出会う
私は……
この大地に見惚れてしまった。
あまりにも美しすぎる。
数多の幻獣から神獣の類。
湧き上がる暖かい水。
雪に埋もれていたが、生えている木々も大木であった。
だが、その中に一本の大きな木があった。
「あれが……神樹」
世界のすべてを支えている大樹。
初めて見た。
ここが神樹の森というのは本当らしい。
「あの魔術師の方はどなただったのでしょう?」
気になるのはここまで飛ばしてくださったあの魔術師。
白髪に桃色の目。
白と金のローブを着ていた。
今度会った時にお礼を言いたいものです。
「さぁ。
探索してみましょう!」
試練の一つは達成したんです。
少し観光しても構わないでしょう!
──
そう思った私がバカでしたぁ!
帰り方が分からない。
変な猪に追われる。
もうやだ!
帰りたい!
そうして私は猪から必死で逃げる。
障害物を破壊しながら進む猪はもう私にぶつかろうとする一歩手前であった。
「あっ。
もうダメ……」
そう思った時に一本の矢が猪の眉間を撃ち抜いた。
眉間を貫通するその矢は地面に突き刺さり、衝撃波を放つ。
「キャッ!
なに!?
何が起きたの!!」
私は何が起きたのか分からない。
さっきまで私を追っていた猪が矢で撃ち抜かれていた。
というか!
矢の威力高すぎでしょ!
私は周りを見渡す。
誰もいない。
遠くから射ったのであろうか?
すると私の後ろを猛烈な風が吹き抜けた。
そして、上でザンッ音が鳴ったと思えば私の頭に雪が降りかかった。
「冷たっ!」
雪が首筋から服の中に入ってしまった。
もう!
誰でしょうかこんなことする人!
「おっと、 すまない。
こちらも悪気があったわけではないんだ」
上を見ると弓を持った人が木の枝の上座っていた。
ヘッ!と笑みを浮かべながらこちらを見る。
特徴としては青い髪が獣の耳のように反りあがり、なんとも暖かそうな格好をした男の人だった。
──
俺はしばらく女を見ていた。
危なっかしい身のこなしで逃げている。
「ハーア。
何してんのかね?」
大方、猪の寝所に入って怒らせたのだろうか?
見るだけでドジっ子というのが分かった。
「まったく。
どうやって入ってきたのだろうか?」
最初は俺たちの他に住むものがいたのかと思ったが、どうやらそうでは無いらしい。
無視するのは簡単だったが、ちょうど肉が欲しかったし、殺されたら寝覚めが悪い。
俺は女を助けることにした。
ここからだと約300メートルだが、矢に風を付与すれば撃ち抜ける。
俺は矢をつがえ、弦を引く。
かなり速い移動なので、弓兵でもない俺があてられるかは不安だった。
まぁ……
大丈夫だろう!
俺は矢を撃つ。
風を切りながら矢は猪に吸い込まれるように向かっていった。
「よっしゃ!
一発で仕留めたぞ!!」
こんな調子のいい日はないのだがな……
まぁいい。
早速俺は肉を回収すべく傭兵団トップの速力で走り抜いた。
木をつたリかなりの速力で近づいたためか木の枝の雪が女にかかっちまった。
「あっやべ」
女は少し怒った様子で周りを見渡している。
俺は急いで声をかけた。
「おっと、 すまない。
こちらも悪気があったわけではないんだ」
女がこちらの方を見る。
俺は全力の笑顔で赦しを乞う。
「もう!
あなたのせいで服の中が濡れてしまったではありませんか」
「だから謝ってるだろう」
「頭上から謝る人がいますか。
まぁいいです。
命を救われましたから」
「そいつはどうも」
どうやらこの土地に害をなそうとする者では無いらしい。
俺はいつでも殺せる構えをとっていたが解除した。
「ところであんた。
どうやってここまで来たんだ?
まさか、 ここまで登ってきたのではあるまい」
この女。
もしここまで登ってきたのであればとんでもないヤバい奴だ。
たぶん引く!
「いいえ。
最初は登ろうとしたんだろうけど、 途中で疲れちゃって。
そしたら親切な魔術師さんがここまで転送してくれたの」
「なに!」
転送の魔術だと!
その話が本当ならそいつはとんでもない魔術師だ。
しかもここにいつでも来れる人間……
警戒する必要があるな。
「ハァ、 まぁいい。
ところであんた!
何の用でここに来たんだ?」
「あっ、 うん。
少しここを観光してみたくて……」
「嘘をつくな!
観光程度でここまで来るのはとてつもなくヤバい奴だ。
お前にそれだけの度胸があるようには見えん」
「何かすごく貶された気がしたけど……
はぁ、まぁいいわ。
教えてあげる。
私はここよりかなり遠いインフェルノ帝国の皇族に生まれたの。
そこでは新しい皇帝を決めるため、100人の子供に試練を与えた。
その試練の一つがここに到達するってことだったの。
そしてその証として、ここにしかない固有の物を持って帰る。
それが私の来た目的」
「それこそ嘘だろ!!」
「嘘じゃないわよ。
その証拠に、 これ」
女が取り出したのは帝国の皇族の証であるペンダントだった。
(おいおい。
マジかよ)
「なるほどね。
つまりは皇帝を選定する試練で、この場に貴様を送りこんだっていうわけか」
まぁいい。
ここの平穏を脅かす者でないのなら安心した。
「あっ!
そうだ!!
ねぇ、 あなた。
私を案内してくれない!」
「はぁ!
どこへ?」
「せっかくここに来たのよ!
探検したいじゃない」
正直言ってめんどくさい。
だが、こいつを返すために帰還の秘術を教えるわけにいかない。
だが、今の俺は腹が減って死にそうだ。
ハァ。
仕方ないから砦まで来てもらおう。
話はそれからだ。
「それは後だ。
俺は腹が減っている」
「えー、ケチ」
「ケチじゃねぇ!
お前はよそ者なんだぞ!
とりあえず俺たちの住む砦まで来てもらう。
いいな!」
「え!
こんなところに砦があるの?」
「そりゃ住んでるのは俺たちだけじゃねぇしな。
さっさとついてこい!
おっと、そういえば名前はなんていうんだ?
俺はルキウス」
このまま名前も知らなければ何て呼べばいいか分からないので、とりあえず名前を聞く。
「ん?
私?フレアランテよ」
「フレアランテ……
長いからフレアって呼ぶぞ。
いいか?」
「好きに呼んで。
ほら!さっさと行くわよ」
そうして俺は砦まで女を案内した。