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◆002来訪者たち・上

本日は2話投稿しております。

これは2話目なので、読んでなければ前話にジャンプ!


「調子はどうだ、宗谷殿」

「ええ、まぁ、普通です、よ?」

「……そうか」


 おれは今、死ぬほど気まずい思いをしていた。

 原因は目の前にいる不機嫌顔の厳ついおっさん。土御門さんというド級のお金持ちなんだけれども、実はこの土御門さんは祓魔師協会の理事である。

 何とも胡散臭いネーミングに若干引きそうになるけれど、よく考えたらおれもファンタジーな存在だし、実は地球にも妖魔なる存在が跋扈(ばっこ)しているらしく、祓魔師協会は人に仇為(あだな)す妖魔を討伐するという、バリバリ実戦系の独立行政法人であった。

 土御門さんとはそういった妖魔の関連で知り合ったのだけれど、ついひと月ほど前に色々巻き込まれて、仲間もろとも死ぬ寸前まで追い込まれたりもした。土御門さん自身はツンデレなだけで良い人なのだけれど、とにかく持ってくる案件は厄介の一言に尽きる。


「群馬に4tトラックくらいのサイズのイノシシ型妖魔が――」

「猟友会にお願いします」


「長野に幽霊が出ると噂の峠道があってな、先日もそこで事故が――」

「とりあえず見通しを良くして標識立てるように行政と相談してください」


「茨城から埼玉に掛けて妖魔が関係すると見られる若い男の不審死が相次いで起こって――」

「検診! 早めの検診で卒中とかガンとかの早期発見と予防をしましょ!」


 などと華麗にスルーしていたのだが、今日はついに直接交渉にやってきたのだ。いや、普段もこの不機嫌親父じゃなくて部下で秘書やってる老紳士の三条さんが間に入ってくれてたんだけども。

 この土御門さんは理事会の中では浮いた存在らしく、自由にできる手駒が少ないらしい。

 そこで目を付けたのが異世界出身でどこのひもも付いていないおれ達というわけだ。

 というか、おれ達を見つけ出した土御門さんがひもなのか。

 いや、もちろん依頼は普通に断るけど。

 四月の一件だけで超大金を貰ってるしお金に困ってないのもあるけど、どんな大金を積まれたとしても、クリス達が危険に身を晒すようなことをしたいとは思わない。

 あとおれ、怖いの苦手なんだよ……ゲームもバイオなウイルスでゾンビがハザードするやつが限界。武器なしで逃げるだけのとかビックリ系とかもう無理なんだよ!

 恥ずかしいから皆には内緒にしてるけども!


「それで、三条が依頼を受けてくれないと嘆いていたが」

「ええ……何かと忙しくて」

「そうか。クリス殿たちも忙しいのか?」

「忙しいです。ええもう、とっても」


 夜なんて、休む間もないどころか回復魔法が必要になるくらいに忙しいですよ?

 まぁおれ以外に回復魔法使えないからおれがダウンしたときにどうなってるかは不明だけど。

 だいたい翌朝には艶々してることが多いから大丈夫だろう。

 ちなみにルルちゃんは途中で意識が飛んでしまうらしく、よく覚えていないとのこと。他三人は訊ねたけど恥ずかしそうな顔して誤魔化された。恥じらう乙女って良いよね。


「……実は、頼みがあってな」

「依頼ではなく、頼みですか?」


 脳内で花園へとトリップしていたおれを引き戻したのは、土御門さんの重々しいことばだった。ただでさえ刻まれている眉間のしわが、さらに深くなる。もはや羅刹かと思わんばかりの顔で小さく唸ると、頭を振った。


「ああ、個人的な頼みだ。報酬はもちろん払うし、危険もない」

「……お伺いします」


 危険がない、と言われてしまえば何も聞かずに断るのは流石に難しい。それに、協会からの依頼ではなく個人的なお願いと言われたのも断りにくい。四月に巻き込まれた件では、全滅の危険がある中で一緒に戦った。ある種の戦友みたいなものなのだ。

 


「私に子どもがいることは知っているか?」

「はい。環ちゃんと同級生の梓ちゃん、でしたっけ?」

「ああ。梓の弟で葵もいる。今日は葵のことで相談したいことがあった」


 名門の祓魔師家系である土御門家は、魔力をもっていない梓ちゃんではなく魔力のある葵くんを跡継ぎとして育成しているとのことだった。とはいえ、現在中学二年生の葵くんは反抗期真っ盛りで、中々父である土御門さんとはうまくコミュニケーションが取れていないらしい。

 祓魔系の技量的にも伸び悩んでいるので、いっその事まったくちがう技術体系を持つおれたちのところで修行をさせたいのだとか。


「……三条のところは孫夫婦に赤子が生まれたばかりで預けるのは難しい。それ以外はまともなところがないのだ」


 敵対派閥が主流派なこともあり、預けられそうな先が見当たらないのだという。


「いや、でもウチって女所帯なんですけど」

「昼間の間だけで良い。送り迎えは三条か、無理なら梓に付き添いをさせるし、こちらの女性がたに不埒な真似をするようならそっ首(・・・)叩き切ってもらって構わん」


 お、重てぇ……!

 というか何で中学二年生の息子をそこまでスパルタにするんだよ!?

 おれが中二のころなんて女子の裸を妄想してる時間の方が寝てる時間より多かったくらいだぞ!?

 大悟に至っては、サルみたいに盛って環ちゃんに見られて、ごっついトラウマ与えてたぞ!?


「クリス殿の巧みな戦闘技術や有栖川の娘のような緻密な妖力操作を見せたり、何なら実戦で揉んでもらうだけでも構わん」

「……ええと」

「後進育成ということで、協会の依頼としても扱える。本来ならば言いたくないのだが、やはりある程度実績は積んでおかんと、そのうちとんでもない依頼が舞い込んできて、断れなくなるぞ?」


 ど、恫喝じゃねーか!

 碌な反論材料がないままなし崩しにお願いを聞く羽目になったおれに、土御門さんは満面の笑みを浮かべた。顔が怖いから威嚇する猛獣みたいに見える。


「愚息のことはどう扱っても構わん。後ほど本人にも挨拶に越させるので、よろしく頼む」


 そういって去っていくのを、おれは呆然と見ているしか無かった。

 どーするよ……。

 中学二年生とか絶対に性欲モンスターだぞ?

 クリスにルルちゃんに環ちゃんに柚希ちゃん。どこを取っても芸能人も真っ青なレベルの美少女の中にそんな性欲モンスターを放り込んで無事でいられるか!?

 いや、クリス辺りだったら平気でなます(・・・)にしそうな気はするし環ちゃんもお姉さんと知り合いだから無体なことはされないだろうけど、柚希ちゃんは光属性なおおらかさでラッキースケベくらいだったら許しちゃいそうだし、ルルちゃんなんて何されても我慢してしまいそうだ。

 おれが! おれがしっかりせねば!

 ぐっと拳を握ると、鼻息も荒く決意を固める。

 このとき、おれはまだ気付いていなかった。

 この依頼が、今回の一連の騒動の引鉄であり、このあとのおれ達の運命を大きく変えてしまうことを。



次回更新は明日の21:00を予定しています。

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[一言] 待ってた あまねちゃんいちばんしっかり出来なさそう……
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