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名も無き魔剣の最期

 

 深い蒼色に白い波が立って、次第にそれは大きくなり船が左右に揺れた。先程まで穏やかな海だったのに、黒い影が下から海面に上がってきて次第に大きくなっていく。それは船のすぐ近くだった。


「クソ!来やがった!」


 見張りの船員が双眼鏡を片手に悪態をつく中、目撃した客達が悲鳴を上げて逃げ惑う。


「魔剣士殿!」

「ああ、今行く!」


 甲板に躍り出たセスは、激しく揺れ始めた船の縁を掴み衝撃に備える。

 最近になって魔物が出没する航路があった。船が度々襲われ沈められる被害があり、頭を悩ました船乗り達の依頼で彼はここにいた。


「言っておくけど、厨二設定はいらないから」

「ん?ちゅうに………何だ?」

「そう………無意識なのね。廃れた文化は、こうしてひっそりと受け継がれていくもの。うん分かってる分かってるわ、私の存在こそが厨二設定だということは………ま、待って、大丈夫だから」


 セスの横にはフードを被った女がいて、支えようとする彼の手を振り払う。


「何ぶつぶつ言ってるんだ?いいから掴まれ」

「きゃ」


 助けられることも自分には許されないのだとばかりに拒むフレニアに、セスは内心苛立ちを感じていた。強引に彼女の腰に腕を回して引き寄せれば、バランスを崩してフレニアはセスの腕に思わずしがみついた。


「け、剣になるから!」

「まあ待て」


 触れた腰の細さに驚きつつも、セスは波しぶきを上げて海面から姿を現した魔物を見上げた。


 舳先に巻き付いた触手が、うぞうぞと動き回る。他の船員が銛で突こうとするが、分厚い触手には文字通り刃が立たない。


「でかっ」

「これを…………斬れと」


 巨大なイカ…………クラーケンの目がギョロっと二人を映した。


「……………深海に棲むという珍しい巨大イカの発見なら研究者が小躍りして喜ぶわ。これ本当に魔物だと思う?」


 微妙に苦い表情のフレニアの言葉に、セスは何を今更と首を傾げた。


「魔物だろ!」

「貴重なイカなら傷を付けない方が良いと思う!綺麗に標本にして博物館に寄贈すべきだと思うわ」

「………………もしかして斬りたくないのか?」

「ぐにゃぐにゃしてるもの!私の時代はイカを食べる文化は無かったわ!」

「剣になった君には、美味しく感じるかもしれないぞ?ちなみに俺の住んでいた地域ではイカを食べてた…………これが結構美味しいんだ」


 何百もの魔物の血肉を啜ってきた魔剣が、よもや好き嫌いがあるとは思わなかった。


「試食してみなよ………っと!」


 クラーケンの重さで船が傾き、嫌が否でもそちらへとズルズル脚が滑る。悲鳴を上げて、幾人かがクラーケンの待ち構える元へと滑り落ち始めた。


「出番だぞ、フレニム」

「だからそれが厨二だって!」


 体から光を発して瞬く間に魔剣へと変じたフレニアを、セスが掴んだ。


 セスはフレニムの柄に唇を押し当てると、いつもするように囁いた。


「さあ食事の時間だ、マイ・レディ―」


 片手で掴んでいた甲板の縁から手を放し滑るに任せて、両手でフレニムを構えた。





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