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◆028 部屋の中

「陰惨展開注意って警告が続いてるんだけどさ」

「うん」

「これで前書きとか後書き潰そうとしてない?」

「うん」

「まぁ今回もいつも通りだね。後書きまでいけば簡単な内容はわかるよ」

「うん」

「(だ、だめだ……クリスが完全にキレてる……! こうなったら環ちゃんに――)」

「……」

「(こっちも静かにキレてる――!?)」

「えっと、皆さんがなんでキレてるかは、本編読んでもらえれば分かると思います」

「(そして葵くんは相変わらず空気読まない……!)」


 運よく敵ともあんまり出会わなかったおれたちは、宝物庫に向かう前に一度件の部屋を確認することにした。

 おれがずっとそわそわしてたのは確かだし、今も何かがある気がしてならない。何よりも、


「あまねさんが暴走(ああいう)状態になった理由、解明しといた方が良くないですか?」


 環ちゃんの意見がごもっともだったからである。

 ちなみに「あんまり」ということは、一応敵とも出会っているということでもある。二人組の歩哨らしき兵士と、聖職者らしき白ローブに金刺繍の入った首帯(ストラ)のおじさんだった。

 どちらもおれや環ちゃんが気付いて悲鳴を上げる前にクリスと葵くんが対処してくれました。

 目の前にいたクリスが消えたと思ったらガシャン、って音がして、そっちに視線を向けたら二人組の歩哨が伸びてるっている状態だったんだけど、クリスってどんどん人間離れしてない……?

 聖職者のおじさんは葵くんのハイキックで顎をカコンッてされて崩れ落ちてた。

 何かの達人っぽくてカッコいいしおれもそういうのできるようになりたい、とちょっと思ったけど、葵くんが受けた地獄の訓練が脳裏をよぎったのでそっと心に蓋をした。

 むりです。

 閑話休題。

 おれが気になっているものを確認するためにクリスが蝶番と鍵を切り落とし、引っこ抜くようにして取り外したドアから侵入する。

 聖職者らしからぬ瀟洒(しょうしゃ)な作りの室内は、まるでどこかのホテルのような(たたず)まいであった。

 天蓋付きの大きなベッドに、陶器やら金属の美術品らしきものが並べられた棚。冷たい石造りを何とかするためなのか、金銀の糸で幾何学模様が織られたタペストリーもババンと掛かっていてこれでもかというほどに成金らしさを醸し出している。

 実用品らしき執務机には鋳物のジョッキが置かれており、ここからでも分かるくらい強い酒の匂いがしていた。五感の鋭いルルちゃんなんかは鼻をつまんで顔をしかめている。


「あまね」

「うん。こっち」


 おれを呼ぶような不思議な感覚に導かれてタペストリーをめくる。

 やたら重たいそれの裏側には、簡素な扉が着けられていた。隠し部屋である。ちょっとわくわくしながら扉を皆に示すけれど、あまり良い反応は貰えなかった。


「ありきたりだな」

「ベタですね」

「ありがちばい」

「隠してたつもり、です?」

「えええ。隠し部屋ですよ? 皆さん、なんかすごく冷めてません?」


 おれと同じくわくわくしてたのは葵くんだけらしい。というかルルちゃんは最初から気付いてたのか……。

 良いよ良いよ。きっとおとこにしか分からないわくわくなんだよ!

 おれも葵くんも男だってことなんだよきっと!

 心の中で折り合いをつけてドアを開いたその瞬間。

 今まで考えていたことが全て吹っ飛んだ。


 そこにあったのは。


 (くさび)で手足を打ち付けられ、壁に縫い留められた幼女の姿であった。壁には鋸や刃物といった拷問器具が所せましと掛けられている。

 何が行われているのか、想像するまでもなかった。


「環、ルル、見るな」

「……っ! 《月光癒》!」


 思わず駆け寄り、魔法を発動する。異世界の潤沢な魔力によってバリンバリンの本調子で掛けた回復魔法が幼女の傷を癒し始める。

 良かった。

 回復するってことは、まだ生きてる。

 助けられる!


