です」


 そのままギュッてしてくれたので、おれも抱きしめ返す。そのままぷりんとした小さなお尻に手を伸ばして、


「あまね?」

「アッ、ハイ」


 偶然入ってきたクリスから刺すような声音で名前を呼ばれたので止まる。

 クリスは黒のチノパンに無地の白Tシャツ、その上にグレージュのカーディガンという出で立ちで、凛々しくてすっきりしている。

 うん、可愛い。


「環も」

「ごめんなさい」


 クリスは序列に厳しい。

 複数で夜を過ごすこともあるし、生きていくのに精気が必要な淫魔(サキュバス)であることも理解してくれているのでそこまでガッチガチではないけれど、するなら自分も混ぜて、とのことらしい。

 ゲームしてるときとかは普通に断られるけど、こういう風に注意されるときは『私を抜きにして何してるの』ってことである。

 つまり、混ぜて欲しいってことだ!(確信)

 うん、非常に積極的で素晴らしい。

 あーもー、葵くんと会う時間遅らせて皆でベッド行きたいなぁ。


「さて、用意も出来たしいきますか」


 ちなみに環ちゃんはボートネックのボーダーTシャツにパステルグリーンのロングスカート。メイクも可愛い系でバッチリ決めている。どうやら親友の弟に会う、ということで楚々とした雰囲気を作っているようである。

 柚希ちゃんは腰の辺りにフリルのあしらわれたサロペットスカート。髪に載せるように被ったマリンキャップがすごく可愛い。

 すごく可愛いんだけど、


「柚希ちゃん。鞄、替えよっか」

「なして?」

「いや、その」


 袈裟懸けにしてるから鞄の紐でおっぱいへの食い込みがとんでもないことになってるんです。えっちなサイズのおっぱいなのでもうスラッシュの食い込みが半端ないです。

 うん。100億%って感じだ。

 おれが言い淀んでいると環ちゃんがぽよんとおっぱいを揺らして、にやっとおれを見る。


「あまねさんは、柚希さんの胸を他の人に注目されたくないんですよ」

「わかった。替えてくるね」


 なぜかご機嫌になった柚希ちゃんが部屋を後にすると、入れ替わりに入ってきたのはルルちゃんだ。一番のお気に入りである青を基調としたチェックのエプロンドレスを身にまとった姿は、うさ耳と相まってルルちゃん・イン・ワンダーランドって感じだ。

 実は、今日はルルちゃんも同席する。

 四月に大きな争いに巻き込まれ、何もできなかったルルちゃんは己の不甲斐なさを悔い、葵くんの修行に同席して自分も鍛えてもらうのだと息まいていた。

 おっとり系で優しいルルちゃんは戦うことには向かない気がするけど、うさ獣人らしく高性能な五感を持っているのでセンスはおれよりありそうな気がしている。

 おれ?

 一応参加する予定だけど、


「あまねは、私が守るから」

「無理しちゃつまらん(ダメ)

「先輩、絶対辞めた方がいいと思うっす」

「あ、あまね様は回復魔法、です!」

「スポーツで汗を掻いたあまねさん……良い」


 全員に止められた。普通に運動神経ないけど! ないけどおれだってなんか役に立ちたいし!

 ちなみに最後の環ちゃんだけは明後日の方向への回答だったけど気にしない。兄妹そろって嗜好がアレな感じだけど、環ちゃんがマニアックなプレイをするほどにおれの切り札は強化されるのだ!

 ……いやまぁ限度ってことばは覚えて欲しいけど。

 本当に。同人誌とかネットで拾ってきたであろう知識をすぐ試そうとするのは本当にやめて欲しい。あと食べ物は絶対に許しませんよ! ゼリードリンクとか絶対に使わせないから!

 ゴーヤも! ゆで卵も! おれは絶対に許さないからな!!!


次回更新は明日の21:00を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言] あまねちゃんが攻略対象に囲まれた乙女ゲームのヒロインみたいになってる……かわいいね……
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