◆020 遊んだ後は、ご飯です
「ごっはん、ごっはん♪」
「あまねちゃんも食べよる?」
「うん。せっかくのバーベキューだし食べたい!」
「そうやね」
「ごっはん、ごっはん♪」
「愛らしか」
「柚希ちゃんも料理中とかよく鼻唄歌ってるよね?」
「えっ、そげなことなかよ?」
「気付いてなかった? 普通に歌ってるよ?」
「うたってる、です」
「……んんっ、気付かんかったけん、ふのわるかー」
「うー」
ぴょんぴょんぴょん。
ばるんっ、ばるんっ、ばるんっ。
「耳ん中入っとー水ば取れん」
ぴょんぴょんぴょん。
ばるんっ、ばるんっ、ばるんっ。
昼になり、おれ達は川遊びを引き上げてバーベキューをすることになった。「私は負け犬です」と書かれた襷をかけた環ちゃんと火熾しやらグリルの設置に張り切っている葵くん、そして自らお手伝いを申し出たルルちゃんが準備をしている中で、おれとクリスはお茶を片手にまったり日光浴していた。ちなみに襷は環ちゃんがジョークグッズで買っていたものだ。いつ使う予定だったんだよ……。
皆して身体はざざっと拭いたけれど、髪は湿った状態だし水着も水分を含んでいる。
クリスと横並びに座ってお日様を浴びているんだけど、温かくて気持ちいい。
柚希ちゃんは耳の中の水を取るために、おれの眼前で凶器を振り回している。
無重力……!
さすがに配信に映すのには目の毒すぎるので大悟に合図をしたら、何を勘違いしたのかカメラがおれとクリスをアップで写し始めた。
いや、普通に困るんだけど、と思ったけど多分時間的にクロージングだ。
この後はご飯だし、ご飯後の撮影は録画用なのですぐには配信しない。皆のご飯が終わったらおれのご飯もあるしね!
「これからお昼だよ。お昼が終わったらお昼寝するので配信はおしまいになるからね」
「ん。午後は?」
「おっと。今説明するところだったんだけど、午後の撮影は録画しておいて、後日配信する形になります」
クリスがこくんと頷いたので、カメラに向かって告知を兼ねた説明をする。
「えーと、実は近いうちに異世界まで旅行にいってきます。で、ちょっと長めなので、その間の配信代わりに録画したのを上げようと思ってるんだ。ちなみに午後は釣り! 渓流で釣りをします!」
「ん。楽しみ」
「で、キャンプとかも動画を撮るから、おれ達が異世界に行ってる間はそれを配信して行こうと思います。帰ってきたら、異世界の動画を解説しながら配信するね! お楽しみに!」
「大したことないけど」
「あるある。絶対面白いと思うよ!」
ぴこぴこ手を振る。
画面の外、バーベキューグリルの近くで作業していた環ちゃんが手を振ったので、準備もできたことだろう。
のたのたとバーベキューグリル周りに集まり、各自飲み物を準備していく。
さーて、それじゃあ食べますかっ!
いや、おれは食事だとエネルギーの吸収効率悪いしなくても良いんだけど、こんな良い天気の下で身体を動かした後だからね!
そりゃ食べたくもなるよね!
皆で目配せをしあって、全員の準備ができたことを確認してから手を合わせる。
「それでは、配信にお付き合いいただきありがとうございましたー!」
せーの、で。
「「「「「「いただきまーす!」」」」」」
***
というわけで翌日。
今日のおれたちは釣りをするために渓流へと向かう予定だ。
本当は昨日の午後にいくはずだったんだけども、ご飯のあとに着替えたりしてたら、ほら、ねぇ?
最初は普通に拭こうと思ったんだよ。
でもさ。
おれが拭いてる間にもがばっと脱いじゃうクリスや、大悟がいないとはいえ屋外で脱ぐことを微妙に恥ずかしがる柚希ちゃん、甲斐甲斐しくおれの世話をしようとするルルちゃんなどを前に我慢できるはずもなく、おれは本能のままに行動することになったのだ。
ちなみにおれがちょっとそういう感じになったのを敏感に察した環ちゃんが大悟に声を掛けて、葵くんを保護させていた。
うん、さすがに気まずいもんね。
気が利く。
「ホラ、あっちは男子禁制。こっち来るっす。ヘッドホン持ってるっすか?」
「いえ、もってないです」
「予備あるんで貸すっす。分配器もあるんでこれでゲームでもするっすよ」
どうやらナチュラルに男扱いされたのが嬉しかったらしく、ワンコ系の尻尾が幻視出来るような動きで大悟のあとをくっついていた。微妙に足取りが軽くてウキウキしてるのが伝わって来る。
大悟も義弟を順調に手懐けている感あるな。おれと同じ大学だから成績は大したことなかったはずなんだけど、環ちゃんと同じ遺伝子を持っているのが原因だろうか。
それとも普通に男として認識してるんだろうか。葵くんはあの見た目なのでそんな訳は――いや、あるか。大悟のことだから梓ちゃんに首ったけになって他の人の性別なんか目に入らなくなっただけな気がする。
まぁ何はともあれ、障害がなくなったのでおれたちも遠慮なく好き放題にすることとなった。
大悟に声かけをした後、戻ってきた環ちゃんがすすすっと寄ってきて、
