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俊足の獣達

「気をつけろ。

あの犬は普通ではない。

何かに操られているような……」


操られている?


「そうか分かった」


そう言ってルキウスは歩き出す。

味方の兵士たちは次々とルキウスに道を譲る。


「ふっ、 お前のそれなりの本気をまた見ることになろうとはな」


前に出てきたのはゼルデアス。

ルキウスと同い年で共に技を競い合ってきた唯一無二の親友である。


「ああ、 お前も来るか?」


「いや、 やめとくよ。

俺も士官が決まったんだ。

ここで死ぬのはごめんだね」


ゼルデアスはここより少し遠くの国へと騎士として士官することが決まっていた。

俺にも何個かそんな話があったが、王様はどうも好かねぇ。

よってその手の話は断らせてもらった。


「さぁ、 やろうぜワンちゃん。

思う存分その力を見せるが良い!!」


ルキウスは槍を持ったままクラウチングスタートの体制をとる。

そしてルキウスは、こちらに向かって突進してくる犬がルキウスに到達するまでひたすら秒数を数えた。


「5」


雪は舞い上がり、死体は蹴り上げられ、犬は泥の手と共に駆け抜ける。


「4」


その様子を兵たちは邪魔にならない距離を保ちながら見守る。


「3」


「ボス。

ルキウスの野郎、 大丈夫なんですかね?」


「分からん。

あの幻獣相手だ。 ルキウスも戦ったことは無いだろう。

森の熊とは次元が違う。

だが、お前たちも知っているだろう。

あいつは特別な子だ。 必ず勝つ」


「2」


足の速さ、およそ秒速200メートル。

攻撃は泥で作られた手。

爪の攻撃。・・・まだまだあるかもしれねぇ。


「1」


さぁ、行くか!


「0」


ルキウスはその場から一瞬でいなくなった。

その速さはマッハを超えている。

槍には炎が灯り赤く光っている。

そして犬と激しくぶつかり合う。

雪がまるで爆発で発生する煙のごとく舞い上がる。

犬はその速さに目で追うことができないでいる。


槍で切り裂き、差し穿つ。

だが犬も泥でうまく受け流す。


「理性を失っている割には、 いい判断しやがる!」


次々と周りに展開する泥から手が出てくるがそれを難なく避ける。


「もらった!!」


槍を脳天にぶち込んでやろうとするが、

犬も体を大きくひねり避ける。


(ちっ、 だんだん動きに慣れてきやがったな。

学習するのが早いと見た。)


「こりゃ、早々にけりをつけた方がいいな」


泥の手に乗り、勢いをつけて跳躍する。

そして槍を投げようとすると、

照準が定まらないように、軽快なステップを踏む。


(ほう、あの駄犬。

随分と動くじゃねぇか。)


悪魔の犬は泥の手と連携して攻撃してくる。

その素早い動きは普通の兵士になら捉え難かっただろう。


「いいねぇ!

こんだけ心が躍るのは久方ぶりだ!!」


獣ごとき敏捷性で駆け抜ける。

迫りくる手を槍で刺し貫く。


『グルルルル、 ワオーーーーン!!』


犬の周りに多くの魔力弾が形成された。


「物量で押してくるか……

良かろう!!

その勝負、 受けてうやる!!」


魔力弾が一斉に向かってくる。

その数1000。

対して一本の槍だけのルキウス。

不利なのは明らかであった。

だがルキウスは迷いなく突き進んでいく。

そして魔力弾がルキウスに当たる直前、


「炎よ、 舞い上がれ」


ルキウスを中心に炎が舞い上がった。

まるでルキウスを守るように・・・

魔力弾は次々と灼熱の炎にかき消されていく。


「悪いな。 これは体質でよ。

昔から飛んでくる物体は無効になるんだ」


そう、俺は昔からそうだった。

この時に誰かに守られているような・・・

暖かい魔力を感じる。


悪魔の犬は渾身の技を無効にされたので怒り狂っている。

そんな中、ルキウスが近づき声をかける。


「おい。

お前は誇り高き犬であったはずだ。

こんな汚染の泥なんかに負けず。

ひたすらに戦場を駆ける猛犬であったはずだろう。

だが……

今はなんだ!

そんな泥程度に負けやがって。

その淡い紫の色が、真っ黒に染まりやがって。

ならば……

俺は貴様の誇りを守るためにこの槍を振るおう。

さぁ! 決死の覚悟で来るがいい」


『グルルルル。

ワオーーーーーーーン!!』


咆哮と共に口元に光が集まる。


「来るか!」


ルキウスも槍を構える。


(この技……

こいつ自身の技じゃねぇな。

おそらく操っている泥自身の技だろう)


泥が肉体を借りて螺旋のブレスを放つ。


「カースロアー!!」


(俺がこの攻撃を避ければ、 周りの仲間も巻き込んでしまう。

くそっ!

こうなったら一か八か賭けるしかねぇ!!)



──燃やし尽くせ



ルキウスが持つ炎槍を中心に、

無数の炎が舞い上がる。



「オープンパーガトリー!!」



さっきよりも早い突撃を繰り出す。

目には一切映らない。

ただ敵に向かって真っすぐに突っ込んだ。

炎は大きく舞い、周りの雪は熱で溶けていた。


「うおぉぉぉぉぉぉぁあああああ!!」


ルキウスの雄叫びと共に犬の胸を体が貫通する。

風圧で周りの木々も一気に吹っ飛んでいた。

犬はその場に倒れ、

ルキウスは槍を前に突き出し、相手の血に濡れていながらも立っていた。


ゆっくり犬の方へ向く。

犬は自我が戻ったのか、口から血を吐きながらしゃべった。


「この我を殺したか……

難儀な小僧だな。 この我を殺したということは貴様に呪いがかけられたのだぞ」


「ふっ、 そんなの知っている」


悪魔の犬を殺せば恐ろしい呪いにかかることぐらい。

俺は知っている。

だが、それを承知で殺した。

まぁ、何でかは知らんがね。


「そうか……貴様はこれからも数多の武功で名を上げるが、 長生きはせぬ。

それが我の呪いだ。」


「願ったり叶ったりだね。

こちとら長い命なんぞに興味はねぇんだよ」


「ふっ、そうか……」


悪魔の犬は静かに、安心したように笑って死んだ。

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