表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/56

愛想を尽かした魔剣

 次の日の早朝、リラの案内でセスは山を登っていた。


「どこまで行くんだ?」

「あと少しです」


 どんどん前を進む彼女は休みもしない。こんな危険な場所に、まるで通り慣れているようだ。

 セスの装備は最低限だ。動きやすい服の上に、肩と肘と脛にレザーの防具を当てて籠手を着けただけなので、体が重くて息切れを起こすようなことはない。程よく筋肉のついた体は、剣士として何年も生きてきた証だ。


 急斜はそれほどなく、道が整備されていて歩きやすい。上に行くほど木々は少なくなり、ところどころ岩肌が見えた。


 はっきり分からないが中腹あたりだろう。木々のトンネルを抜けたところで視界が急にひらけた。

 山の中にこんな所があったとは。切り立った崖に囲まれた赤茶色の山肌が広がり、海岸にでもいるかのように錯覚する。


 リラが立ち止まると、セスに向けてニヤリと悪そうに笑んだ。


「ようこそ盗賊の根城へ。間抜けな魔剣士さん」


 彼女の背後、岩の影や崖の上に盗賊らしき男たちが次々と姿を現した。その数は40人ほどだろうか。

 セスの後ろにも、いつの間にか大柄な男が退路を塞ぎ、リラに顎をしゃくった。


「よくやったな、リラ。あとはいつものように任せな」

「ああ、親父。たんまり持っているといいな!」


 口調も態度も変えたリラが、頭らしき父親に応えて盗賊たちの後ろへと離れた。


「はは」


 苦笑したセスが、フレニムに手をかける。


「なんか嫌な感じはしたんだよなあ」


 どこかのんびりした様子のセスに、頭がダガーを手に警告する。


「どうする?大人しく身ぐるみ剥がされるか、死んでから剥がされるか、どちらがいい?」

「うーん」


 渋々といったふうに、セスがフレニムを鞘から抜いた。


「フレニムは渡せないなあ。彼女は、やっと見つけた俺のだからな」

「そうかい」


 はっ!と頭が嗤った。他の盗賊たちも下卑た嗤いを上げる。


「魔物には慣れた剣士様だろうが、この人数で余裕こいてられるかな?」

「親父!そいつの剣は魔剣だ、気を付けな!」

「へえ、それは尚更価値がある代物じゃないか!野郎共、やっちまえ!」


 各々の武器を持った盗賊が、頭の合図でセスに飛びかかる。

 マジな顔に変わったセスが、愛剣を斜め上部に振りかぶった。


「フレニム、行くぞ…………って、あれ?」


 ************************************************


 〈はい知らなーい。もう知らなーい。可愛い女の子に釣られて、やって来たあなたが悪いんだからね〉


「フレニム、どうした?!」


 私は、だんまりを決め込んだ。

 いつもなら抜き放った刀身から焔のような魔力が吹き出て、やる気を見せる私だけど、今は無反応。


 セスは私に怪訝そうに声を掛けていたが、盗賊たちの武器が振り下ろされて慌てて私で受け止めた。そして返す刃で、相手に斬りかかる。


「痛て、なんだ?」


 ガツッとぶつかった音がして、盗賊の男が自分の腕を見るが斬れていない。


「こいつは………」

「ええ?フレニム?!」


 目を丸くしたセスが、思わず刀身に指を添えて確認する。


「ははは!何だ、斬れてねえぞ?これは大した魔剣だな?」


 嘲笑が漏れる中、セスは「どうしたんだ?」と私に問い続ける。その間にも襲いくる盗賊を私でボコボコと叩くが、彼らにあまりダメージは与えられていない。


「俺が何かしたか?怒ってるのか?」


 〈だんだん焦ってきたわね、良い気味だわ〉

「フレニム……………マイ・レディー」

 〈ご機嫌取ってもダメよ。少しは痛い目見ることね〉


 眉尻を下げて困ったように私を見つめるセスに「そうと分かれば………おい!」と頭の合図で複数が同時に飛びかかった。


「うあ、ぐっ!」


 手慣れた素早さで、縄で後ろ手に縛られて転がされたセス。

 うん、可哀想だわ。


「こんなの持って、おまえ本当に剣士なのか?」

「あっ、返せ!」


 頭がセスの手から私を奪い取ると、可笑しそうにしげしげと眺めた。


「こんなんで値が付くのか?」

「でも刀紋は綺麗だし、赤みがかかっているのは珍しいと思いますよ」

「鞘もなかなか凝ってる」


 盗賊たちが私を値踏みするのを、身ぐるみ剥がされながらセスが睨み、叫んだ。


「俺の物に触るな!」

 〈だ、誰があなたのモノよ!あ、私、物だったわ。でも私が選んであげたんだから、そこんとこ間違えないで!〉

「やめろ!汚い手でベタベタと、フレニムに手垢がつくだろ!彼女が穢れる!」

 〈いや、言い方!〉

「せっかく俺が隅から隅まで丁寧に磨きあげたフレニムを!おまえたち、寄ってたかって何てことを!」

 〈いやもう、あなたが何てこと言ってるの?!〉






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