◆001プロローグ ※挿絵あり
本日より新作を投稿します!
本日は7:00と21:00の二回更新です! よろしくお願いします!
白壁を背景にした部屋。おれはカメラに視線を向けながら、手を振る。
カメラ下にはオンタイムでカメラ映像が流れる小さなモニターがくっついており、そこに映っているのはドがつく美少女である。
年齢は12歳くらい。月光のような煌めきのある銀髪に、どこか蠱惑的な紫色の大きな瞳。ぷるんとした唇は桜色で、にっこり笑えば異性のみならず同性までもが顔を赤らめるであろう美貌。
まさに傾国といっても過言ではない美少女こそ、おれである。
認めたくないけど、おれである。
「お相手は、宗谷あまねでした! それは次回の配信をお楽しみに!」
鈴のなるような声で閉幕を宣言すると、カメラの後ろで機器の操作をしていた後輩、望田大悟が指でOKを作ってくれた。
は、と短く息を吐いておれは肩の力を抜く。
疲れた。
おれ、宗谷あまねは美少女動画配信者として活動している。今さっき、定期的に行っている単独配信を終えたというところだ。
「先輩、お疲れ様っす」
「お、サンキュ」
大悟が差し出してくれたエナジードリンク『ヴァリアントエナジー』のプルタブを開けると、煽るように飲み込む。しゅわしゅわした炭酸が喉をくすぐり、甘ったるい味とともに抜けていく。
「くぅー、効くぅっ!」
「おっさんみたいっすよ」
「良いんだよ、おれは成人男性なんだから」
「見た目はロリっすけどね」
「うっせ」
炭酸のせいで目じりに浮かぶ涙を拭くと、空き缶を置く。
そう、おれは成人男性であった。目の前にいる痩せぎすの典型ヲタク男子、大悟よりも一つ年上の大学生だったのだ。
訳を話せば深く――いや、深くはないか。
大悟とドライブに行って、事故る。
何故か異世界でロリサキュバスに転生。
転移魔法を習得して嫁と奴隷をつれて戻ってくる。
だいたいこんな経緯だ。
何でおれがロリサキュバスになったかって?
そんなんおれが聞きたいよ!
せっかく美人のクーデレ嫁ができたのに!
ぷるぷる系子ウサギ獣人もいるのに!
何ならこっちで爆乳大和なでしことドSヤンキー娘とも関係を持っているのに!
おれには! ちんちんが! ない!
「にしても、環たち、遅いっすねぇ」
「まぁ女の子の買い物は……ウッ、頭が」
「辞めましょう」
ちなみに異世界で元々勇者をやっていたクリスを筆頭に、四人の女性と人には言えない関係を築いている。サキュバスって種族そのものが精気をエネルギーにすることもあって、四人それぞれが納得の上で行為に参加してくれているのだが、現在は四人ともお出かけ中であった。
大悟の妹にしてドSヤンキー娘の環ちゃんに連れられて、買い物やら美容室やらを巡っているらしい。一度、おれも付き合わされたことがあったけれど、試着・試着・また試着、とかなり酷い目に遭ったのでおれはパスしている。
「お、メッセージきてる」
暇なのでスマホをいじるか、と画面を開けた瞬間に飛び込んできたのは件の環ちゃんからのメッセージ。画像が添付されたそれには、
『今夜はごちそうですよ♡』
意味深なメッセージとともに、無表情ながらもちょっとドヤ顔っぽいクリスが映っていた。赤が混ざった茶色の髪はきれいなショートレイヤー。いままでセミロングだったから、随分スッキリした印象だ。切れ長の紅目と相まって、サバサバ系でデキる女性って感じである。
手に持っているのは瞳の色に合わせたのか、深紅をベースにフリルがこれでもかってほどあしらわれたベビードール。
うん、想像しただけで滾ってきますね。
思わず、お代わりしてもいいですか、と頭の悪い質問を送ると、今度は柚希ちゃん、ルルちゃん、そして自撮りらしい環ちゃんの画像が送られてきた。
