表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/56

魔剣盗難3

「おい、起きろ!」

「う…………」


 顎を掴まれて上向かされ、フレニアは目を開けた。ズキズキと腹が痛み、顔をしかめて辺りを窺えば屋内のようで柱にくくりつけられていた。

 室内は魔法石の灯りが一つだけで薄暗く、小さな窓の外は真っ暗なので、まだ夜なのだろう。朧な灯りの中で壁紙が剥がれたり、床がへこんだり穴が開いていたりするのが見える。廃屋だろうか。外で吹く風にガタガタと窓が軋んで音を立てていた。


 顎を掴む男は知らない男で、その後ろにはジャンともう一人男がいた。


「あまり手荒く扱うなよ」

「とか言って、腹殴ったくせに」


 ジャンが不快そうに言えば、隣に立つ男が鼻で嗤った。


 ここは何処だろうと思ったが、それを知ったところでどうでもいいことだ。自分が本当に帰る場所は失われたのだから。


「しかし、こんな美人が剣になるなんて本当なのか?どう見ても人間みたいだぞ?」

「きゃあ」


 顎を掴んでいた手が移動して、無遠慮にフレニアの脚を服の上から撫でさする。


「触らないで!」


 身を捩り、いやらしい笑みを浮かべる男から思わず顔を背けた。嫌悪感で吐き気がする。


「おい、やめろ。俺は剣を売りに来ただけだ、女が嫌がるのを見たいわけじゃないからな」


 ジャンが語気を強め、フレニアへと声をかけた。


「あんた剣になってみせろよ。そうすれば何もされないだろ」

「よく言うわ!私を売り飛ばす気なんでしょう?」

「そうだが、俺が売りたいのは魔剣だ。セスにはすまんが、ちょいと借金がかさんで身動きできないんだわ。だからさ、あんたには魔剣として俺を助けて欲しいんだ。別に持ち主が変わるだけだからいいだろ?」


「…………………嫌」


 今剣に変われば、箱か何かに詰められたら直ぐに分からなくなるだろう。数秒動けるかもしれないが、それで果たして事態が打開できるかどうか。


「嫌よ」

「何意地張ってんだ?女の姿でいるより剣の方が」


「まあいい、ほらよ」


 立っていた男が、ジャンの手に金の入った袋を乗せた。


「この女かなりの値打ち物だ。魔剣かどうかは怪しいが、高く売れるだろうからこれで手を打ってやる」

「………………これだけか?」

「ああ!?品物が違うんだから妥当だろうが!」


 袋の中を覗いて不服そうなジャンに、二人の男が睨みを利かせる。すると彼は口を開きかけはしたものの、諦めたのかすごすごと引き下がった。どうやら二人はそれなりに腕っぷしに自信があるようで、魔物を退治していたジャンの方が気圧されていた。


 フレニアは、そうしたやりとりをする彼らを醜いと思った。売り渡されることなんて怖くもなんともない。昔の残酷な記憶の前では取るに足らないこと。ただ、腹立たしかった。


「………………つまらない人間達」


 しつこく脚を触っている男に、ペッと唾を吐くとこめかみの辺りに掛かった。


「この女!」

「斬り殺すわよ」


 怒って拳を振り上げる男に、フレニアは良く通る声を張り上げた。


「私を殴るの?おまえが私を殴る前に、剣になった私がおまえを斬るわ」


 キッと睨むと、男が怯んでいる。


 無力で抗うこともできなかった自分が、フレニアは心底悔しくて嫌いだった。それなのに100年も掛けて変わらなかったら、兄にがっかりされてしまうだろう。


「くっ 」

「汚い手で触らないで。私は魔剣だけど意志を持つ。使い手は自分で選ぶのだから、おまえ達の勝手にはさせない」


 セスが生きている限り、魔剣フレニムの使い手は彼だけだ。エレノアとの別れを記憶している自分が、どれほどの気持ちで彼を選んだか自分以外は分かるまい。


「お、俺はもう行くからな」


 ジャンが逃げるように後退り戸口を開けようとしたら、開いた隙間から手が伸びた。


「あ、ぶっ」


 顔面にパンチを喰らったジャンは、更に勢いよく開けられた戸にぶつかり床に仰向けに転がった。


「フレニア!」


 入って来たセスが、柱に縛り付けられているフレニアを見つけて呼んだ。


「大丈夫か?!」

「……………セス」


 丸腰のセスを目にして、フレニアは薄桃色の唇を少し震わせた。


 来てくれるとは思ってもみなかった。


「どうして来てくれたの?」


 問えば、セスは何言ってるんだという表情をした。


「どうしてって……………」


 ゆっくりと一語一語を噛み締めるようにセスは答えた。


「君という人間が、必要だからだ」













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