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名も無き魔剣の最期3

「名前は何て言う?」

「あ、あの、ルツです」

「ルツ、両親はどこにいる?」

「母さんは弟と家にいます。父さんは、ずっと前に病気で死にました」

「一人で船に乗ったのか?ちょっと待ってろ、船員に連絡して保護してもらうからな」


 海水を被って濡れた服を着替え、船のテラス席についたセスとフレニアは、魔剣を持つ子供を挟んで話をしていた。

 椅子から立ち上がり船員を探そうとするセスに、子供が慌てて彼の服を掴んで引き止めた。


「え?!……………いえ!違うんです!僕迷子とかじゃなくて自分で乗ったんです」

「家出か?」

「違います!母さんは知ってます、僕を送ってくれました」

「訳有りみたいだな……………」


 船客の視線を常に感じるが、セスは素知らぬ振りをしてルツに質問していた。魔剣を持っているだけでも好奇の目に晒されるのに、大っぴらに皆の前で魔物と戦ったりしたのだ。加えてルツの存在も気になるのだろう。

 おまけに…………いやこちらがメインか。美しいフレニアは注目の的だ。


 だから顔を隠させていたのに。


 船の修理で鋸や釘打つ音が賑やかに聞こえてくる。かなり大きい船であったのと短時間での戦闘で被害が少なかった為、破損はあるものの航行に支障はないと、先程船長の説明があった。


 肩までの銀髪を靡かせたフレニアは、ルツの魔剣を触っていたが、さっきから会話に入ってこない。


 陽を浴びて少しだけ俯いた横顔が、以前見た彼女自身の絵画のように現実離れした美しさで、つい見とれたセスはルツと話していたことを忘れてしまった。

 桜色の唇をきゅっと閉じて、白磁の肌にほんのり薔薇色の…………膨らんだ頬?


「フレニア、ど、どうした?」

「………………ふーん、だ」


 どうやら拗ねているらしい。『ふーんだ』って、100年の歳月を渡ってきた人間とは思えない台詞だ。

 もしかしたら、王女という身分を取ったフレニアの、これが素なのかもしれない。

 セスはムスッとする彼女を観察して、そんなことを思った。


「何か俺がしたか?」


 魔力の相性が高くなったことに関しては、互いに触れないでいる。これは精神的に互いの距離が縮んでいる証だろう。だが口にすると、何だか恥ずかしい。

 ま、別に体の相性のこととかじゃないんだが………って俺は!


「あー、ところで姫さん。魔物って年々増えてきてるように思わないか?昔は海に魔物がいることなんて無かったのに」


 何を考えてるんだ俺は。セスは、わざとらしく話題を変えた。


「昔ですって?100年前は魔物なんて全くいなかったからね」

「え?全く?」

「当然でしょう。全ての魔物は、あの魔剣が造り出しているのだから」

「そうなのか?」

「私の話聞いてなかったの?今までの話をしっかり頭に叩き込んでいたら分かるわよね?」


 余計にご機嫌斜めになってしまった。


 そこへウェイターがやって来て、三人の前に皿を並べた。


「……………これは?」


「魔物を退治していただいた皆様に船長からサービスです」


 ………………なぜ、イカ墨スパゲッティなんだ?


 フレニアが黒い料理を前に、固まっている。黒いスパゲッティの所々に白くリング状のものが見えるが、まさかな。


「そ、そうか。ありがとう。ちなみに聞くが、これはイカ………だよな?」

「ハハ、勿論イカですよ」


 朗らかに笑うウェイターに、あの魔物のイカではないかと疑ってしまうのはタイミング的に仕方のないことだ。いつもはフレニムに燃やしてもらって浄化してもらうのだが、「魚の餌となれ!」とキメテしまったので、海中に魔物のバラバラ死体浮いてるんだよな。まさか拾ったりして「俺達の餌」とか…………あり得ないよな?


「お好きだと聞こえたので、召し上がって下さい」

「そうだったかな…………ハハ、ありがたくいただく」


 ウェイターが去っていくのを見届けて、そっと強張る表情のフレニアへ目を向ける。


「無理、するなよ」

「私は、逃げないわ」


 フォークを握りしめて、目尻に雫を湛えた姫は自分に言い聞かせるように呟いた。


「もうどんなことがあっても、私は背中を見せないと誓ったの。立ちはだかる壁には、絶対に立ち向かうと」

「いやあ、そこまで……………」


 セスが少々気圧されている間に、目を瞑ってパクッと一口食べるフレニア。続けてルツも勇気を振り絞って食べ始めた。


「大丈夫か?」

「ええ、私は泣いたりしないから」


 思ったよりも美味しかったのだろう。二人とも黙々と食べているので、セスもフォークを手に持つ。


「セス」

「ん?美味しいか?」

「……………戦闘中、私……………フレニムに口づけたわよね?」

「あ」


 口のものを食べてから、目線を合わせずにフレニアが言って、セスは彼女の拗ねている理由が分かった。


「つ、つい調子に乗ってしまった。ところで俺が口づけたのは、その、どこにあたるんだ?」

「股」

「え?」

「脚の付け根」

「………………え?」


 頬を染めたフレニアが、恨めしそうにセスを睨んだ。


「だから恥ずかしい部分なの!」

「知りませんでした!ゴメンナサイ!うああ」


 手からフォークを落として、間髪入れず頭を下げるセス。


「あ、あの、僕の話聞かないんですか?」


 困惑したルツが、遠慮がちに声を上げた。







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