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傭兵団 山猫

異世界。

ここは魔物や人間が国を作り、

魔法なるもので、生活を豊かにする。

人々は国に税を納め、そして国は民の生活を保障した。

だが、人間の欲は深いもので、

全世界を統治し、我が物にしようと、戦があちこちで絶えなかった。

数多の戦士が生まれ、己の欲のために戦い続けていた。


今異世界は冬。

雪が積もる中で国同士の戦が起こっていた。

白い雪は真っ赤な鮮血に染まっていた。

槍や剣がぶつかり合う音が鳴る。

肉を切り裂かれ、悲鳴や痛みに耐えられず叫ぶ声が聞こえる。

その雪と血が舞う戦場を、とてつもない速さで駆け抜ける青年がいた。

青い髪をなびかせ、赤い槍を持ちながらただひたすらに駆け抜ける。

槍を相手にぶつけ、そして刺し貫く。

そう。

その青年こそルキウス。

傭兵団・山猫に所属し、

炎の青豹と呼ばれ、数々の戦で名を上げていた。


「もう他に腕に覚えのある奴はいないのかー!!」


敵将の首を片手に持ち、炎槍を構えて敵兵に叫びを上げる。

敵はその男のあまりの迫力に腰が引けて、誰も前に出る者はいなかった。


(ちっ! こんなもんか!!)


ルキウスは背を向けて敵軍から去っていく。


「おい! 貴様どこに行くつもりだ!!」


「飽きた。

……俺は帰る」


「なに!!」


味方の指揮官がルキウスを止めようとしたが、一瞬でひっくり返され、その場を去らせてしまう。


「親父……俺は先に帰ってるぞ」


ルキウスが親父と呼ぶ男はヴェルグス。

傭兵団・山猫の首領にして、隻眼の獅子の異名を持つ猛者であった。


「そうか……」


ヴェルグスはそれだけを言い残す。


ここにもお前を満足させるものはなかったか。

ルキウス。

お前は数奇な運命に惹かれている。

俺がお前の母親に会った時から……


ヴェルグスは寂しそうなルキウスの背中を見守る。


(たくっ!

どいつもこいつもてんでだらしねぇ!!)


ルキウスは槍を担ぎながら雪山の上から戦場を見つめていた。


「おっ!

いいねぇ! ゼルデアスの野郎、また剣の腕を上げやがったな」


(だが俺に一撃をくれれるのも……

あいつらの中にはもういねぇ。)


「あ~あ。

もう狩猟だけでもしてのんびり暮らそうかね」


ルキウスは戦況をしばらく眺めていた。

もし危ないようであれば、すぐに加勢しようかと思ったが、

その必要はないくらい圧勝のようだった。


そりゃそうだ。

玉の無い犬に戦意はもう残ってねぇだろ。

ついでに大将が討ち取られたんだ。

指揮系統もありゃしねぇ。


背を向けて逃げる敵兵に矢の雨を射かける。

敵は散り散りになり、森の中へ消えていく。

勝敗は決した。


「やっと終わりか。」


さっさと陣に戻ろうとした時だった。


(なんだ?

敵兵がこっちに戻ってくる)


森の中に逃げたはずの敵兵がこちら側の兵たちに向かってくる。


(なんだ?

やる気でも出したのか……)


どうも様子がおかしい。

こちら側に喧嘩吹っ掛けようとしているなら、武器を持っているはず。

だが全くの丸腰で走ってきていた。

こちら側も急いで陣を立て直す。


「助けてくれー!!」


(ん!違う)


「あれは!!」


森の奥で地響きが鳴り響く。

木々の折れる音が聞こえる。

一人の兵士が森から出たと思えば何かに捕まり引き寄せられていった。


「うわあぁぁぁぁぁあ!!」


「陣を固めろ!!

何か来るぞ!」


逃げてくる敵兵を無視し、こちらの陣を立て直す。

姿の見えない何者かに皆怯えていた。


「ボス! これは……」


何やらおかしなことになってるのは確かだな。

契約は戦争に勝って終了しているが……


「やむを得ん。このまま去ったとしても生きているか分からん。」


「戦うんだな!」


ヴェルグスと仲間たちは剣を掲げる。


「我々は最強の傭兵団! 山猫である!!

ここで引く者は戦士ではない!!

この死地を乗り越え、 必ずや帰りを待つ女の元へ帰ろうぞ!」


「うおぉぉぉぉぉぉ!!」


怪物が近づくにつれて森が枯れていく。

どうやら会合する時は近い。


「ちっ!傭兵共が。

やつらに遅れをとるな!王国騎士団の力を見せてやろうぞ!!」


「うおぉぉぉぉぉぉ!!」


全ての兵が団結する。


そして森の中から赤黒い泥が溢れてきた。


「汚染された悪魔の犬か」


姿を現したのは泥に覆われた大きな犬であった。

悪魔の犬は見る影もなくどす黒く。

血脈のような模様が浮かんでいた。


『ウガアァァァァァ!!』


叫びとともに泥から黒い手が伸びてくる。


「あの手に捕まれたら食われるぞ!!」


「散れー! 固まれば格好の的だ!!」


一斉に兵が散る。

だが伸ばされた手はどこまでも追いかける。


「うわあぁぁぁぁぁあ!!」


「助けてくれー!!」


兵士がどんどん犬の口へ運ばれる。


「せやぁ!!」


「ふんっ!!」


山猫の傭兵たちは手に捕まれぬように立ち回り、

空中での身のこなしにより伸ばされる手を次々と切り伏せる。


「すげぇ!」


「あれが山猫の部隊……」


「こちらも負けてられるか!」


他の兵士も向かってくる手から逃げず切り伏せる。

そしてしびれを切らしたのか悪魔の犬自ら走ってきた。


「うぎゃあぁぁぁ!!」


次々と兵士を食い殺す。


「くっ、 ふおぉぉぉぉぉお!!」


その突進をヴェルグスが盾で抑える。

だが犬の爪がヴェルグスをとらえていた。


「まずい!」


「ボスゥ!!」


もう駄目だと思ったその時……


「あんたももう歳だな!……親父」


「ふん、やっと来たか。……小僧が」


青い髪をなびかせ、燃えるように赤い槍を構える。


「傭兵団 山猫が筆頭にして炎の青豹ルキウス!

押して参る!!」

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