「あれぇ? しっかり拭いたはずなのに何で濡れてるんですかねぇ」
とか同人誌に出てくるおっさんみたいなこと言ってて思わず噴き出してしまったけれど、まぁ皆で寝室に向かった後は超集中・淫魔の呼吸って感じで気付けば朝でした。
みだらみだら柱は環ちゃんで、柚希ちゃんはぬれぬれ柱だ。そんな役職ないけど。
おれも皆もいつ寝たのかハッキリ覚えてないんだけど、おれ以外は夕飯抜きになってしまったのでお腹が減って目が覚めたルルちゃんに起こされた。
みんなしてゾロゾロと一階、リビングダイニングに向かうと、庭――というか土地だけど――に直接降りられる構造の縁側部分から、外でバーベキューをする大悟たちが見えた。
「お、やっと起きたっすか」
「おはようございます」
庭先、家からちょっと離れた雑木林近くに昨日使ったバーベキューセットを引っ張ってきており、朝からガッツリ肉食系の男子二人。
お腹ペコペコのおれ達もそのおこぼれにあずかる形で皆も朝食を摂ることとなった。
「あーっ! ズルい!! ズルいぞ大悟!!! キャンプしたろ!?」
「したっす。というか緊急避難っす」
「大悟さん、フェザースティック作るのメッチャ上手かったです」
どうやらおれ達の声やら振動やら、そういうのが聞こえないように避難したらしく、おれと買ったキャンプグッズを使いたい放題に使って野営を経験したとのこと。おれが気付いたのは焚き火台に薪の残りかすがたくさんあったからだ。
ちなみにフェザースティックというのは、細めの薪や枯れ木をこそぐようにしてナイフで削って、着火剤というか火元にするものだ。
大悟が上手いのはおれと一緒に動画みて練習したからなんだよ!
おれもやりたかった! チクショー!
よくよく見ればタープやら寝袋も使っており、本当に野営をしたらしい。
「くううううっ! 羨ましすぎるっ……!!」
「色々焼いて食べました」
おれ達が口には言えないことをし始め、そのまま朝になるだろうと予想していた大悟が近くのスーパーまで車を走らせたらしく、そこでウインナーやベーコンを買ってきて炙ったんだとか。
最後にはマシュマロとかバナナまで焼いたらしい。
くそー、おれもやりてぇ!
ちなみに今、柚希ちゃんと環ちゃんがちゃちゃっと作っているベーグルだとか葉野菜の類も買い出しのときに購入したもので、クリス垂涎のチーズも買ってあった。
いや、クリスの好きなハードタイプのナチュラルチーズではなく、フィルムにくるまってる薄い奴だけど。
クリスは半割にして焼き目をつけていたみんなのベーグルサンドにチーズを2枚ずつぶち込んでいたけど、正直朝から食べるには重いんじゃなかろうか。いや、まぁ男二人も焼き肉食べたりしてるし、健啖なのは悪いことじゃないけどさ。
ちなみに環ちゃんはチーズの回数が増えたからという理由で、食事当番の時にはヘルシー&ローカロリーなものを作ってバランスを取っている。あと柚希ちゃんは元から和食党なので、そこまで食事バランスが偏っているわけではない。
皆がもぐもぐしてる横で、おれは何となく薪の燃えカスを炭用のトングでつっついたり、二人が使った寝袋のジッパーを開け閉めして確認する。
内側からも閉じられる形のジッパーって面白いよね。
あー、おれもキャンプしたかった!
普段ならこの前後におれの食事タイムなんだけど、昨日はお昼ご飯はしっかり食べたし、夕方からずっと魔力をチャージしてたので魔力はけっこう良い感じな溜まり具合だ。
ちょっと前に魔力の最大量を検証しようとしたんだけど、四人全員の身が持たない、という理由で断られたので未だに魔力のマックスは不明のままだ。名を得たモンスターだし、相当量だとは思うけどね。
「あまね」
お、さすがクリス。おれが暇なのに気付いてくれた。
クリスが手招きするので寄っていくけれど、普通にベンチに座らされる。
「落ち着きがない」
「えー、暇なんだもん」
「ご飯たべる?」
「んー、良いかな。最近食べないこと多いから、あんまり食べるともたれるんだよ」
実は昨日のお昼がまだ残っているような気がして、ちょっともたれているのだ。いや、夜もたっぷりいただきましたし、そりゃあね?
「老化っすね」
「はぁ!? おれ、このメンバーだと一番若いぞ!? 生後四か月ちょっとだぞ!?」
ぶぅぶぅ文句を言うけれど、皆して普段とは違う朝ごはんに夢中で碌な反応が返ってこない。
結局、皆が食べ終わるまでおれはクリスに抑留され、めちゃくちゃ暇な時間を送ることとなった。
解せぬ。
「ひま」
「(もぐもぐ)」
「ひーまー」
「(もっきゅもっきゅ)」
「ひひひままま」
「(むぐむぐ)」
「……さびしい」
「あまねさんも食べればいいじゃないですか」
「いや、昨日のお昼、食べたじゃん?」
「はい」
「……ちょっともたれてる」
「……」
「な、なんだよ!? おれは若いからな!? そんな顔でみるなよ!」
「あまね、静かに」
「……ぐすん」
「もうちょっとで終わるから」
「(パァッ)」




