赤色の姫
「朝か……」
戦争が終わった後、俺は村に戻ってきた。
報酬は領主が渋ろうとしたらしいが、親父のあの鬼のような覇気と顔に玉をとられたらしい。
まぁ、つまりはだな。
脅されたってことだ。
「ふあ~あ。
あぁー、 疲れた」
久しぶりに本気を出したせいか、異常に眠い。
つーか体いてぇ。
腹減った!
砦にある自分の部屋から降り、階段を下る。
「おっ! 炎の青豹のご登場だ!!」
仲間がすでに飯を食いまくってやがる。
「おい! 俺の飯はどこだ?」
「ああ、 それならここに……」
そこにあったのは無残に食い散らかされた米や魚の残骸であった。
「今すぐ殺されたくなければ正直に言え」
俺は槍を構える。
「いや! 先に食おうて言ったのはこいつで!」
「おい! ばれねぇて言ったのはてめぇだろうが!」
「言うんじゃねぇよ!!」
被害者である俺をそっちのけで喧嘩しやがった。
周りも
「やれやれー!!」
「そこだ! やっちまえー!」
と言って煽りやがる。
「あーあ、 これだから傭兵の男どもは」
俺は馬鹿らしくなって猪でも狩りに出かけた。
「あー、 体いてぇ。
こりゃあ筋肉痛だな。
この程度で筋肉痛とは、 俺もまだまだだねぇ」
俺は槍ではなく弓で捕まえに行く。
なぜ槍でいかないのかというと。
この槍は対軍用でな。
魔力を込めれば、地面が抉れるほどの威力になる。
ただでさえそんな感じなのに、普通に刺さっただけで体の中を黒焦げに焼いちまう。
そんなんじゃ肉が駄目になっちまうだろう。
だから弓で行くんだ。
「だがいざというときに居ねぇんだよな」
俺は崖の上から森を見渡す。
今思えばここは綺麗でいいところだ。
魚もたくさんいるし、動物だってたくさんの種類がいる。
ネズミからドラゴンまでたくさんな。
それに幻想的な場所だっていっぱいある。
宝石の洞窟や、神樹の森。
どれも美しい場所だ。
なぜここが他の国の奴らに狙われなかったのか。
それはだな、
この地域は高い山の上にある。
下の人間がたどり着くのは俺たちしか知らねぇ魔法がなきゃ無理だ。
あとは……自力で上るかだな。
「ふっ、 そんな気力のある奴はいねぇだろうがな」
ん?
森の奥で雪が舞い上がっている。
「猪か!!」
俺は立ち上がって猛スピードで駆ける。
たぶん馬より速い。
そうして追いかけて行ったのだが・・・
「なんだ?
誰だあれ?」
猪は確かに走っていた。
だがその猪に誰か追いかけられているようだ。
「あー……めんどくせーな」
走っていたのは赤い髪の女だった。
ここに居る女ども。
つまりはお袋や姉貴共は気品の欠片もねぇ、女どもだが、
あの女は・・・
そうだな。どこか可愛らしい女だった。
「へぇー。
こんな場所にも可愛げのある女がいたんだな」
「ハァハァ。
何で! どうしてこんなところに!!」
私はインフェルノ帝国の皇帝。アウレア帝の正室、側室の100いる子供の一人。
19になるまで私は何不自由ない生活だった。
なのにどうして……
「これより次の皇帝を選定する」
父上からそのように呼びかけられた。
王の間にいるのは私の腹違いの兄弟たち。
そして父上が話を続ける。
「余は次の皇帝を様々な冒険をさせ、 試練を突破した者に任せようと思う」
父上はそのように言うと、宰相が前に出て紙を読み上げた。
「我らが皇帝閣下は、 このように仰られている。
1つ、 これからいう難所に一人で赴け。
2つ、 戦争に参加し、大勝利を納めよ。
3つ、 強力な従者を連れよ。
この3つのみである。
この試練を突破した者に次の皇帝になる権限を与える。
なお、 この試練に際して謀をした者は皇族であれ、絞首刑に処すものとする」
私は一層決意を固くする。
絶対に皇帝になって争いのない世の中を作る!
そう決めたのに……
「もう何なのよここ!!」
私が言い渡された難所は神樹の森。
様々な生物、神秘が眠っているとされる山上の森である。
だが、この山がなんとも高い。
もうどんだけ!ていうくらい。
登ろうとしたけど途中で足が疲れて止まってしまった。
しかしその時不思議な格好をしたお兄さんが私に話しかけてきた。
「おや、 こんなところにどうしたんだい」
白髪に、紫の目。大きな杖を持ったお兄さんだった。
「水を……いただけませんか」
喉がカラカラになりながらも私は言う。
「ほら、これをお飲み」
私は差し出された革袋の水を飲む。
「な! これは……」
疲れ切った体は一気に回復していた。
どんないいポーションでもこれほどの品質の物はない。
「これはね、 私が住むところで作ったんだよ」
「凄い物ですよ! 売ったらものすごい額になるような!!」
お兄さんは照れたように笑う。
「そうかい。 それはよかった。
君はこれからこの山を登るのかい?」
「はい。
私には果たさねばならない使命がありますから!」
「へぇ、 私には頑張れとしか言えないけどね」
「そうだ!
良かったらあなたも一緒に行きませんか?」
私はこれほどのポーションを作れる魔術師だったら従者として連れて行っても大丈夫だろうと、少し勝手なことを考えてしまった。
「……悪いがそれは出来ない」
「なぜですか?」
「私はこの世界の者ではないからさ。
ほら、 触ってごらん」
私は恐る恐る触る。
「ひっ!」
私の手はお兄さんの体をすり抜ける。
「幽霊!!」
「いやいや、 幽霊じゃないよ。
ただ、 私は自分の住むところを出られないからこうして霊体化して来てるんだ」
私は少し心を落ち着かせる。
「ハァハァ……
では、 どうしてここに?」
「いや、 私の孫……じゃなくて。
知り合いの子供の顔を見に来ただけさ」
今、孫って聞こえたような……
「そうですか……残念です」
私が落胆していると、お兄さんは不思議なことを言った。
「大丈夫。
君には不思議な運命が見える。
探し人には、 必ず必ず会えるよ」
「えっ、 それはどういう……」
「さぁ、 そろそろ私も時間だ。
ここで会ったも何かの縁。 私が山上まで送ってあげよう」
お兄さんが持っている杖を地面に突き当てる。
すると浅紅色の魔法陣が出てくる。
そして私の目の前は花弁で覆われた。
「では君の旅路が祝福に満ちていることを祈っているよ」
そう言ってお兄さんは消え去った。
そして舞っている花弁が明けた時、私の目の前には幻想的な神樹の森が広がっていた。