「クリス、抜けないっ!」

「退いて。――葵」


 おれを押しのけたクリスと葵くんがそれぞれに武器を振えば、四肢に打ち込まれていた金属製の楔はあっさりと切り落とされる。

 羽根のように軽い幼女を抱きしめるように降ろし、もう一度回復魔法を掛ける。


「……どげんしてこげな(むご)かことを」


 ルルちゃんと環ちゃんが見ないで済むようにおっぱいにむぎゅっとした柚希ちゃんが呟く。

 おれはと言えば、そんな様子に突っ込む余裕もないくらい目の前の幼女に目を奪われていた。間違いなく、おれを呼んでいたのはこの子だ。

 見た感じはまだ3,4歳だろうか。

 裸のまま縫い留められていた彼女には、右頬から二の腕に掛けて入れ墨のような唐草模様があった。オリーブグリーンの髪はちょこんとお団子にまとめられていて、


「いや、これ、つぼみ……?」

「ヤブルー。植物を操る妖精系魔族の幼生(ようせい)だな」


 クリスの説明によれば、魔族であるらしい。

 彼女を抱きかかえたおれ達は、とりあえず、と部屋を後にする。


「……なんでこんな酷いことができるんだよ」


 戦力的な関係で環ちゃんの手にすっぽりと収まることになった幼女は、回復魔法で苦痛が消えたためかすうすうと寝息を立てて丸くなっている。

 ことばにはしないもののおれの中には怒りの炎が宿っていた。呼吸すら苦しくなるほどの不快感。何でこんな酷いことができるのか、おれには理解できない。

 したいとも思わない。

 ただ、不愉快だった。


「この子が助けを求めてたんですかね……? 前に、同族の発生なら感知できるような話は聞いた覚えがありますけど」

「分からん」

「あまねさん、進化しちゃってますしね」


 逆に名を得た(ネームド)モンスターに進化したことで感知の幅が広がったんだろうか。

 疑問を抱えながらもぞろぞろと廊下へと出る。

 ……すごく嫌な気分だ。

 さっさと目的のものをゲットしてこんな世界からはオサラバしよう、と心に決めたその時。


「三重障壁、急急如律令(オーダー)!」


 葵くんが術式を展開し、それがバリバリと砕ける音がした。

 結界を破砕しながら飛び込んできたのはおれと同い年くらいの女の子。クリスのものによく似たドレスアーマーに身を包んだ彼女は、幼さの残る顔立ちに眠たそうな目が印象的である。パステルピンクの髪はリボンで両サイドをまとめられていて、ふんわりしたイメージの少女である。

