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黒の魔剣士

 降りしきる雨粒が、防水コートを着ている身体を強く打ち、そこからじわじわと体温を奪われるようだった。


「ううっ」


 横腹を片手で押さえ、痛みと冷気に震えながらも、セスはフレニムを地面に突き刺し杖がわりにして立ち上がった。

 歯を食い縛り、彼が殺気を向ける先には曇天を背負う闇色の髪と瞳の男がいた。


 30代だろうか、その男もまた剣を握っていた。

 男に合わせたかのように、柄も刀身も剣から滲む魔力さえ闇色の魔剣だった。


「弱いな、それで最強だと?」


 嘲るよりも事実を述べただけとばかりに、男の口調は淡々として感情を見せない。ヒュンと魔剣で宙を切れば、刀身からセスの血と水滴が飛び散った。


「フレニム…………落ち着け、フレニム」


 手に持つ魔剣がキイイイと甲高い音を立てるのを初めて聴いた。ガタガタと刀身を震わせ、赤い焔のように魔力が噴き出していた。今にも飛び出しそうな魔剣を、セスは懸命に宥めようとしていた。


「どうしたんだ?」


 これは怒りだろう。この赤い魔剣は怒りで我を忘れている。


「フレニム、突っ走るな。俺を忘れるなよ」


 気を抜けば手をすり抜けて突撃しそうな愛剣を目にして、逆にセスは冷静さを取り戻しつつあった。ズキズキと斬られた腹が痛み、脂汗が雨と共に顎を伝う。


 黒い魔剣士。

 目の前の男は、セスの父親を、生まれた育った地を、思い出を、今までの自分の生き方さえも奪った仇だ。


 ようやく見つけた!


 カッと血潮が上り、勢い込んで奴に斬りかかったはいいが、最初の一手で腹を斬られてたら話にもならない。


 痛みを逃すように短く呼吸を繰り返すセスを眺めていた男が、ちらりと自らの黒い魔剣を見やった。


「喜んでいるのか、カザルフィム」


 剣から生じる魔力の闇が、呼応するかのように持ち主の腕を辿り二の腕までが黒い(もや)に包まれる。


「カザル…………」


 男の言葉を反芻したセスだったが、フレニムの力で柄を握る手が外れそうになり、慌てて両手で押さえつける。


「落ち着けって!」


『彼女』だけでは男は倒せない。魔剣は、持ち主と魔力を合わせて初めて本来の力を発揮する。以前盗賊に捕まった時には、呼び掛ければ飛んできたことがあったが、魔剣自身の魔力では数秒飛ぶのが精一杯。

 何度か試したので、確かなはずだ。


「楽しみはとっておこうじゃないか、なあカザルフィム?」


 そう言った男が魔剣の先を地面に軽く触れさせて「我が下僕共よ、生まれ出でよ」と唱えると、いきなりその剣の周りから湧き上がるようにして魔物が出現した。


 人間の三倍はある青い猿のような魔物が5体。血走った目をして涎を垂らし、二足歩行でゆっくりと彼に迫ってくる。


 村を襲った魔物!

 既視感に、セスの背にゾワリと寒気が走る。


「待て!」


 魔物の後ろにいる男が、そのまま背を向けて立ち去ろうとするので、追いかけようとしたセスだったが、思うように身体が動かずに膝をついた。


「この………待てって言ってるだろうが!」


 振り返ることもなく雨に消えていく姿に、セスは叫んだ。


「くそ!」


 ようやく見つけたというのに!


 だが悔しがっていても埒があかない。傷付いた身体、暴走するフレニム、今にも自分を喰らおうとする魔物たち。


「フレニム、おい!」


 両手で構えようとすれば、左右に振れてしまう魔剣。冷静さを失った『彼女』では、迫りくる魔物すら倒せない。


「………くっ」


 膝をついたまま、セスは咄嗟に地に垂直にしたフレニムを両手で胸に抱えた。


「フレニム…………フレニム」


 生き物のように強く抱きしめて、何度も名を呼ぶ。両刃が(かす)った腕から幾筋か血が滴るが、セスは離さない。


「フレニム、おまえだけが頼りなんだ。だから頼む…………俺を使えよ」


 止まない雨音を震わせて、魔物の低い唸り声が近づく。

 セスは覚悟して、目を閉じた。

 死んでもフレニムを離さないつもりだった。








To be continued

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