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雨之雫(あめのしずく)  作者: さすらいの乙女
本編
3/36

星空・嵐

 完全に夜になった。視線の先、都市部一帯に夜間照明が付いている。


 百億円のナイトビューだったろうか。よく覚えていないけれど、きっと超高層ビルからの眺めはこれの何倍も美しいのだろう。僕は視線を上に向けた。

 普段は一つか二つくらいしか肉眼では見られないような星も、この雲一つない夜空でならもっと多くを確認することができた。

 僕は急いでリュックからカメラを取り出した。ずっと使っている一丸レフ。僕の愛機。

 仰向けに寝転がり僕はレフを構えた。そしてレンズに片目を近づける。


 ————今回は『当たり』だ。


 景色を見てそう思った。カメラは肉眼より景色が映りにくいのだが、今回はばっちりだ。


 ネットで星空の映像は何度も見たことがある。生ではなかったけれど確かに綺麗だった。

 けれど、生はやはり違う。画面越しに見るのと実際に見るのとでは、感じられるものが違いすぎる。自分がそこにいるだけで、見える景色は違ってくる。それは例えば、その景色を見ているのはきっと自分だけだと、誰かが共有したものではなく唯一のものを自分一人だけが味わっているのだという幸福感、不思議な高揚感が、僕の中を渦巻いていた。


 そこでふと、焦点があるものに留まった。


 一瞬で過ぎ去る流れ星だ。別名『(そら)(ごみ)』。


 それでも願わずにはいられない。流れ星を見つけたなら、何か願い事をするのが礼儀というもの。僕は地面にカメラを置いて両手を合わせた。


 願い事はとりとめもないもの。けれど言ってしまえば叶えられないのが願い事というものだから何かは言わない。……まあ強いて言うなら、新しいものだ。

 その後小腹が空いたので起き上がりリュックの中を漁った。適当に取り出したのはおにぎり。これが今日の晩ごはんだ。

 一口食べる。


「ん、微妙……」


 時間が経って米が少しかたくなっていた。乱暴に食べているわけじゃないのに、食べる度に米粒がぱらぱらと下に落ちていく。

 そんな時、ぽとりと何かが鼻に落ちた。


「……ん?」


 ふと空を見上げる。

 そこからはまるで一瞬の出来事だった。


「うわっ……!」


 いきなり大粒の雨が降り出した。スコールのように突然起こったその大雨は、やがて嵐と言っていいほど激しいものに変わった。

 張っていたテントはずぶ濡れになり、突風でいとも簡単に崩れた。設置を手抜きしていたせいかもしれない。脇のリュックも防水ではないため、雨を防御しきれなかった。


「………っ!」


 僕は一本杉の下に避難してうずくまっていた。けれど横から吹く風が非常に冷たく今にも風邪をひきそうだった。

 此処にいてもどうしようもない。幸い懐中電灯は持ってきているからかろうじて移動はできる。


「とりあえず避難を……」


 僕は立ち上がった。そして懐中電灯だけを持って暗い山道を散々走り回り、やがて小さな洞穴を見つけた。

 中は予想よりは広かったけれど、それでも入るので精一杯だった。しかし文句を言っている場合じゃない、何とか身をかがめて僕は我慢する体勢を作る。そこから眠りにつくまで、僕はずっとガチガチと身体を震わせていた。

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