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終わりを迎えた魔剣

 魔物を何百体斬り伏せたか、セスにはもう分からなかった。どの位の時間が経過したかも定かではない。数時間なのか、あるいは一時間も経っていないのかもしれない。


 ただひたすらフレニムとセスは魔物を斬り続けた。その先に一度は近付くことができた男が、微動だにせず立っているのが垣間見えた。


 セスは先程のように近道を考えず、邪魔な魔物を全て倒すことにした。ヘゼルスタが魔物を出現させるよりも早く斬り伏せていたら、次第に魔物の数は減っていった。

 そして徐々に黒の魔剣士との距離が縮んできた。


「うっ」


 魔物の爪が牙が、またセスに傷を作る。傷口から血が盛り上がり流れ出しそうになるが、フレニムの治癒魔法により流れる前に傷が塞がれてしまう。魔物の中には毒持ちもいただろうが、その効果によりセスが倒れることはなかった。セスには良く分からないが、フレニムが傷を治癒して毒までも消し去って、尚且つ魔物を倒す為に魔力をフル稼働しているとしたら相当なことだ。


 それは今までの彼女の戦闘経験で培った器用さと、セスとの魔力の相性諸々なのだろう。

 最強と名高いフレニムが、言うなれば全身全霊を懸けた戦いなのだとセスは戦う最中にひしひしと感じ取った。


 反面、異常な高揚感と興奮は続いている。自らの意思を強く持たなければ狂戦士(バーサーカー)にでもなるかもしれない、とセスは内心笑った。

 彼女を振るって共に戦うことは、出会った瞬間に決まっていた。こうして戦っている間も、フレニムは最初から自分の剣だったことが当たり前のような気がしている。

 気分の高揚感のせいかもしれない。だが今こうしていることは運命だったと自分の深いところが告げていた。


 それは紛れもない歓喜。


「ああ、おかしくなってるな」


 一度止まれば、魔力の大量消費で自分は動けなくなる。だからセスは戦いに身を委ねて止まれない。


 残り三、四十体ほどだろう。

 セスはフレニムを横手に薙いだ。途端に、魔物達は一度に燃えて灰になっていった。


 一気に間合いを詰めたセスは、ヘゼルスタに剣を振り落とす。


 スルリとかわされるのは想定内。そのまま下げた剣で脚を狙えば、剣で受けられる。


「っ…………」


 ギリギリと力を込めれば、受け止めていたヘゼルスタが一歩、また一歩と後退し出した。


 何度か剣を交えて分かったが、やはりだ。

 操られているヘゼルスタの身体能力自体は人並みだ。力はそれほど強くない。おそらくは魔剣によって敏捷性や跳躍力を一時的に上げられているのだろうとセスは推測した。

 相手がただの死人で操られているだけなら勝てる。厄介なのは魔剣だ。


 これをどうにかしないと。

 手首を切ってカザルフィムを離したいのだが、相手も自分の意図に気付いているし、同じ轍を踏んでこちらが死にかけるのは二度は御免だ。


 何度も斬り結び、相手を追い込む。だがそれだけ。

 互いに浅い傷を作るが、同じ速度で治癒していく。


 無心になって剣を振るっていたが、身体全体が軋み重くなっていった。


 この戦いに終わりはないのか?

 そんな不安がよぎった時、魔剣カザルフィムの黒い魔力が急に噴き出した。


 同時に下がる一方だったヘゼルスタが、グイッと前に身を乗り出すようにしたと思ったら、フレニムに黒く輝くカザルフィムを勢いよく打ち込んだ。斬るというよりも叩き付けるような動作にセスが違和感を覚える前に、既に終わりを迎えていた。


 その場に澄んだ音が長く響いて鼓膜を震わせた。


 魔剣フレニムの美しい刀身に無数の細かいヒビが走り、粉々に飛び散った。


「ああああああっ!!」


 心臓を切り裂かれたように胸が痛み、セスは自分が叫んでいるのも自覚していなかった。


 ただ、フレニアの声が聴こえた気がした。


『止まらないで!』と。


 だからセスは考えるよりも先に、彼女を失った手を突き出した。

 ヘゼルスタが自分の腹を突き刺した魔剣を奪うために。


「ぐ、あああ!」


 ガシッと両手で自分に刺さっているカザルフィムを掴み、渾身の力で引っ張った。決して浅くはない傷から血が流れても、セスは力を緩めなかった。


 予想外の行動に驚いたのだろうか。ヘゼルスタの手が柄から外れて、セスは腹に剣を刺したままフラフラと後ろに下がった。


 刀身を掴んだ為に、カザルフィムはセスの手と腹からの血で赤く染まっていた。


「カザル、フィム。貴様の使い手は、今、俺になった」



 

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