#1ご都合乙女チック運命論
「カフェもない!カラオケもない!おまけに職もない!あたしはこんな島嫌だあー!!!」
日本の離島で澄んだ星空に少女が叫ぶ。黒く長い髪と、整いながらもどこか垢抜けないガキの顔の少女。というか私だ。
人口300人位で、学校も小中はあるけど高校は隣の島にしかないし、だから普通は高校からは隣の島まで通学しなきゃいけない。
褒めようとして、どんなに頭をひねっても空気が澄んでるとか、景色がきれいだとか、そんなある程度の田舎ならどこにでも言えるような事しか思い浮かばない。
そのくせ、離島なもんだから著しくアクセスが悪い。
だからこれといって観光名所にもなりきれないような島で、私は「神谷明代」として生まれ育った。
いつもと変わらぬ夜、いつもと変わらぬ景色なのに、日に日に増していくフラストレーション。
何か特別なきっかけがあったわけじゃない。
「明日、島を出よう、東京に行こう」そんな事毎晩思ってた。
だけどその日はたまたま早起きができて、たまたま本土への船がすんなり取れたのだ。
それが運命だとその時の私は思った。
今はそれがただの偶然だと分かる、ただその偶然をその時の私は運命と呼んだだけのこと。
だがそんな思い込みの運命の赴くままに、人生を突き進む彼女の瞳は輝き、空を見上げていた。
それから12年。
新宿の嫌になるほどの人混みの中、行き交う人達が何かを腫れ物の様に避けていた。
そこには土下座する男とそれを鋭い目で見下す女がいた。
髪は長くインナーカラーをいれて、変わらず整った顔立ちではあるがはるかに垢抜けていた。まさに容姿端麗の美女。
というか私だ。神谷明代だ。
私の前で地面に頭を押し付けて哀れな感じの男は、私が立ち上げたファッションブランドでのビジネスパートナーであり、不覚にもついさっきまで恋人だったクソ野郎。
哀れな路上パフォーマンスを続けるカスの横を素通りし、私は立ち去ろうとした。
するとその虫ケラは「結局金目当てだったんだろ!このクソ女!!」と怒鳴る。
しかし私は虫ケラがなんて鳴いていたかなんてわかるはずもなく、その場を後にした。
私は島を出た時、それが自分の運命だと本気で思ってた、だとしたらきっとこの別れはもちろん、この後のことも運命、あの時の私ならそうなるんだろう。
酷く都合いい乙女チックな思考だけど、この時の私もそのご都合乙女チック運命論を求めてたんだと思う。
私の人生は私が主役、70億人のモブキャラと主人公の私の物語
島で夢を抱くだけの少女は全てを求め、努力し、行動した。その結果、今も私はここ〈東京〉にいる。
そしてこの先もきっと私は運命の赴くままに突き進むんだろう。
私がこのご都合乙女チック運命論がただの偶然だとわかるのは、まだ後の話。
ひとまず話が進むのは、そう私が 「死んでからの話」
深夜のコンビニに一台の車が突っ込んだ。車はペダルを踏み間違え、猛アクセルでコンビニに突っ込んだ。不運にもガラスや棚を破壊した車の下敷きになった女性がいた。
というか私だ。