#2走馬灯
悲鳴、サイレン、怒号が飛び交い、茫然と立ち尽くすことしか出来ない人。
なんと言えば伝わるだろう、この状況。女性がコンビニに突っ込んできた車の下敷きになっていて、女性の意識とともに命が消えて行く。つまるところ私だ。
不思議とわかるものだ、下敷きになりながら私は思った「これは駄目だ、私は死んだ」って。
一度諦めた後は早い、意識は遠のき、心臓も程なくして働くのを諦めた。
誰かの泣いてる声が聞こえる。そう思うと私は病室にいた。
病室で立っていた。
助かったのかと思ってけどすぐに気付いて思った。
「ああ、私、死んだな」
私はこの病院を知っている。
この懐かしさと窓の外に広がる嫌気がさすほどの緑を。
この病院は私の故郷、私が生れ育った島にある唯一の病院だ。
状況を飲み込めないが東京で事故にあい、こんな所に運ばれる訳がない。そう思った。
その時また誰かの泣く声がした、振り返ると泣いてる声の持ち主と女性がいた。
私じゃない。その女性は私じゃない。だけど泣いてるのは私だ。
まだ生まれたばかり、今の私のような可憐さはなくとも引き取らない愛嬌のある顔。
さすが私だ。そう思い、私に私が触れようとした時
私は浜辺にいた。海が夕陽に染まる中、私は浜辺で立ち尽くしていた。
見渡せば何となくわかってきた、今の状況が。この浜辺も私の故郷、島の浜辺だ。
時季の外れた誰もいない浜辺で一人の少女が何かを探すように浜辺を歩いている。
この時の少女はたしか4歳。
少女は立ち止まり、浜辺で何かを拾い上げる。
満足そうな顔の少女はまだこの後、自分がどうなるかを知らない。
「あきよぉー!!!!」低い怒鳴り声が浜辺に響く、少女は驚くが私は何も驚く事はない。怒鳴り声の持ち主は少女の父親。
少女を叱り付け、少女を抱いて浜辺を去る。
私は懐かしさと共に少女の父親の若さに感銘を受けていた。
もうわかると思うがこの少女も私だ。
4歳の時、キレイな貝殻をテレビで見た私はどうしてもその貝殻が欲しくなり、そのまま家から飛び出し浜辺まで歩き貝殻を探した。
そして父親に捕まり連れ戻されたあとも私はこっぴどく怒られた。
だけどその時見つけた貝殻は島を出るまで大切に持っていたし、怒られたけど全く後悔はしてない。
また場面が変わった。
引き続き浜辺にいる私だが、この時はとっくに陽が落ちていたようだった。
ど田舎らしく真っ暗で都会暮らしには辛い浜辺で少女が打ち上げられていた。
びしょ濡れで浜辺で横たわる少女は何かを諦めたようにため息をつき浜辺を去った。
このびしょ濡れの少女も私なのだが何歳の時かはわからない、見た目的にはおそらく10〜13歳?くらいか。
年齢は分からなくてもこの時は私が何をしてたかはわかる。
笑われるかもしれないが、私は島を出ようと本土まで泳いで行こうとしたのだ。
たしかに浜辺からうっすらと本土が見える。
だけどこの浜辺から本土までいったい何キロあるのか、この時の私も知らない。
「なんて馬鹿な事を」そう思うがこんな事をしておきながら当時の歳を覚えてないのは理由がある。
私は同じことを何度かやっていた。それも数年に渡って。
私は理解した、これはきっと走馬灯。
「私、やっぱり死んだのか」そう呟いた時
「あなたは何で島を出たかったのですか?」
突然、誰かが私に問いかけた。