柚希ちゃんはロングの黒髪を結わえるようにまとめた大和なでしこスタイルだ。『うち、髪長かろ? 結わえた方が楽やけん』と言っていたけれど、今回の美容院でも長さは変更しなかったらしい。つやっつやでキレイだしロング似合ってるので嬉しいけどね。
ちなみにスタイルが良すぎて和服は似合いそうにない柚希ちゃんだけども、画像では黄色を基調としたレースたっぷりのベビードールを片手にピースをしている。
つづくルルちゃんは現代日本にいるはずのないうさ耳獣人だ。当然、ロップイヤーがあるとびっくりされてしまうので美容院では切っていない。環ちゃんが月に二回くらいお風呂場で切っているのだけれど、本人曰く、『ぴかぴか、ですっ!』とのことなので気に病む必要はないだろう。
本来なら茶色から白へのグラデーションがかかった実にファンタジーな髪色とうさみみの色なんだけど、異世界産の魔道具を使うことでクリスと同じくらいの茶色にしている。
クリスがキリッとした雰囲気なのに対してルルちゃんはほんわか系なので姉妹というにはちょっと無理があるけど、親戚くらいなら通るかもしれない。
ルルちゃんはやや緊張した面持ちで、口元を隠すようにして両手で水色のベビードールを見せてくれていた。レース少なめで、シルクっぽい光沢があるのがまた清楚系で素晴らしい。
うむ。純粋無垢なルルちゃんにいたずらするのもまた良し。
最後の環ちゃんなんだけども。
「だれ……?」
「うっ……いや、まぁ顔のつくりは環っすよね」
おれの呟きに大悟も画面を覗くけれど、そこに映っているのはストレートの黒髪を降ろして、毛先だけにパーマが掛かった、見た感じちょっと清楚系というか、大人しめな感じの美少女の姿である。
化粧もバッチリ決めていて、ちょっと地雷メイクっぽい感じがあるけれど清楚系の範囲だろう。柚希ちゃんと違って表情にもちょっと憂いを感じるのがまた艶っぽい。
「……金髪ベリーショートのバンギャかヤンキー系だったはずでは」
「最近の美容室ってすごいんすね」
「いや、おかしいだろ!? 髪を切るところで、伸ばすところじゃないぞ!?」
そもそも大悟の『顔のつくりは』って当たり前だろ!?
もし顔のつくりまで違ってたら別人だよ!
おれの叫びに応えるかのように、環ちゃんから追加のメッセージが送られてくる。
『びっくりしました? 配信用にウィッグ買ってみました!』
くぅ、これだから頭の良い奴は!
おれの心を簡単に読んできやがる!
おれと大悟がびっくりすることまで読んでいたな!?
ちなみに追加の写メもあって、紫色のベビードールとピンク色のベビードールが映されていた。十中八九、紫が環ちゃんでピンクはおれだろう。紫は総レースかってくらいスケスケのやつで普通にえっちな感じだ。きわどいところ以外は全部レースになっている。
しかし紫ではなくてピンク。
なんで!
どうして!
きわどいところだけがスケスケなんだよぉ!?
「お、おれは絶対に着ないぞ!? 防御力ゼロどころかマイナスじゃないか!?」
思わずツッコミを入れると、環ちゃんの実兄である大悟に思いっきり目を逸らされた。
「ほら、あの、……なんかすいませんっす。自分、環の味方するって決めてるんす」
「ああ、うん。……口じゃ環ちゃんに叶わないの分かってるから」
どうせ適当に言いくるめられて気付いたらおれはベビードールを身にまとっていることだろう。
うん。いざとなったらおれのモンスターとしての真の力を発揮してでも乗り切るもんね!
『高級ディナーをいただく場合は、ドレスコードが必須なんですよ?』
「ぐああああっ!?」
見たい! というか脱がせたい!
脱がせたいけどおれはあんなベビードール着たくないぞ!?
いや、でも送られてきた写メを見たせいでお腹が減ってきてる……これは我慢できない予感がする。
くそう。
おれは歯を食いしばりながらも夜の難局を乗り切る術を思案するのであった。