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ベガラナの悲劇

残酷描写あります。

「無礼者!姫様の居室に無断で入るとは!」

「メリノ」


 フレニアよりも早く動いたのは、近くにいた乳母だった。数歩前へ出て厳しい声を出すが、カザルフィスは表情を変えることなくフレニアに近づいてきた。


「待ちなさい!即刻っ」


 彼はフレニアを見つめたまま、スッと軽く人差し指を乳母に向けただけだった。


「きゃあああ!メリノ!!」


 血を吐いたと思ったら、床に倒れたメリノは既に事切れていた。

 後退するフレニアの前に、悲鳴に反応した防御魔法が展開し光の膜のようなものがカザルフィスの行く手を阻む。

 詠唱を口ずさみながら、それを蜘蛛の巣でも払うかのように簡単に消し去っていく彼を見ていることしかできない。


 カザルフィスがフレニアの為にと仕掛けていた防御魔法。本人が消せて当然だ。


「あ、あなたは、どうして?何が目的で?」

『目的はフレニア、おまえだ』

「わた、し?」


「姫!!」


 異常を察し飛び込んできた近衛兵が、彼へと剣を向け取り囲んだ。


「城にかかっていた警戒魔法を、誰にも気付かれず突破したと………!?」


 問おうとした兵だったが、その魔法もカザルフィスによって成されたことだと思い返したのか途中で口を閉ざす。

 彼の杖が無造作に床をトンと叩く。たったそれだけで、糸が切れたかのように次々に兵が倒れていく。


 魔力が以前の彼の比ではない。それに彼は、こんな簡単に人を傷付けたりしなかったのに。


「姫様、早く!」


 呆然としていると、二人の兵がフレニアを支えて部屋から連れ出した。

 背後からは、彼女の盾となった者達の悲鳴が耳に届き、その度に胸が抉れるようだった。


「こっちだ!」


 城のホールにはヘゼルスタがいて、妹を兵から受け取ると、自分と彼女の額に小さな魔方陣を指で描いた。


「目眩ましだ。お前達は逃げろ!」

「ですが!」

「あいつには勝てない、行け」


 そう言って兵を送ると、フレニアの腕を引きホールを横切り国王の私室を目指す。


「フレニア、気をしっかり持て」

「………あ」


 一度肩を強く揺さぶられ、フレニアは兄へと目を向けた。


「ち、父上は?」

「警戒魔法が破られたのに気付いて、俺が脱出用魔方陣で避難させた。皮肉だな、どれもこれもがカザルフィスの仕込んでいた魔法だとは」

「……………カザルフィス」

「もうカザルフィスじゃない。あいつは事故で死んだんだ。今のあいつは魔物だ」

「ああ!なんてこと」


 吐き捨てるように断言したヘゼルスタの視線の先には、壁に寄り掛かるようにして死んでいる兵がいた。兄に頭を抱えられるようにしてそこを通りすぎる。

 靴が血溜まりを滑り、ピチャリと音を立てて、彼女は身を震わせた。


 国王の私室に入り、フレニアとヘゼルスタは備え付けられた魔方陣を動かした。


「行くぞ、皆が時間を稼いでくれている。急げ!」

「もしや、私の為?そんな」


 ショックで混乱しているフレニアを、舌打ちしたヘゼルスタが強引に肩を押して魔方陣に立たせた。


「皆の為にも、逃げるんだ!」


 白い光を浴びた直後には、そこは灰色の空から雪の降っている森だった。


「父上と兄上は?」


 素早く魔方陣の痕跡を消したヘゼルスタが辺りを見回すが、雪がしんしんと降り積もっていくそこには足跡もない。しばらく探していたが別の場所に移動したのかもしれないと判断し、暗くなる前にここを離れたほうが良いだろうと、二人は国境を越えて隣国へと飛翔魔法で渡って行った。


「城はどうなっているかしら?皆は無事でいる、よね?」

「分からない」

「カザルフィス、私を迎えに来たって言っていたわ。なぜ?」


 怯えている妹に、ヘゼルスタは険しい顔で告げた。


「…………………フレニア、おまえを安全な所へ送ったら俺は戻る」

「え?」

「国一番の魔法使いだったカザルフィスを野放しにはできない。あいつは危険だ。それに皇子として国を守らねばならない、。おそらく父上達は…………」

「兄上?」

「何でもない。おそらくあいつは、おまえを狙っている。だから身を隠しているんだ」

「私を?」


 白い綿雪がフレニアの銀髪に絡まりキラキラと輝く。こんな時なのに最上級の宝石のように美しくて、ヘゼルスタは妹を憐れんだ。


「………………カザルフィスは、ずっとおまえに恋心を抱いていた。知らなかったのか?」


 ****************************


 隣国に身を置いた二人だったが、『重大な報せ』が数日もしない内に瞬く間に他国へと広がった。それは二人を母国へと引き返させるには十分なものだった。


 即ち、『ベガラナは無くなった』と。


「あ、あああああ!!嘘、嘘よ!いや、いやあ!!」


 城も家も森も、そこに息づいていた全ての命も存在しなくなった真白い大地。

 ただそれだけが彼方まで無情に広がる虚無の国。


 力無く膝を折り、さらさらと風で流れる砂を掴んだフレニアの慟哭が響いた。



























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