 とはいえ、その身にまとい、放出するのはとてつもない怒りを湛えた魔力。

 そして、その魔力で身体強化をして、華奢な身丈に不釣り合いな大剣を振っていた。


「……流石にバレちゃいましたか」

「あまねちゃんな、魔法使うてたけんね」

「問題ない」


 それぞれがすでに戦闘態勢に入っていた。

 おれとルルちゃんは環ちゃんの近くへと移動し、できるだけ邪魔にならないようにするしかできない。

 結界を破砕しつつも止められた大剣の少女は大きく飛び退くと、再び正眼に構えた。彼女の背後にはフルプレートアーマーに身を包んだ、四〇絡みの男が立っていた。


「お久しぶりですわ、クリス様」

「……誰だ?」

「リアーナと申します。貴女に救われた村娘で、今は次期勇者です」

「世間話など不要だ、裏切り者のクリスよ。勇者の重責から逃げ出したかと思えば、私の部屋でコソ泥ですか……落ちるところまで落ちましたね」

「イスカール……! 人を後ろから射殺そうとしておいて、よくもぬけぬけと」


 瞬間、暴風が吹き荒れたかと思うほどの魔力がクリスから噴き出した。

 深い紅の魔力に、憤怒の朱が混じった魔力。

 全力全開で怒っているのが伝わってくる。

 口ぶりから察するに、クリスが勇者であった頃に、クリスを()めて殺そうとしたパーティメンバーであるらしい。

 しかも、魔族の幼女が拷問されていた部屋の主。

 間違いなく、最低なゲス野郎だ。

 日本にいるときに不殺をクリスにお願いしたけれど、こんなクソ野郎相手なら話は別だ。生きていることこそ害悪になる。

 ふつふつと湧き上がるおれとクリスの怒りが爆発する直前。イスカールはねちっこい笑みを浮かべた。


「言いがかりはやめていただきたい。貴女が勝手に人族を裏切ったのでしょう?」

「殺す」


 言うが早いか、クリスの姿が掻き消えた。

 同時に、魔力があちこちで弾け、剣戟の火花が舞う。

 クリスが強襲し、それにリアーナが防いでいるのだ。同時、というよりもおれが気付いたときには、既に葵くんと柚希ちゃんの二人掛かりでイスカールっていうクソ野郎に攻撃を仕掛けていた。

 速度が速すぎて、非戦闘員はおろおろしているしかできない。

 もはや目で追えるレベルですら無かった。加勢できるとすれば方法は一つ。


「変身……!」


 《夜天の女王》へと姿を転じた。

 《月光癒》や《淫蕩の宴》など、補助しかできないのならば、補助に全振りするだけだ。

 おれの権能である《淫蕩の宴ルークリア・フェスティス》は、えっちな経験の多寡(たか)に応じて強化・弱体化(バフ・デバフ)が掛かるという頭の悪い権能である。

 環ちゃんによって口にはできないようなことをたくさんしているおれ達は、とてつもない倍率の強化が掛かるのだ。おれ自身は元が碌に戦えないので無意味だけれど、クリスや柚希ちゃんは違う。

 それこそ、チートレベルの強キャラになるのである。


「《淫蕩の(ルークリア)――」

「あ、ストップです」


 補助を掛けようとした瞬間、いつの間にか幼女をルルちゃんにパスしていた環ちゃんに口をふさがれた。


「むがっ!?」

「《淫蕩の宴》はまずいかと思います」


 さっきの部屋、ということばに、壁に縫い留められていた幼女の姿が脳裏を掠める。


「何でだよ!? クリスと柚希ちゃんが強くなればあんなクソ野郎一瞬で――」

「葵くんがいるんですよ? それに、相手の経験(・・)も未知数です」


 ……そうだった。

 中学二年生で男の娘である葵くんにそっち系の経験がある訳がない。対して、相手にしているうちの片方は幼女を磔にするようなゲス野郎。どんな経験(・・)を積んでいるか、わかったもんじゃない。

 《淫蕩の宴》では相手に利する可能性すらあった。

 言いようのない怒りを抑えるために、ぎりりと奥歯を噛みしめる。


「……じゃあ、どうすれば良い?」

「わたしに任せてください」


 環ちゃんは、今まででもトップクラスに邪悪な笑みを浮かべた。

 そして、おれにスピーカーを出すように指示すると、ポケットからスマホを取り出す。何やらデータを読み込んでいるらしく、スピーカーにマイクを取り付けたり、スマホとも繋いだりと操作をしてから、電源を入れた。

 パヅ、と独特な音がしてスピーカーが起動する。


「さて、それでは始めますか」

簡単な内容


 部屋の中で魔族の幼女を保護したあまね達一行だが、魔法を何度も使ったせいで潜入がバレてしまった。そしてついに再会したクリスとリアーナ。元勇者vs次期勇者の戦いが幕を開ける!

 ……イスカール? うん、なんかそんなのもいたね。うん、いるって気付いてたよ、何か臭かったし。

 一方、戦闘に参加できない環もイスカールの非道に対して静かにキレていた。果たして環の行っていた仕込みとは――!?

 次回、TSロ(以下略)第28話「暴露」。

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― 新着の感想 ―
[一言] 後書きはそう、これでいいんだ… 深夜テンションでおかしくなった文章でなければ、ふざけててもちゃんと伝わればいいんだ…もう何も言うことはない(←この発言がフラグにならないように気をつけてね!)…
[一言] 環ちゃんの秘策……ろくでもなさそう……
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